酒席を開いた我が主の下へ、一人の少年が近寄っていったのを目の端で捉えた。盛大に開かれた饗宴にすっかり肝を蕩かされた周囲は気づくことはなく、自分のみであった。何処の子息だと静観していれば、少年は何かを呟き、主はそれに大変満足そうに頷いてみせ、自分の皿からいくつかの果物を持たせてやった。少年は何度も頭を下げ、去っていく。
「これは随分お優しいことをなさりますな、あなたは」
少年が離れたのを見届けてから話しかける。つい、とこちらへ滑らされた目は呆れを孕んで細められた。
「なんだ、見ていたのか」
「あの少年もあなたに深く感謝していることでしょう」
「毎度お前は手厳しいな」
はは、と笑ってみせる彼女は自分の胸中を見透かしているように見えた。この時代、女で生まれれば男の後ろに控えるのが常。しかし彼女はその常を唯一ひっくり返してみせた傑物。並み居る智者も武将も従わせ、天性の慧眼を以て治世を築いている。それは過去を見ても二つとなく、まさに奇跡の所業。というのに、彼女はその異例をとんと理解しようとせず、あまつさえ恩恵を軽々に他者へ与える。施す相手を選ばねばやがて足下を掬われるというのに、あまりに無知な彼女の姿勢は常々気に食わなかった。
「―――なあ、袁術」
ふいに呼ばれ、酒盃から目を上げる。
「たまには立場のことを忘れ、ただの人に返ってみるのもいいことだぞ。見落とした物、気づかなかった物、忘れていた物に出会える」
「……それはそれは。質素倹約で民に寄り添う政を行うあなたらしい言葉ですな。勉強になります」
耳当たりの良い言葉を並べると、彼女はじっと自分の顔を見て静かに目を外した。あなたがそうあると言うなら止めはしない。立ち止まって振り返る都度、私はあなたより先を歩いていずれはその位を戴くまで。
君の最期に