王元姫

司州河内郡温県には我が祖父の居邸があり、婚約の報を聞いた祖父が寿ぎたいと私を招いた。場所を聞いて旧友・元姫も温県に居たことを思い出し、祖父に挨拶した後で彼女の邸を訪れた。かれこれ五年越しの再会を果たした私たちは、元姫の私室で飲茶を楽しんでいた。

「にしても元姫、綺麗になったよね」

思ったことをそのまま口にすれば、訝しむように眉根を寄せられてしまう。

「もー、ほんとのことなのに」

「いきなり変なこと言うからでしょ」

「たとえばねえ。陽の光を跳ね返す色の薄い髪とか、青の眼影に押し出された茶色の綺麗な瞳とか。あ!あと、全体的に大人っぽく見えるよ!」

「…………名前は相変わらずなのね」

言葉こそ素っ気ないが、視線が居心地悪そうに泳いだのを見てくすっと笑みが漏れた。元姫は子供の時から才女だと周りの大人たちから褒められ、彼女もそんな期待に応えるようたくさん努力してきた。男性と劣らぬ見識、軍師のような慧眼、それに加えて自分の親への孝心を持つ彼女は、確かに大人たちの言う通り文句なしの才女だろう。友人ながら鼻が高い。

「遅くなったけど、結婚おめでとう」

「えへへ、ありがとう」

「これは私からの祝い品」

言って、差し出したのは一つの細長い箱。開けてみると中には眩いばかりに輝く金の簪があった。綺麗、と知らず知らずに呟いた私に彼女はくすりと破顔する。

「あなたには幸せになってほしいもの。……大切な友人、だから」

ゆるゆると見開かれていく目。元姫からこんなこと言われたのは初めてだ。驚きつつも礼を言おうと口を開けた刹那、空気を震わせたのは私の声ではなくけたたましい物音だった。扉を叩きつけたのは一人の男で、奪われた視線の先には鋭く光る銀色の刃。あまりに突然なことに自分は何も言えなかった。

「覚悟!」

男は一直線に駆けてくる。―――こちらに向かって。危ない、という言葉が音になっていたかはわからない。しかし眼前が急に暗くなった。鼻を掠めるのは嗅ぎ慣れた沈香の香り。息が詰まるその一瞬のことだった。次に聞こえたのは何かが床にぶつかる音。しんと静まり返った部屋の中、私の眼前に伸びる脚が反転する。

「大丈夫?」

頭上から降ってくる細い手。ここで初めて自分が床に尻を突いてると気づく。そして肩越しには床の上で気を失っている男の姿。取り囲むようにして突き刺さる数本の細い武器。そしてそれを、彼女はもう片方の手に握っていた。

「あなたを守れてよかった」

咲き誇るように。あるいはこぼれ落ちるように。微かに眦を緩めて浮かべた微笑に、鼓動の調子が大きく乱された。私の旧友が美しくかっこよくなっていたなんて、聞いてない。





お願いだから嘘と言って

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