星彩

今日は星彩と久々に店を回る約束をしている。季節が変わったから新しい衣も欲しいし、せっかくならお揃いの簪も欲しいし、一緒に天心が美味しい食事処にも行きたいな。思いを馳せながら鏡台に映る自分と向き直る。鏡に映る自分は紅を掬った指を持ち上げており、それをおそるおそる己の眦に塗ろうとしていた。

「んー、んむー、難しい……」

塗り直すのはこれで五回目である。なかなか位置が定まらない。なんで自分が目元に紅を引こうとしているのか、それは至極単純なこと。星彩とお揃いにしたかったのだ。外征の関係で会うのは実に半年ぶり。だから盛大に粧し込んで会いたいと思った。とはいうものの、初めての試みなのでこの有様だが。

「星彩はいつもどんなふうに引いてるんだろ」

待たせても悪いから早くしないと。わかっているけど、どうしてもこだわってしまう。星彩は美に疎い。疎いというか興味がない。それでも彼女は端整な顔しているし、肌は雪のように白く、髪色は黒檀で染めたように黒々して艶やかだ。凛々しい眼差しも相まって、姫らしい格好をすればどんな女性も霞むことだろう。以前言ったことあるが、興味ないとばっさり切り捨てられてしまった。勿体無い。

「いつまでやっているの」

突然沸いた声に全身が跳ね上がる。振り向いた先には星彩が立っていた。鎧姿ではなく、女性らしく首元や髪を飾り立てた普段着の姿だ。はっと息を呑んだことは秘密にしよう。

「せせ、星彩?なんでここに……」

「迎えに来たの。あなた来ないから」

「あれ!?嘘っ、もうそんな時間だった!?ごめん!」

「……何しようとしていたの」

彼女の視線が自分の手元に落とされ、それを追った。

「これ?紅だよ。星彩とお揃いにしたくて目元につけようと思ったんだけど、不器用すぎて諦めたところ」

私の顔をじっと見つめて黙っていた彼女が、突然私の手から紅の器を取った。え、と瞠目する私の顎を片手で掴んで傾かせる。さらりと髪が頬を撫でて視界が明瞭になる。鼻先には彼女の花顔があって、心臓の拍動が一つ遅れて動き出す。

「私がやる」

言って、赤く染った指先を私の目元に滑らせる。ばくばく、と逸る心臓の音を抑えるのが精一杯だった。聞こえませんように聞こえませんように。内心繰り返しながら終わるのを待つ。

「―――できた」

すっと離れていく白い指。あ、と漏れそうになった声をすかさず飲み込み、鏡台を見る。そこには彼女と同じ場所が赤く染った自分の顔と、こちらに顔を背けた彼女の耳裏がほんのり色づいてる後背が見えた。





花開く時

前へ次へ






指先