「楽進様はいつも戦場で一番槍を立てていますが、怖くはないのですか?」
深く塗り潰された目が自分を見据える。どういう意図を持って訊ねるかわからないが、自分はただ怖くないとだけ答えた。
「……楽進様はお強くていらっしゃる」
髪を半円を描き後背を見せる。いつも鬱いだ面持ちの彼女が今どんな心境で居るか、幾度となく顔を合わせても掴めないでいた。風が吹く。鼻先を掠めたのは彼女の衣に焚き染められているとおぼしき松香の匂い。
「わたくしにはあまりに眩しすぎて、到底目を合わせられません」
鬱々と悲しげに吐露する。背中を隠すようにして伸びる髪が動く。振り向いた彼女の柳眉は均され、自分を捉える両目はやはり何処までも深い色をしており、心情までは見通せない。鏡のようだ、と思った。
「いつか目の前から消えてしまいそうで……」
細い声が喉を震わす。消えてしまいそうなのはあなたの方だ、と返したかったが、途端こちらに歩み寄った彼女の行動に口を噤む。
「わたくしの目は光を映せない。だから守ってください。光から、死から。楽進様……」
か細い声が振動する。目のふちに揺蕩う涙がはらはらと頬を伝い、彼女の衣を濃く変色させていく。拭った涙はほんのり熱を持っていた。華奢な指が自分の手に絡みつく。指の冷たさに心臓が不自然に跳ねた。
「こわいのです。おそろしいのです。死も光も」
何故そこまで怖がるのかと訊ねる。
「等しく自分から奪っていくものだから」
さめざめと泣く彼女に困惑を覚えた。死を恐ろしいと思ったことも、光を怖いと感じたこともない。だが彼女は恐ろしいのだと言う。なんと返して慰めてやるべきか。けれども言葉は浮上しなかった。
「―――わたくしの前から消えないで……」
すとん、と何かが胸中に降ってくる。とぐろを巻いていた靄がすっと晴れて得心した。
「私があなたのお傍から離れることはありません。この身がたとえ朽ちようと、ただひとえにあなたのお傍に居ます」
死なぬ、とは約せなかった。
不器用な世界