文鴦

「はあ……」

「何か悩み事だろうか?」

「あら文鴦様、ご機嫌よう。悩み事といえば悩み事かもしれませんわ」

「というと?」

「過日、さる殿方に手紙を貰いましたの」

「そ、それは……、よかった、と喜ぶべきだろうか……?」

「わたくしとしては喜ばしい出来事ですわ。ただ、喜びに弾んだ胸は開いた時に潰えてしまいまして。せっかく意中の方からの贈り物ですのに残念でなりません」

「……その者はあなたに対して何か粗相をしてしまったのか?」

「まさか。とても綺麗な文章でした。わたくしが参考にしたいくらい」

「ではよかったのでは……?」

「―――綺麗すぎるのですよ」

「綺麗すぎる?」

「はい。その方は色事には明るくない気性ですのに、こと手紙になると途端華やかになるのです。喩えるならそう、他の誰かに書かせているかのような」

「それは、気の所為、ではないだろうか……。もしかしたらその者は苦慮の末、絞り出したのやも…………」

「まあ!文鴦様もその方をご存知で?でしたらぜひお願いしたいことがございますの」

「えっ、いや、私は―――」

「その方を連れてきてくださらないかしら。わたくし、その方にお訊ねしたいですわ。その方の素直な気持ちを」

「だが―――」

「それとも連れてこられない事情がおありなので?」

「…………事ここに至っては私も腹を括るしかないようだな。その、所用があるゆえ今日中とはいかぬが、後日改めて参ってもよろしいか」

「ええ、ええ。今度こそお待ちしておりますね、文鴦様」





わかりやすいけれど、わかりにくい

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