賈充

珍しいこともあるものだと思わず感心した。賈充も人の子だったのね、なんて。本人に言ったら間違いなく不興を買う。竹簡一つ抱えて彼の部屋を訪ねる。自分は影だ、とのたまう通り彼は周りに人を置こうとせず、大抵一人で居る。

「あなたも書き漏らすことあるのね。びっくりしすぎて心配しちゃった」

言って、竹簡を渡す。几に広げた竹簡の終わりの方、通常であれば記した人の押印があるのだが、押印もなければ文章自体が一行を残して不完全となっている。

「そうだな。自分でも回りくどい手段だと思う」

「手段?」

言いたいことが掴めず首を傾げる。がたり、と榻を立ち上がった彼は几を回り込んで私の前に立つ。黒い髪、黒い目、黒い衣が白い肌と対照的で目立ち、それがなんだか異質に見えた。何度も見た顔なのに不思議だ。持ち上げられた手が頬を撫ぜる。黒く塗られた爪が楽しそうに動く。細められた目も、その印象を強めた。

「賈充?」

行動の意味も言葉の意味もわからなくて名を呼ばえば、彼の薄い唇が弓なりにしなる。

「お前を呼び出す口実だと言ったら、お前はどうする?」

耳朶を叩く声はいつもの彼らしくなく弾みをつけていた。





一行の空白

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指先