月英

今朝からずっとだ。食事もそこそこに、月英は自室にこもって出てこない。勤勉で真面目な彼女のことだ、惰眠を貪っていないことは確実。むしろ寝ていたら逆にいい、とまで思っている。妙案が閃きました、と昨晩嬉しそうに報告したのでおおかた発明に勤しんでいるんだろうが、それゆえに手持ち無沙汰な自分はいい加減退屈していた。

「いいや。声掛けちゃお」

思い立ったが吉日とも言うし、榻を飛び降りた私は彼女の部屋の扉を叩いた。

「げーつーえー、あーそーぼー!」

たんたん、と叩いて声を上げる。手を下ろして待てども中から返答はない。葉擦れが時の経過を教え、再度声を上げる。

「月英てばー!遊ぼーよ!もうお昼だよ?つまんなーい」

彼女と私は父同士が旧友という間柄にあり、ともすれば幼い頃から交流ある私たちが仲良くなるのは自明の理。とりわけ月英は、勉学を教えに家に来る男よりも知識に秀でていてかつ教えが上手だから、男の訪いを減らしてこうやって彼女の下を訪れる回数が多くなった。自分の知らないことを楽しそうに語る彼女を見るのは好きだ。家の事情とか世間の評価とか、そういったことを忘れられる。だから彼女の発明を手伝いと思う反面で構ってほしくもあった。

「むう……。入るからね!」

我慢の限界を迎え、断りなく扉を開ける。そこには、案の定図案を引いて真剣な顔をしている月英の姿があった。

「ねー、まだ終わらないの?せっかく町で有名なお菓子買ってきたのに、これじゃ味なくなっちゃうよ」

「待っていてください。もう少しで完成するのです」

「そう言ってお昼になったんですけど?いつになったら月英は私のことを思い出すんですかね」

刺々しく言ってやれば、それ以上の返答はなかった。思った以上に集中しているようで、私の声などまるで蚊帳の外。耳朶を掠めもしていないらしい。邪魔だと言外であしらわれてるようで、腹が立った。

「もういいよ。お菓子は全部私と侍女とで平らげてしまうから!」

踵を返す寸前、くいっと手を引かれた。今更何だと恨みがましく振り返れば、彼女がやっと図案から顔を上げて私を見た。

「必ず行きますから、今しばらく一緒に居てくれませんか?」

まだ待てと言うのか、と返したくなったけど、彼女の手が縋るように掴むものだから、頷いてしまった。





甘えてよ

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指先