黄蓋

将来の夢は、父上みたいな強くて頼もしくてかっこいい人と添い遂げることだった。華やかな暮らしは別になくてもいいけど、家の中は常に笑いで満ちていてほしいと願った。父上母上、二人のお兄様と一人のお姉様と暮らす実家のような安心感を、私は将来の夫と築きたいと思った。

「なのに!なんで公覆ってば私の気持ちを受け入れてくれないのよ!」

胸の中に留めておいた本音をぶちまけ、傍に居る練師の懐に飛び込んだ。

「酷いと思わない?練師。私ずっと頑張ってるのに公覆ったら今日も、元気ですねチビ姫ってそれだけだったのよ!?せっかく練師に教わった化粧もしてみたのに、褒められるどころか気づきもされなかったわ……」

「それはお辛いですね、姫様」

わんわん泣き言ぶちまける私の頭を、練師は優しい手つきで撫でてくれた。長年報われない恋を彼女は親身に聞いてくれ、彼女なりに助言をくれる。ほんとによくできた護衛だよ。自分の中では年上の友人のが強いけど。

「意中と夫婦になれたお姉様が羨ましい!恨めしい!」

「まあまあ。姫様も十分魅力をお持ちですよ。私はいつも姫様のはつらつとしたところに救われておりますもの」

「……ほんと?」

「はい」

「練師大好き!!」

ぎゅうっと抱き締めると優雅に微笑んで頭を撫でる。嬉しくて頭をすりすりして気づいた。

「こういうところが女らしくないんじゃ……?」

「姫様?」

「うん、決めた。決めたわ練師」

ぱっと離れ、拳を作る私を不思議そうに見る練師。私は彼女に決意表明をした。

「私今日から慎ましやかな女になるわ!」

「まあ……。でも姫様、それでは姫様がお疲れになってしまいます」

「いいえ。これも愛のため。たとえこれから好き勝手城を抜け出せなくなろうと、私は自分を変えてみせるわ。そして公覆を魅了してみせるの。向こうから求めてくるほどにね」

とは言っても慎ましやかな女って具体的に何をすればいいんだろう。身近な人で言うなら練師がぴったりだけど。そう思って彼女を見る。練師にあって私にないもの。落ち着き、上品な笑い方、権兄様の冗長な話に付き合う忍耐力、そして―――。

「……あなたって実は凄いのね、練師」

「え?」

慎ましさを持ちながらそんな大胆なものまで持っているなんて。鉄砲娘と揶揄される私には強大な壁だけど、絶対超えてみせるわ。と言いつつ、壁という単語に自分で少し傷ついた。





素晴らしく救われないだけの、恋愛話

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