「ううぅ、ぐすっ、うえぇぇ……!」
かれこれ一刻以上この調子だ。元服などとうの昔に済んだ身だというのに、恥ずかしげもなく泣きじゃくっている。
「もー、いつまで泣くつもり?あたしそろそろ行きたいんですけど」
「ぐすん……。ぃ、いや、行かないで三娘ちゃん……」
「無理。今日は関索と遠乗りする約束だもん」
「うっ、うっ、うえぇぇん、やだあぁぁっ!」
まだ残っていたのかと驚くほど勢いを増した涙にげんなりする。名前とは子供の頃からの付き合いで、生来奥手で気弱な彼女には友人と呼べる間柄は自分しか居ない。友人でなくてもまともに話す相手も自分だけ。困るもんじゃないしと放置した結果がこれである。
「甘やかしすぎたかも……」
まるで聞き分けの悪い子供のように泣き喚く彼女を見下ろし、密かに息をついた。人付き合いが苦手な名前はとにかく自分の後を追ってくる。一人が嫌ってわけじゃないらしく、単に自分と一緒に居たいだけとのこと。尚悪いんだが、それを懇々と説明してもやだやだと駄々をこねるばかりで、これでは頑是無い子供と同じだ。
「あんたさあ、もう結婚できる年齢なんだし今からでも好きな人見つければ?ずっとあたしと一緒ってわけにもいかないんだし」
「な、なんで!?」
「当たり前でしょ。家庭を築かないでどうやって生きてくつもりなの」
「それはそうだけど……。で、でも三娘ちゃんと離れるなんて嫌!―――そうだ!私三娘ちゃんの侍女になる!それなら三娘ちゃんが嫁いでも一緒に居られるでしょ?」
「ばっっっかじゃないの?」
力みすぎたせいか名前の細い肩がびくりと跳ねた。
「そんなこと許したらあんたのお父さんに怒られるし、第一そんなことさせるつもりないから」
「じゃあどうすれば……」
「巣立つの!」
「やだよぉ……、三娘ちゃんと離れたくないよ……。わ、私三娘ちゃん居ないと、ひっく、生きてけないよ……ぐすっ、うぅ……っ」
「ああもう泣かないでってば」
涙で濡れた顔を手拭いで拭いてやると、彼女の頭がされるがままぐらんぐらん揺れた。ほんとうに図体だけが大きい子供の相手してる気分になる。
「今日だけね」
「……え?」
「だから!今日だけあんたと居てあげるって言ってんの!」
ゆるりと見開かれていく目が雫を一つこぼし、やがて半円を描くように細められた。
「うん!ありがとう三娘ちゃん!」
とっちゃ、やだ。