周泰

自分と周泰は口数多くない。基本顔色変わらないし、必要以上のことを語らぬことから、夫婦揃って一線置かれている。それでも別に構わないと特に変えることをしなかったが、ある日姫様に「好きって言わなきゃ、どんなに想い合っても離れてしまうものよ」と彼女なりの助言を貰った。相談などしていないので助言というか、世評を気にしてのことなんだろう。改めて考えてみる。果たして今更口にする必要のあることだろうか。夫婦の契りを交わした以上、互いの心中は、この先のことは置いとき現時点では通っている。理解しているのならわざわざ口にするまでもないと思うのだが、姫様の言葉も一理あると納得する部分も否めない。

「周泰」

己の武器である倭刀を手入れしていた彼へ声を投げる。大きな背中がゆっくりと振り返り、はるか高い位置にある細い目が私を捉える。額を横断する布が彼の目元に影を落とし、風体と物静けさも加えてどっしりした威圧感がある。返事をせずとも続きを要求していることは言外に伝わり、意を決して口を開いた。

「あんたにはいつも助けられてる。今更なんだと思うかもしれんが、……ありがとう。これからもよろしく」

言ってて思ったが、なんだかむず痒いな。微動だにしないもんだから聞いてるのか疑問だったが、見下ろす目が微かに丸められているのを見て、えもいわれぬ激情に駆られた。足裏や背筋を羽先でくすぐられているような、そんな感覚。一緒に居て気まずさを覚えるなんて初めてだ。それだけだ、と言って退散しようとした体が固く縫いつけられる。

「……俺も……そう思っている……」

静謐で重々しい声が降ってくる。抱き締められているんだと気づくに時間を要したが、それ以上に声音に歓喜の片鱗を見て驚いた。余人が聞けば平常時と変わらぬと思うが、長い時を共に過ごした自分だからこそ確信があった。彼は今喜んでいるんだと。

「……愛している……」

そんな言葉、嘉典の日以来だ。今になって姫様の言葉が理解できた気がする。離れるというのは物理的なことでなく、互いの気持ちを指すのか。なるほど、そうであれば確かに離したくないな。だって彼から離れたくないから。





惚れ直した?

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