何処か他人事ふうに言うものだからいつもの悪戯かと思って、はいはい、と適当にあしらった。
「伯符も飽きないね。私なんかを相手してさ」
伯符は江東を治める家の嫡子、一方私は草鞋売りの一人娘。相手したって面白いことなんかないのに理由をこじつけては会いに来るし、仕事する私を強引に連れ出したりする。この前はどっかの店にぼられそうになったから喧嘩してきたと得意げに報告された。
「名前と居るの好きだったからな」
「ちょっと、なぁにそれ。まるで告白してるみたい」
「そう取ってくれていいぜ」
茶化すつもりが真剣に返されてしまい、調子が狂った。らしくないね、と笑ってやろうと彼の顔を見て後悔する。元気が取り柄な彼が苦い薬を飲んだ時みたいな顔をして、拳を震わせていた。いつもの明るさも力強さも感じられない彼の様子に心臓がきりりと痛み、背中を冷たい汗が伝う。何か言ってやりたいのに口からは何も出なくて、喉の渇きを覚えて無性に水を飲みたくなった。
「今日はそれを言いに来た」
踵を返して歩き出した彼を、一拍遅れて追いかける。
「待って、伯符……!」
下午の往来は人の波が押し寄せ、まともに足の踏み場がない。掻き分け、縫うようにして背中を追いかけるけど、彼は一向に止まってくれそうになかった。名前を振り絞っても振り返る気配すらない。今になって焦燥が露わになり、視界が滲んだ。必死に手を伸ばす。しかし掴んだのは虚空だった。
「―――じゃあな」
こんなに雑然としているのに、彼の声を鮮明に拾ってしまった。彼は今までまたなとしか言わなかった。じゃあななんて一度も聞いたことがない。ああ、ほんとうにお別れなんだと理解し、人混みに紛れてしまう瞬間を見届けた。
嘘、だったりして