「孫権様はお酒にもお強くていらっしゃるのですね」
「そ、そうだろうか。自分ではよくわからないのだが……」
「今まで飲んだことは?」
「あまり覚えていないのだ」
この言葉を使う人に限って酒に強い人を見たことがないため、私の君主は酒に弱い方なんだと理解した。意外な一面に内心ほくほくしていると、彼に訊ねられる。
「……やはり酒に強い方が好ましいだろうか」
おっかなびっくり訊ねる様子にぴんと閃く。
「孫権様」
ずい、と顔を近づけると彼は慌てて退いた。
「な、なんなのだ」
「―――意中の方がいらっしゃるので?」
声量控えめに言ってやれば、酒のせいだと言い切るにはあからさまな反応に笑みがこぼれた。顔を赤くし狼狽する様はとても江東の虎には見えないが、敬愛する主君の新たな一面に胸が暖かくなった。
「誰なんです?絶対口外しませんから教えてくださいな」
「い、居るとは言ってないだろう……!」
「寂しいことおっしゃらないで。私は孫権様のお力になりたいだけなのです」
本心は可愛い可愛い孫権様の弱みを知りたい、その一心だが。下衆な本心は笑みに隠す。だけど内心悟られたか笑顔が不自然だったのか、ふいっと顔を背けられてしまった。
「ざぁーんねん」
聞こえぬよう呟く。ふと甕を見遣ると空になりそうだったので替えを持ってくるかと立ち上がった時。
「きゃっ!」
裾を誤って踏んでしまい体勢が崩れてしまう。悲鳴を聞いた彼がこちらを見たので、ちょうど孫権様にもたれかかるような形で抱き留めてもらう。手に持つ酒杯がからんと音を立てて床に落ちた。
「申し訳ありません孫権様―――」
見上げて、硬直した。自分を抱き留める彼の顔がこの上なく赤くなっていて、一国の君主が口を無意味に開閉させている。ごめん、これは予想外。
隣との距離