「孫呉の猛将たる名前殿にそう言ってもらえるなんて。私はそれだけで今後も立っていけます」
「そう、だろうか」
「ええ。それに卑下するほどあなたは不甲斐なくありません。名前殿がただ前を見据えて穂先を振るう勇姿に、私も他の兵卒もみな助けられているのです」
「そうだといいな。将軍でありながら大して将軍らしいことができておらぬ気がするゆえ」
「―――ですが、猛将たる名前殿にも甘えたいと思うことがおありなのですね」
ふふ、と目を細めて肩を震わす彼女に目を白黒させる。何を言っているんだ、と言外に問う私の顔に、彼女は説明した。
「自覚がおありでなかったんですね」
「い、いや!この歳で余人に甘えたいなどと……。ましてや練師は他人であるのに―――」
「年齢は関係ありません。人は誰しも鎧をつけたまま走りきることはできません。たまには息抜きしませんと」
同じ武を嗜む者とは思えぬしなやかな指が頬を撫で、その手が軽く側頭部を押すと、折れた枝のように彼女の膝の上に乗ってしまった。あっ、と気づく頃には時既に遅し。あやすように髪を撫でられ、そんな自分を彼女は嬉しそうにほがらかに微笑んで見下ろす。頭の下に伝わる柔らかな感覚に全身が熱を持つ。
「ですからこの先も走り続けるため、私のお傍で肩の力を抜いてくださいね。その間は私がお守りしますから」
春の陽光と撫でる手つきにあやされ、意識は次第に微睡みへと沈んでいった。
手繰り寄せた糸の先