綿が詰められた被子と人の熱で温められた敷布。そろりと脚を出し、床につける。衣の裾より顔を出した足首には鋼鉄の輝きを放つ足枷。細く頑丈な鎖がたゆみつつ牀の脚に繋がれ、じゃらりと音を立てた。壁に設けられた窓の向こうには濃紺の幕が下ろされ、点在する星々がか細く瞬く。月は見えない夜だった。薄雲が星々にかかり、落ちる明かりが弱まった時。がたん、と外から音がした。がたん、がたん。それは一定の律動をなして大きくなる。は、と漏らした息か入り込んだ風か、蝋燭の灯火が揺れた。―――来る。今日も、あの男が来る。被子から出した脚が冷気に逆撫でされ、全身が震え上がる。殴られたように息を詰め、唇を噛む。刹那、扉が開けられた。断りのない入室に体が飛び上がり、掠れた悲鳴が喉を擦る。獰猛な獣を想起させる体躯を持つその男が大股で、泰然と近づいてくる。夜の気配に滲むのは獣の殺気。見据えられている私など、差し出された餌。くわれる、くわれてしまう。じんわり滲み出した涙がふちよりこぼれて頬を滑る。鼻先に立ち止まった男が腕を伸ばす。男の手によって脚を掬い上げられ、かさついた大きな手のひらが上下する。輪郭をなぞるようにして上がってくる手が、突如乱暴に掴み寄せ、牀の壁に預けていた背中が敷布に横たう。背中をしたたかに打った痛みに呻く間も与えられずに影に食われた。獣の腕が散らばった髪を触る。
「オ前……美シイ……。オ前、嫁……我、嬉シイ……」
仮面の奥でぎらつく目が細まったように見え、凄まじい悪寒と嫌悪が奔る。
「嫌っ……!」
獣の手を払うとその腕をがっしり掴まれ、敷布に押さえつけられてしまった。肌を撫でるのは獣が発する怒り。獰猛で荒々しい怒りだ。手を押さえる腕に首を絞められているような気さえ抱いた。
「我……裏切ル…………殺ス……!!」
間近で咆哮され、瞬く間に体が熱を失った。くわれる、くわれてしまう。この男にすべてを暴かれてしまう。嫌だ、という助けを希う声は容易く潰された。
ただし、ご注意を。
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