孫堅

―――長江は大きい。舟使っても果てに届くか疑問だし、なんならこの河は仙人の住まう山へと伸びていて、果てに辿り着く頃にはこの身は朽ちているんじゃないかと思ったりするし、それでなくても大きすぎるがゆえに転覆が怖くて爪先も浸けられない。臆病だと笑う奴も居たし、母には泣かれたし、兄弟にはたっくさん馬鹿にされたけど。

「それでも長江の先を見てみたいんです!江東を治める手伝いするんで、私を長江の先に連れてってください!」

深々と勢いよく頭を下げる私。周りは騒然、さっきまで口喧嘩していた親兄弟は呆然、馬から見下ろす孫堅様は唖然。空気がぴたりと止まった中、私は凛然とした佇まいで馬上の孫堅様を見上げる。江東の虎と畏怖されている彼なら私の夢を叶えてくれるかもしれない。そう思って、見回り帰りを待っていたのだ。しんと静まり返った空気を、豪快な笑い声が裂いた。呵々大笑する様に今度はこっちが目を丸くする。

「自分の大望のために俺を使おうとする奴は初めて見た」

「つ、使おうだなんて人聞きの悪い……」

「そうか?それくらいの気構えと肝がなければ、虎の巣穴では食われてしまうぞ。何せ家には始末に負えん小虎が二匹居るからな」

「えっ、それって―――」

ぱっと目を輝かせて訊ねる私に、彼は快快と笑って頷いてみせる。

「俺と共に来い。長江と言わず黄河の先も見せてやる」

断言してみせた彼のなんと眩しいことか。後光に思わず手で傘を作ってしまった。目を眇めると馬上の影が動き、心無しか大きくなる。それが手だと気づくのにしばし時間を要した。

「伸るか反るか、どうする」

返答より先にその手に自分の手を重ねていた。

「伸ります!」

乱世に生を授かってはや十数年。親兄弟の下から今日、私は旅立っていきます。この目で世界を見れるのなら、何処にだって行きますとも。





どこまでも行くよ

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指先