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予想通りエステルが説明をしてくれて、なぜかユーリがまとめてくれた。お陰で幾分わかりやすかったが、きちんと覚えるためにも何か書く物が欲しいと、ハルカは切実に思う。でないと、新しい言葉が出てくる度に、ここに来て覚えた言葉を古い順から忘れていく気がした。
そうなるとまた覚え直さなくてはいけなくなるので、絶対に嫌だ。なんて考えていると、目の前でリタが顔だけ動かしてエステルを見て、それから控えめに首を横に振る。
「そうでもないよ。エステリーゼが言った本の内容は、ちょっと古いの」
「え……古いって?」
ハルカは思わずそう訊いていた。けれど、今度はハルカの方に目を向けたリタが、嫌な顔ひとつせずに答えてくれる。
「発掘品より劣化はするけど、簡単な魔核の復元は成功してる」
「本当ですか!」
嬉々としてエステルが言うと、リタは首を上下に動かし、静かに肯定を示した。エステルはますます喜ぶ。しかしリタはそんなエステルに目もくれず、まっすぐユーリに向き合った。
「だから、あたしなら盗みなんて馬鹿な真似はしない。そんな暇があるなら、研究に時間を費やすわ。完全に修復するためのね。それが魔導士よ」
「立派な信念だよ。けど、それで疑いは晴れないぜ」
「……口では何とでも言えるもんね」
リタが苦く笑った。ユーリの隣でアイナが呆れたようにため息を零すが、何か言い咎める様子はなかった。
なんだろう、空気が少し悪くなった気がする。そう感じたのはエステルも同じだったようで、ユーリとリタの間に入って取り繕おうと言った。
「そ、その辺りに使える魔導器(ブラスティア)が残ってるかも知れませんよ」
「そうだね。奥に行くついでだし、探しながら行こ」
ハルカが頷くと、リタがくるりと身を翻してさっさと歩き出す。思わず零れた安堵のため息がエステルと重なって、ハルカは彼女と顔を見合わせて苦笑いした。それからふたりでリタに駆け寄って、彼女を間に挟む。相変わらずラピードは、ハルカの隣を陣取っていた。
遺跡を更に進んでいく。ふと、比較的状態のいい魔導器が目に留まると、真っ先にカロルが指し示した。
「こっちのは、魔核(コア)が残ってるよ」
アイナが隣で「そうだね」と微笑む。何度も思うが、本当に仲のいい親子のようだ。和やかなふたりを横目に、リタは再びユーリの正面に立って彼を真っ直ぐ見上げた。ずい、と少し乱暴に右手を突き出す。ユーリの手に渡されたそれを、彼は素直に受け取った。
「その魔核を、これ使って撃ってみて」
「このリングについてるの、魔導器の魔核と同じものだな」
彼の掌に転がったそれを覗き見て、ハルカが首を左に倒す。あるのは石の付いた指輪だった。
これをどう使えば「撃つ」事が出来るのだろう。何か特別な指輪なのだろうか。なんだかよくわからないので、ハルカは素直に訊いてみる事にした。
「ねぇ、これ何?」
すると、エステルがハルカの隣で呟くように言う。
「術式を文字結晶化する事で必要に応じてエアルを照射する魔導器……ソーサラーリング」
「その説明、ちょっと違う。照射して魔導器にエアルを充填させる、が正解よ……って、あんた知ってるの?」
「古い遺跡の鍵代わりになると、お城の本で読みました。本物は初めて見ます」
城、という単語にリタが訝しげに眉を寄せ、思案する間を与えずユーリが彼女に声をかけた。
「撃てばいいのか?」
「あの魔導器の魔核をそのソーサラーリングで撃つだけよ。狙うものに体を向けて撃つのよ。飛ぶ距離に限界があるから、試してみるといいわ」
ユーリはリタに言われた通り魔導器に向かってソーサラーリングからエアルを放つ。放たれたエアルが魔核に当たって、四方に散って消えた。魔導器は唸りを上げる。すると、魔核から紋章のようなものを浮かんだ。それが消えると同時に、遺跡の更に奥の方から音が響いてくる。
目を凝らしてそちらを見ると、水の中から階段がせり上がり、今まで壁沿いに並んでいた石像が動き出していた。どうやらあの石像は侵入者退治用の罠で、しかも魔物……らしい。
まるで遺跡の外を歩いている時のような、ピリピリとした空気がハルカにまとわり付き始める。おそらく、これが殺気というものなのだろう。魔物と目が合ってしまえば戦闘は避けられない。
「今のはストリムの紋……移動を示す紋章ですね」
「へぇ、エステルわかるの?すごいね」
「いえ、お城の本で読んだだけですから……」
「あたし、読んだとしても覚えてる自信ないもん。だから、やっぱりすごいと思うよ」
素直に思った事を、素直に言葉にした。
そんなハルカに照れたように頬を淡く染めて、エステルは「ありがとうございます」と笑った。一方、カロルはアイナの服を握り締めて、突然動き始めた魔物をじっと見詰めていた。そんな彼の頭を、アイナが優しく撫でている。ラピードは小さな声で唸っていたので、ますます不機嫌になったようだ。
そんな、各々の反応を示している彼らをぐるりと見回したユーリが口を開く。
「んじゃま、気を付けながら先を急ぐとするか」
「いいの?あたし実はもっと奥に誘い込んで、あんたらを始末するつもりかもよ」
「罠より怖いのがここに居たよ」
乾いた笑いを零してから、ユーリはソーサラーリングを持ち主に突き出した。彼が返さんとするそれを受け取らず、リタは首を横に振る。
「あんた、持ってて」
「大事なもんじゃないのか?」
「この先も何度か使わなきゃいけないから」
「じゃぁ、先頭歩くオレが持ってた方が効率いいな」
そう言ったユーリの隣で、アイナが剣を抜いていた。カロルも自分の武器を構える。ふたりはいつでも飛び出せる体勢だ。けれどユーリは相変わらず、鞘に括り付けた白く長細い布を握り締めて、剣をブラブラさせている。ラピードもキセルをくわえたままだ。
進行方向に魔物が現れる可能性の方が高いのを考慮して、真っ先に敵に突っ込んで武器を振るうユーリが先頭を歩いた。彼の隣をアイナが寄り添い、彼女を気遣ってカロルがその隣を歩く。後方から攻撃を仕かけたり、術を放ったりするハルカやエステル、リタはその後ろに続いた。拗ねていたラピードも、流石に前衛達と並んでいる。
薄暗い中に靴音が響く。ハルカは目の前にある背中達を見詰めながら、ひとり静かに息を飲み込んだ。
to be continued...
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ほたるび