董卓

今日も今日とてお爺様の部屋からは、大勢の男性の笑い声と泣き声とが響いてくる。挨拶しようと部屋の前まで行けば、ちょうど一人の女官が出てきた。ぱっと見るに冴えない顔貌だが、確かお爺様が招来した客人の中に純朴な女性を好む人が居たはず。彼女はその男性へ宛てがわれたものなんだろう。

「これで汚れを落としなさい」

言って、薄手の布を手渡す。中で随分好き勝手されたのだろう。白目は赤く染まり、整えられた髪は乱れている。緩んだ衣の合わせをぐっと引き寄せた彼女は、小さく目を丸めて手巾を見つめていたが、要るのか要らないのか再度問うと礼を言って足早に去っていった。

「失礼します」

余人が見れば、目を覆って憤慨する光景が広がっていた。悲鳴も喘ぎ声も泣き声も断末魔さえ綯い交ぜになったその奥、仰々しく飾り立てた榻に座って酒を呷るお爺様が居た。

「おお!来たか名前よ。ささ、はよう参れ」

自分を見つけたお爺様は破顔して声を張った。侍らせていた妓女を退かせ、空いた己の膝の上を叩く。お爺様に招来された客人の視線を一身に浴びながらその中央を歩き、お爺様の膝に腰を下ろす。

「名前はいつ見ても美しいのう。どんな女も敵わぬわ!」

「まあ。お爺様ったらそんなお歳なのに随分お元気ですこと。でも、どんな女と言うのは過言ですわ。可愛い可愛い董白がおりますもの」

「何を言う。姫も名前も天下に二つとない花そのものよ、過言などなかろう!」

「では、その花を最も美しい頃に摘み取ってやらねば憐れというものでしょう?いつになったら人の手に渡らせてくれるのです?」

「ぬうぅ……」

苦しそうな顔を見せるお爺様に続ける。

「わたくし、お爺様に我が子を抱いてほしいと願っておるのですよ。それなのにお爺様は、孫娘のささやかな願いさえ叶えてくださらぬのですか?」

「む、むうぅ……。しかしだな……」

「…………わたくしは心配でなりません。お爺様が居なくなった後、自分はどのような身になるのか」

袖で顔を覆ってみせれば、果たしてお爺様は激しく動揺してみせた。妹・董白と自分が彼の寵愛を受けている自覚はある。皇帝すら取り籠めたお爺様に敵う者など居はしない。しいていえば河北の軍勢くらいか。この均衡がいつ、どのようにしてどちらへ傾くかわからないが、可及的速やかに嫁する必要が自分にはあった。いずれ大火にあると知って火の元に佇む馬鹿はおるまい。袖に顔を隠したまま視線を他所へ散らす。私とお爺様のやり取りを一見微笑ましそうに見つめる奸吏たちと、彼らに弄ばれた妓女たちの取り繕った笑み。結局、自分とお爺様は同じ穴の狢だ。どちらも自分のことしか考えていないのだから。





生き方は似ているのです

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