大気を震わす轟音に、その場に居た全員が全身を跳ね上がらせる。なんだなんだと部屋を飛び出した兵士らは、音のする方へ駆けた。そして辿り着いた先に広がる光景に一同ぎょっとする。
「今日こそその首貰うぞ、呂奉先!!」
「ふん、口では何とでも言える!やってみろ!」
自軍の将である呂布と、先だっての戦で捕虜となった名前が剣戟を振るっているのだ。どういう流れでこうなったんだ、とひしめく集団のうちの誰かが呟く。まったくだ、と声にならぬ同調を誰かが見せた。身分がひと目でわかるほど広大な部屋を手にしておきながら、それらには一切顧みず、呂布と名前は互いに火花を散らしていた。剣のぶつかる音、投げ飛ばされる音、張り合う怒号。そして縫うようにして聞こえてくる何かが割れる音。
「あぁ……、せっかく呂布殿に見繕った壺が……」
同志の嘆きが何処からか聞こえる。
「ばっかでえ。呂布殿がそんなもん気にするお人かよ」
「そりゃそうだけどよぉ……」
「取り入りたいなら、っぱ酒よ酒」
「けんど呂布殿って酒好きだっけか?」
「酒を嫌う奴なんか居ねえよ!」
「そりゃお前のことだろ」
「あー!俺がこの前あげた飾りが……!」
「なんでお前はそんなもん呂布殿にあげたんだよ」
「だ、だってかっこよかったんだよ」
「あれの何処がかっこいいんだ!」
「つうか呂布様気づいてんのかなあ」
「何がだ?」
「そりゃ、自分の部屋が木っ端微塵になってることにだよ。あれ、誰が掃除するんだろうな」
「そりゃ俺らだろ」
「……だよなぁ」
「そもそもなんだってこんなことになったんだ?」
「あの女って確か降将だろ?」
「ああ!目の前で仲間吹き飛ばされたから覚えてる!呂布殿や張遼殿といかずとも、すんげえ強かった。俺、久々に戦でぶるっときたよ」
「へえ。道理で陳宮殿が丁重にもてなせって言ったわけだ」
「なんか関係あるのか?」
「そんなんだからお前未だに情人の一人もできねえんだよ。……要はあれだ、呂布殿のお気に入りってやつだ」
「うん?それだとおかしくねえか?だって呂布殿には貂蝉殿が居るだろ?」
「毎日同じもんってのも飽きるだろ」
「摘みすぎで嫁さんに逃げられたお前は反省しろ」
兵士らはすっかり本調子に戻っており、轟音を傍らに談笑する者まで現れた。そも呂布軍は日頃がこの状態であり、相手が名前か自軍かの違いに留まる。それでも自軍を相手にここまで嬉しそうにはしないが。薙ぎ倒されていく調度品もお構い無しに二人は熱を上げていく。名前は華奢な腕は大剣を振り回し、相対する呂布は己の愛器である戟で受け止める。眼前で繰り広げられる光景に名付けるとすれば、嵐と嵐のぶつかり合いと言ったところか。雷のごとく地を揺らし、嵐のごとく抉り取る。無慈悲かつ残酷な強さに、呂布軍の兵士らは心酔していた。中には敵だったと知りながら名前を称える者も居る。
「―――何をしている」
そこへ現れたのは呂布に次ぐ猛将・張遼だった。兵士の群れの一人が応答する。
「かの降将が呂布殿と稽古しているようなんで、見てました!」
「稽古?」
訝しみながら部屋を覗き込み、一言。
「ああ、いつものことだ」
その言葉に静まった兵士らはどよめく。
「い、いつもなんですか?」
「何故……?」
「女人といえど彼女も一廉の武将。互いの尚武心を鍛え、腕を競い、高め合うのが本望なのだろう」
「な、なるほど……。俺よくわかんないんですけど、凄い人なんですねあの女性」
「―――しかし今回はいいことがあったのだろうな。それを伝えんがため、振るっているようだ」
「…………怒鳴りながら戦ってるようにしか見えないんですが」
「武人とは生来言葉を多くにしない者だ」
とだけ言って、猛将・張遼は去っていった。困惑と疑念を兵士らに植え付けて。
最初から最後まで