origin要素あり
硬いベッドの上でごろごろしていると、ふいに扉を叩かれた。入ってきたのはいつも護衛してくれる男の人で、曰く張角様がお呼びだから着いてこい、とのこと。えーめんどくさいなぁ。来るならそっちが来いよ。という本音は顔に現れていたらしく、苦虫を噛み潰したような見え見えの作り笑いをされた。いつも暇潰しの相手になってもらってるのでそれ以上のことは言わず、了承して後を着いていく。チョーカクサマなる人物は前を歩く彼やここに住まう信徒の教祖みたいで、そのチョーカクサマの下にある日突然落ちてきた私は天の遣い的な扱いを受けている。降ってきたのもあるけど、ウェイトを占めるのは教祖が私を気に入ってるからだろう。だって所構わず私に気持ち悪い告白してくるんだもん。そりゃコーキントーに魂捧げてる彼らなら丁重に扱ってもおかしくないよね、が持論である。にしても教祖様も趣味が悪いなあ。いや、確かに眉目秀麗、孫にも衣装な自覚はあるけどさ?元いた時代だってモッテモテだったけどさ?だからって×七歳に入れあげるとかないわー。私ドン引き。
「えー、こほん」
前を歩いていた彼が咳払いを一つ。立ち止まったのと同時に我に返り、きもちわるわるおじさんことチョーカクサマの部屋の前に着いたことに気づいた。
「おつおつー。ありがとね。あ、後で部屋おいでよ。昨日おじさ―――ええと、チョーカクサマからお菓子貰ったから一緒に食べよ!」
「いえ。それは張角様が名前様に下賜された物。おひとりでお召し上がりください」
言って、来た道を戻っていく。ちぇ、相変わらず堅いな。顔好みだったのに。けっ。今度はおじさんの警護する二人の男性に促され、部屋の扉を叩く。今度はどんな用事なんだろ。あー、やだな、会いたくないな。住まわせてもらってるのは感謝してるけどおじさんの音声付き気持ち悪いラブレターの相手はしたくない。この前は肩抱かれたし。昔の女の人は地位が低かったっての授業で習ったけど、よもや承諾無しに触られるほどとは思ってもなかった。天の遣いだなんだ言うなら許可を取れってんだ。願い出ても絶っっっっ対許さないけど。許すのはイケメンだけだ。当たり前だろう。同じ男でも顔の良い奴がいい。社会は男性優位かもしれんが、自分の中ではイケメンしか勝たんのである。よし、内心愚痴ってたらやる気が出てきた。今度また触られそうになったらぶん投げてやる。
「失礼しまーす」
思ってないけど。そんなことを心のうちで付け加え、部屋に入る。流石は大勢の人を抱き込めるだけあり、おじさんに与えられた部屋は実に立派で煌びやかだった。自分は歴史の授業中全部寝てたので具体的な名前とかは知らないが、課外授業で博物館行った時見かけたような気がする壺に似た物があっちこっちに並んでおり、錦糸で織られた派手な布が天井から垂れている。中国ってすげー。なんでここが中国とわかったかと言うと、文字が全部漢字だったし中国っぽい柄をあっちこっちで見かけたからである。でも自分が使ってた漢字とはちょっと違ってるから合ってる自信はない。不思議なことに言葉は通じてるしいいよね。気にしない気にしない。
「―――おお、待っていたぞ、我が妻よ」
喜びを隠しもしない男性的な声。この気持ち悪い言い方は、と思ってその方向を見る。
「……………………どちら様ですか?」
そこにはとんっっっっでもねえ長身イケメンが立っていた。言うなればハリ〇ッドに出てる俳優みたいな部類のイケメンだ。危ない危ない。ここが自分の時代だったら逆ナンしてた。古代中国でよかった。でも古代中国にこんなイケメンいるとは。
「驚くのも無理はない。何せ元の姿よりかなり逸脱しているからな」
「元の姿?整形的な?」
容姿コンプがあったのだろうか。イケメンの口から発せられるダークな悩みになんて返そうか迷う。困ったな、基本問題なければいいよね精神で生きてきた自分にフォローするいい言葉が思い浮かばない。年の功はなんとやらとご高説垂れ流していた先生の言葉をよく聞くべきだったかも。
「てかどちら様です?自分イケメンを一回見たら終生忘れるはずないんですけど、ちょっと心当たりがなくて」
「我こそ黄巾党棟梁、張角なり」
「………………ええっと、新手の冗談?」
「どうしたら我が妻に偽りを申せよう。これは中身のない偶像などではない。真実、俺はお前の夫である張角だ」
え、これがあの横顔三日月なおじさんことチョーカクサマ?目を白黒させながら長身イケメンの周りをくるくる回るとふいに腕を引かれた。唐突なことに対処できず不同意的接触を図られる。間違いない、このセクハラは妖怪キモ親父の証だ。当初の意気込み通りぶん投げてやる、と顔を上げた先にはハリウッド俳優すら霞むレベルの顔があり、息を呑む。このイケメンになら抱かれてもいいかもしれない。なんかちょっといい匂いするし。
我、至上主義