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「単なる真似っこだって」
「真似して出来るものでは、なかったんじゃ……」

そう呟きながら、エステルも驚いて構えたばかりの武器を下してしまっている。ハルカやリタに至っては、あんぐり口を開いたまま固まっていた。ラピードはいつも通りに見えるが、カロルにはユーリやアイナみたいに彼が何を言いたいのか、何を思っているのかひとつもわからない。

それぞれの反応を見せる仲間を見回して、ユーリはいつもと変わらない調子で言った。

「まぁ、ちょっとしたコツは必要だけど、そう難しいもんでもないぜ。オレのやつ、見てる内にみんなも出来るようになるんじゃないか?」
「無理、無理だって!あれは熟練した剣の」
「知ってるよ。でもカロル、お前の腕も自分が思ってる程、悲観したもんじゃないぜ?」

喋っている途中で遮られた事よりも、目の前の彼からそんな風に言われた事に更に驚いて困惑する。そんな彼を置き去りにして、ユーリはエステルもそうだと言う。彼女も戸惑っていたが、今は戦闘中で、対峙している魔物はまだ一匹残っている。

困惑したままのエステルに向って行く魔物を撃った時、ハルカにも術式が見えたらしく次の一撃で仕留めていた。すると彼女は拍子抜けしたみたいに言う。

「な〜んだ。熟練って程の腕がなくても、理屈とかがわかれば簡単だね」
「だろ?」
「うん。だって戦闘初心者のあたしが出来ちゃうんだから、みんな普通に出来ちゃうよ、フェイシャルスクラブ」
「ハルカ、フェイタルストライクだってば」

そうだっけ?と首を捻るハルカを見上げながら、和ませるために冗談で間違えているのか、本気で間違えているのかわからなくなった。

けれど、カロルはよく覚えている。会ったばかりの頃は腰に銃を二丁もぶら下げているのに、一度も抜いて戦おうとはしなかった。どうしてか聞くと、持っているだけで使った事がないし戦った事もない、そんな度胸もないと冗談めかしながらも悔しそうに笑って誤魔化していた。ハルカが初めて銃を抜いて撃ったのは、間違いなくエッグベアとの戦闘の時だったし、あれからずっと戦闘には参加しているが、魔物なんかの気配には一番鈍感な事も知っている。そのハルカに出来るなら自分だって、と考えるがすぐ首を横に振った。元々持っている才が違うのだから、と。

「聞きそびれてたんだが」
「私、ですか……?」

ユーリとエステルの声が聞こえて我に返る。見上げるとふたりが向かい合っていて、ラピードが拾ってきた鞘に剣を戻しながら続きを紡いでいた。

「どうしてトリム港で帝都に引き返さなかったんだ?」
「どうしてって……」

エステルより先にカロルは彼の疑問を納得し、口を挟む。

「そっか、エステルはフレンに狙われてるって伝えたかったんだもんね」
「あぁ、あの時点でお前の旅は終わったはずだろ?」
「それは、その……」
「ねぇ、そういえば結局、フレンって誰に狙われてたの?」
「えぇと、そこまでは……」

ユーリの疑問にも明確に答えられず、続いたカロルにも答えられずにエステルは俯いた。するとハルカとリタが首を捻って言う。

「え、ラゴウじゃないの?」
「あたしもあいつだと思ってたけど、違うの?」
「え?あの悪党?」

ますますわからなくなってしまったカロルに向き直ってから、ユーリはなるべくわかり易いように解説し始めた。

「ヨーデルはラゴウの船に居た。ヨーデルは皇族ってやつだ」
「だから?」
「本当は、フレンの任務はヨーデルを探す事だったんじゃねぇかなって事さ。なんで同じ帝国のお偉いさん同士がそんな事になってんのかは知らねぇけどな」

彼に横目で見られたエステルは、何か言おうと口を開いたが音にはならずに閉ざされた。逃げるように視線を逸らして小さく謝り、自分にもよくわからないと言う。ユーリは息を吐き出してから、今度はしっかり目を見て訊いた。

「ま、いいさ。それよりエステルの話だ。戻らなくていいんだな?」
「そうですね……私、トリム港から勢いで付いて来てしまいました。たぶん私……もう少し、みんなと旅を続けたかったんだと思います。だから……」

目を閉じて少し考えた彼女は、開けた目をユーリに向ける。

「それに、魔導器(ブラスティア)の魔核(コア)、まだ取り戻してませんし……」
「それはそうだけど、それはオレとアイナの目的だよな?」
「……ダメでしょうか」
「じゃ、付いて来るといいさ」
「ありがとうございます」
「よかったね、エステル」

ポンと肩に手を置いて微笑むハルカに、エステルは心底嬉しそうに頷いて見せた。



転送魔導器(キネスブラスティア)を利用して更に奥へ進んでいると、建物が現れた。どうやらそこより奥はなく、崖と滝が見える。幸い扉が壊れていなかったし、建物自体の崩れもなかったので中に入ってみた。他と同じ上から下まで石で丁寧に囲まれた部屋に、上へ伸びる階段と地下へ続く階段がある。どちらから先に調べようかと考えるまでもなく、突然アイナがカロルと繋いでいた手を放して歩き始めた。誰が呼び止めても止まらず地下へ向かう。ハルカ達は慌てて彼女を追った。

次の部屋にもまた階段があり、ぐるぐると円を描きながらより一層地下へ伸びている。ふらつきながらゆっくりと、彼女はそこに足を進めた。呼び止めても振り返る気配すらないので仕方なく、ユーリが正面に回り込んで両肩を掴む。怒鳴るように強く呼びかけ、掴んだ肩を揺さぶると虚ろだった瞳がいつものアイナの色に戻った。

「やっと気付いたか?」
「……ユーリ?」
「お前、大丈夫か?どっか具合悪かったりしねぇよな」
「うん……少し耳鳴りがするくらいかな」

まだ少しぼんやりした様子で彼女は言う。ユーリは酷く安堵して強くアイナを抱き締めた。先程までの、あの虚ろな瞳はまるでガリスタに操られていた時のようで不安だったのだ。彼女は何がなんなのか理解出来ず困惑しているのがわかったが、放してやる気にならなくて。

「はい、イチャイチャタイムは終了で〜す。放してくださいね〜これ以上続けるならお触り料金取りますよ〜」

そんな事を言いながらハルカが間に割って入った。引き剥がされた先でエステルとカロルにあちこち体をチェックしながら心配されているアイナの姿があって、その体温が離れてしまったのが名残惜しくつい舌を打つ。

「心が狭いね、お兄さん」
「違うって、嫉妬深いんだよオレは」
「一緒でしょ」
「いや、違うね」

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ほたるび