だだだ、と慌ただしい足音が迫り、部屋の前でぴたりと止まると同時に扉が勢いづけて開けられた。叩き壊すなと注意するつもりで開いた口も、すぐさま閉口することになる。
「助けて伯言!!」
「……まずは扉を閉めてください。ゆっくりと」
言いたいことは千万あるが、ひとまず目を潤ませて顔を上気させている我が主君を落ち着かせようと、余人の入らぬ密室を作り榻へ誘う。直属の下官が持ってきた茶杯を差し出すと、湯気が上るそれを大人しく舐めた。
「で。今度は何です」
「そんな迷惑そうな顔しないでよ伯言」
「そのつもりです」
「酷いっ」
「おおかたまた賭け事で負けて身銭を失くしたんでしょう。失くしたくせに伸ってしまい、また負けて追われている。――と、そんなところでしょうか」
前例を元に考えを述べれば、たちまち目を輝かせる彼女。こういう時は大抵よくないことだと身を以て知っている自分は、たとえそれが喜色であっても背筋が凍った。
「……伯言」
「何ですか」
「凄いね!言ってないのにずばっと言い当てるなんて」
「喜んでいる場合じゃないでしょう。何してるんですか、あなた今賭け事禁止令出てますよね?尚書台になんと言うおつもりですか」
以前も官吏に隠れて賭場へ行き、案の定大敗して素寒貧で帰ってきたという、全く以て主君らしからぬを仕出かしをしている。その際尚書台の方から二度と行かせぬよう小遣いを減らされたのだが、彼女のことだ、見つからぬよう隠して貯めて行ってきたんだろう。身銭失うだけに留めるのであればまだいい。問題は失っても尚賭けに伸ることだ。払う銭などないから負ければ当然追われることになる。これで一国の主と言うのだから始末に負えない。
「伯言ー……」
阿りを丸出しにした猫撫で声に眉根が寄る。それを見てか、彼女の目が泳ぐ。息をついた時、くいくいっと袖を引かれる。
「お願いだよー、伯言しか頼れないんだよー」
耳を垂らした犬が過ぎってしまい、今日も頷いてしまった自分はもっと始末に負えない。
最大級の口説き文句