朱然

朱然視点





「朱然って体温高い?」

前触れもなく私室を訪ねた名前が、これまた脈絡なく訊ねた。その意図がわかりかねて返答に窮すると、痺れを切らした名前が「どうなの」と催促する。

「普通だと思うが」

「えっ、そうなの。うーん、困った」

予想と反する答えだったらしく、軽く目を瞠り考え込み始めた。顎に指を宛てがい、すっかり忘我している名前を目の前にして途方に暮れる。自分はどうするべきか、話しかけるべきか否か迷っているのだ。考えた結果単刀直入に訊ねることを選んだ。

「そんなこと聞いてどうするんだ?」

考え事する際の名前は大抵周囲の音を拾わない。そう言うと少々語弊があるか。正しく言えば、拾えない。以前彼女自身が、何かに気を取られると周囲の音が入ってこない、と言っていたのを知っている。例に漏れず聞こえていないことを念頭に訊ねたのだが、答えは意外にも返ってきた。

「うん。この時期の暖にしようと思って」

「…………意味がわからないんだが」

「何の間だったの今」

言う通り今は年の終わりに掛かっていて、寒さはますます厳しくなっている。それと今の質問がどう繋がるかと考えていると、出し抜けに名前を呼ばれた。

「ちょっと腕を広げて」

「何でだよ」

「いーから。すぐ済む」

早く早く、とさながら菓子を強請る子供のように急かされ、意味がわからないまま腕を左右に伸ばし懐を空ける。これに何の意図があるんだ。そう思った直後、風が通り抜けていった懐が突如として閉じ込められる。己の胴にぴったりくっつく柔らかな体。背中に回された細腕。鼻先を掠めたのは、あきらか女性の物と判断できる香の匂い。驚き、そして理解が追いつくと同時に全身が硬直する。

「おぉ……。朱然温かい!全然普通じゃないよ!温かいよ!」

眼下で騒ぐ彼女の嬉々とした声。体の熱が上がるのも当然だろう。自分が想いを寄せる異性に密着され、熱くならない男が居るものか。頼むから離れてくれ、というなけなしの理性は香の匂いに蕩かされて言えなかった。





熱の温度

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指先