甘寧

「―――その結婚、ちょっと待った!」

突如その場に響き渡る怒号。祝福に包まれていた空気が一瞬にして沈黙し、陰口が何処からか上がってくる始末。嘉典を行っているとは思えない静けさと冷たさと緊張だ。その元凶がずかずかと部屋を進み、あろうことか今まさに式を挙げている最中の新娘である私の手首を掴み上げた。

「この女は貰ってく!」

と、それだけ。新郎にさえ目を向けず、ただ部屋の入口のみを捉えて歩き出した。手を掴まれている私も必然的に背中を追うようにして、とうとう式を途中で出てきてしまった。待って、と堪らず上げた私の声を意に介さず歩を緩めない。何処に行くの、なんで来たの、あんた自分で何したかわかってるの、と感情を千万ぶつけてみたいところだったが、筋骨隆々の広い背中からは怒りを感じた。

「……怒ってるの、興覇」

あふるる感情の一切を宥め、落ち着いて訊ねる。するとようやく脚が止まった。未だ私の顔を見てくれない。

「ああ、怒ってる。約束破って嫁いだお前にも、もっと早く迎えに行ってやらなかった俺にも」

「興覇―――」

「お前のその姿を見るのは俺だと思ってたんだよ」

息を凝らすような声になんとも言えなくなった。私と興覇は互いが子供だった頃からの付き合いで、彼が荊州に行くまでそれは続いた。離れるとなった時、身を立てたら娶りに来ると彼は約した。同じく私もそれまで待つと言って約した。けれど父が後ろ盾欲しさに他州の豪族と無理やり婚姻させてしまったがゆえ反故にした。それまで一切音沙汰なかったし、所詮児戯と思って忘れようと努めた。だが彼は眼前に立っている。娶りに来るという約束を果たしに。

「待ってた」

髪に挿していた簪を抜き、捨てる。彼が来てくれた以上、自分には不要な物だ。瞠目していた彼だったが、ふっと相好を崩して私を抱き上げた。

「やっぱお前は変わんねえな」

「うん、変わってないよ」

口を突いた言葉に彼は破顔し、口付けた。強引で、情緒の欠けらもない状況だけど、彼の腕の中に居るならそれでいいや。





全部全部、君のせい。

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