今日こそ白星奪ってみせる、と豪語した名前に対局を申し込まれて早一刻。軍配がどちらに挙がっているかは、もはや余人の目にさえ明白だった。
「まだ続けるのですか?」
「うっさい。まだあるはずなの、ここら辺の何処かに勝ち筋が」
「右翼は先程の一手で死にましたよ」
「じゃあこっち―――」
「こちらはあなたの手によって死地と化しました」
「そんなことない!だってまだ少ししか打ってない!」
「策は多いに越したことはありませんが、無闇矢鱈に手の内を晒せばよいというものではありません。見せるもの、見せないものを選ばねば、あなたの底は容易く露見するでしょう」
「また難しいこと言って私を惑わそうとしてる!その手には乗らないから」
「おやめ、孔明。名前の負けん気はきみがよくよく知っているだろう?」
対局を静観していた水鏡先生が口を開く。白い髭を撫で付け、楽しそうに笑う。その傍らで彼女がそれ見たことかといわんばかりに胸を張ってみせたので、ぱちん、と黒石を置いた直後に白石を置いてやった。
「あぁ……!!」
絶望する声が上げられ、がたりと立ち上がる。
「終わりのようですね」
「酷い!ちょっとは手心加えてもいいじゃない!」
「無為に伸ばすのと息あるうちに終わらせるのと、どちらが手心と言えますか?」
「ああ言えばこう言うし……。つ、次こそ勝ってやる!」
言って、彼女はばたばたと駆けていった。水鏡先生と自分だけが残された部屋で、ふいに先生が笑う。
「程々にしてあげないと嫌われてしまうよ」
「…………彼女の琴線は計算済みです」
「そうかい」
「先生?」
含みのある笑みを湛える彼を呼ぶも、先生はかぶりを一つ振って静かに退室していった。
素直じゃないとこも可愛くてよろしい。
水鏡先生のイメージはブラストから引用