ケ艾

「―――晋の磐石と謳われる将軍様も、翳ることがあおりなのですね」

扇をひらりと翻し、敵陣に風を通す。幾重もの断末魔が響き渡り、それらは地面に叩きつけると同時にぴたりと静まる。背後から迫っていた敵の刃を最小限の動きで交わして得物を奪うと、刃先を首元に走らせる。紅と見まごう鮮やかな血飛沫を上げて、男の体は崩れ落ちた。

「……助太刀、感謝する」

「まあ。なんて浮かない顔。嬉しそうに見えませんね」

「生来この顔つきゆえ、ご容赦願いたい」

「謝らなくていいですよ。存じ上げておりますから」

くすくすと肩を揺らして笑うと、剛毅な気性が如実に現れた体躯を持つ彼が決まりの悪い顔を見せた。ふと、その顔に視点が止まる。小さくも傷を見つけたのだ。

「怪我をしておりますわ。手当して差し上げねば」

伸ばした手がやんわり掴まれる。やんわり、などと称するには弱すぎる膂力。万が一にでもこちらの細腕を折らぬようにと配慮しているんだろう。こちらを厭う気持ちは隠せないのに、そんなことを気にする性分に胸がくすぐられた。

「気にされるほどではない」

「想い人の容態を気にかけることは、かように可笑しいことですか?」

手を掴む腕が微かに振動する。隠しきれない、といった反応についに笑みが決壊した。耐えきれずに笑う私を、彼は批難の眼差しで見据える。

「世にはびこる数多の男を袖にしてきましたが、とりわけケ艾様は別格に愛しく想っておりますよ」

「……自分は武辺にのみ傾注してきた身なれば、あなたの弄言ろうげんに信を置くことができぬ」

「まあまあ。正直な方ですね」

ますます嬉しくなって笑みを転がすと、これ以上は返せないとでもいうように口を噤んでしまった。揶揄したいのは山々だが、程々にしなくては。だって早々に飽きてはつまらないから。





愛に近い執着

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