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「近くで見るとほんと、でっけ〜」

急な坂を上がって樹の根元まで来たユーリ達は、その想像を遙かに越える大きさに首が痛くなる程上を見た。ラピードもアイナの傍らできちんとお座りをしながら、樹を見上げている。

「もうすぐ花が咲く季節なんだね」

穏やかな声色でアイナが言う。首が悲鳴を上げていち早く視線を元に戻したハルカが苦い笑いを浮べた。

「どうせならさ、花が咲いてるとこ見てみたかったよね」
「そうですね。満開の花が咲いて街を守ってるなんて素敵です」

同じように苦笑いをしたエステルが、不意にユーリ達にきちんと向き直る。

「私、フレンが戻るまで怪我人の治療を続けます」
「なぁ、どうせ直すんなら結界の方にしないか?」

え、と小さく声を零したハルカとエステルがユーリを見た。彼は樹を見上げたまま続ける。

「魔物が来れば、また怪我人が出るんだ。今度はさっきのガキ達が大怪我するかもしれねぇ」
「それはそうだけどさ、どうやって結界を直すの」

ハルカがそう尋ねるとユーリがやっと彼女達の方を見た。

「こんなでかい樹だ。魔物に襲われた程度で枯れたりしないだろ」

根元に近づいた彼は、ラピードと共に辺りを注意深く視界に入れていく。その背中を見詰めながらエステルが小さく首を左に倒した。

「何か他に理由があるって事ですか?」
「オレは、そう思うけどな」

ハルカ達も一緒になって樹をぐるりと見回す。不意に声をかけられて振り返ると、先程の老人から何をしているのか訊かれた。

「樹が枯れた原因って何なのかなと思って、調べてるんです」
「難しいと思いますよ。フレン様にも原因まではわからなかったようですから」

ハルカの答えに対して更に言葉が返ってくると、彼女はエステルと共に肩を落とす。同時に「それもそうか」と思った。フレンが話に聞く通りの人物なら、原因がわかれば自分で治そうとしているだろう。そうなれば、わざわざ治せそうな人物を探しに行く理由がない。

どうすればいいのだろう?専門家でもないの自分達に原因がわかるのだろうか。

「あ、カロル!カロルも手伝ってください!」

不意に声を上げたエステルの視線の先には項垂れたまま重い足取りで通りがかったカロルの姿があった。彼が何をやっているの、と小さく問えばハルカが努めて優しく樹が枯れた原因を調べていると答える。
すると、カロルは顔を上げないままギリギリ聞こえる音量で言い始めた。

「理由なら知ってるよ。そのためにボクは、森でエッグベアを……」
「ん?どういう事だ?」

そこでやっと、ユーリが樹からカロルへ視線を移す。彼もこちらを向き、力なく樹の根元を指で指し示した。

「土をよく見て。変色してるでしょ?」

全員の目が自分達の足元に向く。

「それ、街を襲った魔物の血を土が吸っちゃってるんだ。その血が毒になってハルルの樹を枯らしてるの」
「なんと!魔物の血が……そうだったのですか」
「カロルは物知りなんですね」

エステルが素直に褒めれば、カロルがまた自分の足元を見る。共にした時間は短いが……それでもいつもの彼なら、自慢げに胸を張る所だったろう。

「……ボクにかかれば、こんくらいどうって事ないよ」

しかし彼は、言葉だけが自慢げで声色は悲しげなものだった。そこへユーリが歩み寄る。ゆっくりとカロルの顔が、背の大きな彼を見上げた。が、また下を向いてしまう。

「その毒をなんとか出来る都合のいいもんはないのか?」
「あるよ、あるけど……誰も信じてくれないよ……」

ユーリが歩み寄ってしゃがみ、俯くカロルの顔をのぞき見ると幾分か優しげに微笑みを浮かべた。

「なんだよ、言ってみなって」

一瞬だけためらった。けれどカロルは少しだけ顔を上げる。

「パナシーアボトルがあれば、直せると思うんだ」

くしゃりとカロルの頭を撫でてやると、ユーリの隣でアイナが同じようにしゃがんで彼を優しげな表情で覗き込んだ。

「カロルはどうしてクオイの森に居たの?パナシーアボトルなら、よろず屋に行けばあるよね」
「売ってなかったから、合成してもらおうと思って……」
「素材を集めてたんだね。何が必要なの?」
「エッグベアの爪と、ニアの実と……あと、ルルリエの花弁だよ」

そっか、と今度はアイナが彼の頭をやんわり撫でる。それを見てユーリが立ち上がった。

「カロル、クオイの森に行くぞ」
「え?」

カロルが自分よりも随分と背の高いユーリを一生懸命に見上げる。ふ、と口元に笑みを浮べながらユーリは言う。

「森で言ってたろ?エッグベア覚悟〜って」
「パナシーアボトルで直るって信じてくれるの……?」
「嘘付いてんのか?」

カロルがすぐに首を大きく横に振ると、ユーリは目を細めた。

「だったら、オレはお前の言葉に賭けるよ」

ユーリは終始、優しげだった。それは言葉だけでなく表情もである。カロルは、それがとても嬉しかった。

「……も、もう、しょうがないな〜。ボクも忙しいんだけどね〜」
「決まりですね。私達で結界を直しましょう!」

カロル調子が戻ったところでエステルがハルカの方を見ながら微笑んだ。しかし彼女はエステルの言葉に首を傾げる。

「エステル、フレン待たなくていいの?」
「治すなら結界を直せって、ユーリも言ってましたし」
「なら、フレンが戻る前に結界直して、びびらせてやろうぜ」

ユーリが不敵に口角を上げ、ハルカ達が楽しそうに頷いた。そこへ静かな声色でアイナが言葉を差し込む。

「私は、ここで待ってるね。戦える人が誰も居ない間に、また魔物に襲撃される可能性だってあるし。ついでにルルリエの花弁も探しておく」
「アイナ来ないの?」

寂しそうに言ったカロルの髪を、アイナはまた撫でる。なんだか照れ臭くてカロルは俯いた。すると足元に影が差し込む。不思議に思って顔を上げようと試みたが、大きな手に頭を押さえ付けられて叶わなくなった。

途端に響く黄色い音の短い、ふたつの悲鳴。頭から重みが消えて辺りを見回すと、ハルカは震えながらこちらを指差していて、その隣ではエステルが両手で口を覆いながら頬を真っ赤に染めて目を泳がせている。意味がわからなくて、カロルは真上を見上げた。真っ赤になっているアイナとニヤリと意地悪そうな笑みを浮べているユーリが居て、ますますわからなくなる。

「どうしたの?」
「カロルには、まだ早ぇよ」

抗議しようと口を開いた瞬間、カロルは頬が赤いままのエステルと、なんだか怒っているハルカに思いっきり手を引かれた。そのまま引きずられるように街の出口へ強制連行される。

「ラピード、私は大丈夫だからユーリのサポートお願いね」

そう言いながらアイナがラピードを撫でているのが、カロルから遠く見えた。ユーリとラピードが歩いて自分達を追ってくる。

ハルルを出る瞬間、カロルは歌が聞こえた気がして元気のない大樹を見上げた。

「カロルー、行くよー!」
「あ、うん!待って!」

ハルカの声に慌てて駆け寄っていく。
背中に柔らかな歌を感じながら。



to be continued...

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ほたるび