「ねえ、子孝様。あなたは夢から覚めたくないと思ったことがおありですか?」
形の良い唇が、鶯のごとき声でなだらかに言葉を紡ぐ。細められた目が笑みを象る。傍に置いた自分の手に、それよりも華奢で小さい手が重なった。
「わたくしはございますわ。月が迎えにくる都度、ひっそり胸の中に灯るのです。子孝様はどうですの?」
隣から覗き込む動作に髪がさらりと音を立てる。深い濃紺には、正円から少々欠けた月が輝いていた。月の発光を受けて彼女の肌が淡く輝く。
「……そなたはまるで遊糸のようだ」
現と夢との境に浮遊し、容易く人を酩酊させる。耳に届くのは小気味よい笑い声。ほっそりした指が頬に宛てがわれ、首が勝手に動く。自分が動かしたのか、彼女が動かしたのか定かではない。視線の先、月を背にした彼女が嫣然と微笑んでいる。
「梅花が散り雪を迎えても、わたくしは永遠に子孝様のお傍におりますわ」
肩からこぼれた月光が胸中に溶け込む。温かな酩酊がじんわりと亘り、視界が淀んでいく。光も影も輪郭を失って溶け合い、深く絡む。肌に残るのは、儚くもしたたかな熱だった。
覚めたくない夢