「全っっっっ然、駄目。ありえない。なし。やり直し」
「そんなっ……!」
「何、口答えする気?」
睨めつけると勢いよく萎れて首を振る。当然だ、彼が自分に食ってかかるなどあるはずがない。情人の私をさながら手中之珠と扱う彼だから。だからこそ苛立っていた。
「いつになったら私を満足させる手紙を書けるわけ?」
苛立たせる問題点はそれだった。毎日毎日飽きることなくのべつ幕なしに賛美の言葉を並べる彼に、私は言いつけた。言葉ではなく文字で満足させてみろ、と。声がなければ多少静かになると思われたが、効果は逆をいくものだった。よもや紙面ですらうるさいとは。
「申し訳ない。私が寡聞にして知らないために、あなたの手を煩わせてしまっている……。どうか!どうか失望せず待っていてほしい!必ずあなたを満足させる文章をしたためるゆえ!」
「それ何回も聞いた。もういいよ、公休に期待した私が盲目だった」
退出しようと歩き出した私の後ろで物音が立つ。待ってくれ、と乞われるのも流す私に彼は尚も食い下がってくる。諦めの悪さと執念深さは犬そのもの。忠犬に過ぎて駄犬であることすら気づいていない。扉にかけた手が、肩から伸びた手のひらに重ねられる。性差を感じる大きな手だ。それが自分の手を扉に押さえつけ、動きを封じている。だが力はないに等しく、払えば簡単に落とせるものだった。つい、と肩越しに目を遣る。すぐ後ろに彼の体があり、高いところから視線が注がれる。
「待ってくれ……。あなたには、あなただけには失望されたくない。たとえこの諸葛公休、どんな謗りを受けようとも甘んじる覚悟で居る。だからお願いだ。今一度待っていてほしい。そしてあなたを愛するあまり盲目になってしまっていることを、どうか許してほしい」
切々と願うその言葉の最後を拾い、心臓が大きく脈動する。滔々と流れる血が徐々に熱くなっていき、やがて頬を焦がすまでに至る。耐えきれずに顔を前に戻すが、逃げた先に捉えたのは自分の手を縫い付ける彼の手だった。ごつごつと角張った武人の手。手套をつけていないせいで彼の熱が如実に伝わってきて、いっそう頭の中が混乱する。よもやこんな不意打ちを食らうとは思ってもなかった。
不意打ちで言うのはやめていただけますか