練師

―――練師は凄いと思う。自分の敬愛する孫家の姫を守るだけでなく、姫の大切なものも自分の大切なものも守ろうと日々頑張っている。戦では生傷絶えないし時には目を覆いたくなることもあるだろうに、練師はいつも場を和ませるよう笑みを絶やさず、常に我らの後方を守って支えてくれる。遠征時などはその穏やかな笑みで我らを出迎えてくれるし、何より自らこしらえた天心はどれも美味い。仙郷の桃さえ及ばぬだろうな。いや、過言じゃない。本心だ。自分は荒事しか知らぬ身ゆえ、人の機微に疎い。その上料理といったことはてんで駄目だ。正直、手に握るのが包丁より得物の方がしっくりくるし上手く扱えるとすら思う。甘寧にも言われた。いいんだ、自覚はあるし事実だし。ええと、自分が言いたいのはだな、そんな練師にいつも助けられているから感謝を伝えたいのだ。ありがとう。傍に居てくれて。練師が傍に居てくれると不思議と安心して戦えるし、闘志が漲るのだ。だから、その、これからも傍に居てくれると有難い。……駄目だな。胸中を言い表すことすら苦手なようだ。不甲斐ない。

「孫呉の猛将たる名前殿にそう言ってもらえるなんて。私はそれだけで今後も立っていけます」

「そう、だろうか」

「ええ。それに卑下するほどあなたは不甲斐なくありません。名前殿がただ前を見据えて穂先を振るう勇姿に、私も他の兵卒もみな助けられているのです」

「そうだといいな。将軍でありながら大して将軍らしいことができておらぬ気がするゆえ」

「―――ですが、猛将たる名前殿にも甘えたいと思うことがおありなのですね」

ふふ、と目を細めて肩を震わす彼女に目を白黒させる。何を言っているんだ、と言外に問う私の顔に、彼女は説明した。

「自覚がおありでなかったんですね」

「い、いや!この歳で余人に甘えたいなどと……。ましてや練師は他人であるのに―――」

「年齢は関係ありません。人は誰しも鎧をつけたまま走りきることはできません。たまには息抜きしませんと」

同じ武を嗜む者とは思えぬしなやかな指が頬を撫で、その手が軽く側頭部を押すと、折れた枝のように彼女の膝の上に乗ってしまった。あっ、と気づく頃には時既に遅し。あやすように髪を撫でられ、そんな自分を彼女は嬉しそうにほがらかに微笑んで見下ろす。頭の下に伝わる柔らかな感覚に全身が熱を持つ。

「ですからこの先も走り続けるため、私のお傍で肩の力を抜いてくださいね。その間は私がお守りしますから」

春の陽光と撫でる手つきにあやされ、意識は次第に微睡みへと沈んでいった。





手繰り寄せた糸の先

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指先