法正

法正視点





放たれた言葉が矢のように胸に刺さり、一瞬呼吸を忘れる。らしくないと理解しても尚、衝撃を受け止めるには時間を要した。

「―――今、なんと」

「ごめんなさい、と」

呆然とする自分に間髪を容れず切り返す。どうやら少しの手心も加えてくれないようだ。言葉を出せないでいる自分に、彼女は申し訳なさを浮かべたる顔で視線を泳がせる。

「法正殿とお付き合いできません」

ごめんなさい、と追い打ちをかける。漏れ出たのは乾いた笑いだった。

「なるほど。あれほど日夜褒めそやし、突き放してもまとわりつき、頼んでもいない助け舟を出し続けていたのは、俺を籠絡し手酷く傷つけるためか」

劉璋の下から降った俺を名前が世話した。女官という立場で時間を問わずに侍り、培われた注意力で痒いところに手を伸ばし、その彼女に骨を抜かれたと気づく頃には二人の先さえ描いていたというのに。口を開けば俺の名を呼ばい、容姿を褒め才を褒め、軽々しく好きだなんだのと転がしていた。犬に絆されるとは、と自分でも思うが一度傾いてしまったものは仕様がない。

「それともあれは阿りか」

「違いますよ」

「では何故拒む」

「―――だって法正殿、かっこいいんですもん」

「…………は?」

溜めに溜めて選んだ言葉がそれか。あまりに突拍子なさすぎて目を丸くさせてしまう。

「だから!かっこよすぎるからお付き合いしたくないんです!」

「そうなる理由を聞かせろ」

「ぎゃっ!痛い痛い痛い!腕離してください!」

「言えば離してやる」

「と言ってもまんまなんですけど……。法正殿のこと好きですけどかっこよすぎて心臓に悪いので、流石にお付き合いは勘弁願いたいです……。―――うう、目が怖い…………」

知らず知らず睨んでいたらしい。涙目の彼女は萎縮して見上げる。なんだそのくだらない理由は。そんな理由で俺を拒んだのか。ふつふつと沸き上がる怒りに任せて腕を引く。殺さないで、と喚く名前の顎を掴んで強引に唇を奪った。何されたかまるで理解できていない彼女の顔に、少しだけ己の溜飲が下がった気がする。

「この俺をその気にさせておいて、むざむざ逃がすと思うか。死ぬまで離してやらんぞ」

時間差に赤くなっていく彼女にもう一度口付けた。





わかったか、あほ

前へ次へ






指先