「にしても元姫、綺麗になったよね」
思ったことをそのまま口にすれば、訝しむように眉根を寄せられてしまう。
「もー、ほんとのことなのに」
「いきなり変なこと言うからでしょ」
「たとえばねえ。陽の光を跳ね返す色の薄い髪とか、青の眼影に押し出された茶色の綺麗な瞳とか。あ!あと、全体的に大人っぽく見えるよ!」
「…………名前は相変わらずなのね」
言葉こそ素っ気ないが、視線が居心地悪そうに泳いだのを見てくすっと笑みが漏れた。元姫は子供の時から才女だと周りの大人たちから褒められ、彼女もそんな期待に応えるようたくさん努力してきた。男性と劣らぬ見識、軍師のような慧眼、それに加えて自分の親への孝心を持つ彼女は、確かに大人たちの言う通り文句なしの才女だろう。友人ながら鼻が高い。
「遅くなったけど、結婚おめでとう」
「えへへ、ありがとう」
「これは私からの祝い品」
言って、差し出したのは一つの細長い箱。開けてみると中には眩いばかりに輝く金の簪があった。綺麗、と知らず知らずに呟いた私に彼女はくすりと破顔する。
「あなたには幸せになってほしいもの。……大切な友人、だから」
ゆるゆると見開かれていく目。元姫からこんなこと言われたのは初めてだ。驚きつつも礼を言おうと口を開けた刹那、空気を震わせたのは私の声ではなくけたたましい物音だった。扉を叩きつけたのは一人の男で、奪われた視線の先には鋭く光る銀色の刃。あまりに突然なことに自分は何も言えなかった。
「覚悟!」
男は一直線に駆けてくる。―――こちらに向かって。危ない、という言葉が音になっていたかはわからない。しかし眼前が急に暗くなった。鼻を掠めるのは嗅ぎ慣れた沈香の香り。息が詰まるその一瞬のことだった。次に聞こえたのは何かが床にぶつかる音。しんと静まり返った部屋の中、私の眼前に伸びる脚が反転する。
「大丈夫?」
頭上から降ってくる細い手。ここで初めて自分が床に尻を突いてると気づく。そして肩越しには床の上で気を失っている男の姿。取り囲むようにして突き刺さる数本の細い武器。そしてそれを、彼女はもう片方の手に握っていた。
「あなたを守れてよかった」
咲き誇るように。あるいはこぼれ落ちるように。微かに眦を緩めて浮かべた微笑に、鼓動の調子が大きく乱された。私の旧友が美しくかっこよくなっていたなんて、聞いてない。
お願いだから嘘と言って