「街で珍かな物を手に入れた。女心に明るくない自分が選んだものゆえ気に入るかわからんが、よければ貰ってほしい」
そう言って差し出した木箱。食糧の融通をしてもらい、冬は手炉を贈られ、たまの晴天には遠乗りに誘われる。夫には何度も助けられたゆえ恩返ししたい、と彼は言っていたけど、私自身が返さねばならぬ恩ばかり募って、正直を言えばこの木箱とて、諸手を挙げて受け取るには少々気が引けた。けれども数々の恩を授かっておいて、これだけ突き返すというのも不義。礼を述べてかぱりと開けた。
「―――これは」
中にあった物を見て絶句し、彼を見遣る。表情を硬くしていた彼が、私の戸惑いを受けて後頭部を掻く。
「やはり本心を打ち明けずして渡すのは筋が通らんな」
「徐盛様……」
「だがそれの通りだ。最初はただ恩を返すつもりだった。だがお前と逢瀬を重ねるにつれ、心を奪われてしまった」
私を見る眼差しが凛々しく真剣味を帯び、紡ぐ言葉一つ一つに心臓がときめく。きゅうぅ、と胸が締め付けられて苦しい。目の奥がかっと熱くなる。
「お前を一人にしたくない。これからは俺の傍で共に歩んでくれないだろうか」
途端、視界がぱっと華やいで色づく。箱に入っている簪を手に取る。しゃらん、と小粒の石がぶつかって小気味よい音を放つ。彼のまとう衣のように情熱的な赤に染まった簪を、自分の髪に挿す。
「わたくしも、あなたのお傍で歩きとうございます」
内側から込み上げる激情に口元を崩すと、体を掻き抱かれた。がっしりとした腕が背中を押し込め、岩壁のごとき胸板が私のすべてを受け止める。伏せた目蓋に浮上する亡くなった夫。残された時間を彼と過ごすこと、どうかお許しくださいませ。
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