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「アイナ!しっかりしてぇ!!」
「フレン!」
「わかってる!先に行ってくれ!」

悲鳴に似た声を出し、涙を目に溜めながら必死に治癒術を使うエステル。フレンを呼んで走り出すハルカ。彼女に応えてからこちらへ駆け寄り、アイナを抱き上げるフレン。そのどれもが、どこか遠くで起きている事のように見えるくらい、リタの頭は真っ白のまま働かない。

「……そ、んな……あたしの、せいで」

危険だとわかっていたのに。無茶をしたせいで自分自身でなく、他の誰かを傷付けるなんて。こんな自分を友達だと笑ってくれた優しい人を、自分のせいで。

「あ、あぁ、やだ……アイナ……いやぁぁ!」



泣き腫らしアイナの手を握ったまま寝落ちたリタと、未だ治癒術を使い続けるエステルに挟まれたまま、彼女は宿屋の二階にあるベランダ付きの豪華な部屋で目を閉じている。

「エステル、アイナはもう落ち着いてるよ。治癒術だって無限に使えるわけじゃないんだから、もう止めなよ」
「はい」

返事だけして止めようとしないエステルに、ハルカは思わずため息を吐いた。無茶ばかりしてと零せば治癒術を使いながらエステルの唇が苦い笑みを浮かべる。

「本当ですね。アイナはいつも誰かのために、どこまでもまっすぐで……」
「こら、他人事にしないの。エステルも同罪だよ」
「……ごめんなさい」
「ここはあたしが残るからさ、エステルも休みな。ずっと治癒術使ってて疲れてるでしょ?」
「大丈夫です。ハルカこそ、休んでください」
「エステルが倒れたらユーリがフレンに怒られちゃうよ?」
「なら、怒られて貰います」

これはもう何を言っても無駄だなと再び息を零し、なるべく静かに部屋を出る。ユーリ達は一階に居るだろうかと考えながら歩いていると、廊下の途中で座り込むユーリとカロルに遭遇し、ハルカはつい声を上げて驚いた。

「びっっくりしたなぁ、もう。ふたりして何やってんのさ、こんな所で座り込んで」

なんとなく一緒になって座り込みながらそう尋ねると、ユーリは少し笑みを作って言う。

「いや、今日のは流石にびびったよなって話。騎士団長様もあれにはお手上げだったし、大人になっても出来ない事がたくさんあって、世の中簡単にはいかねぇよなって」
「おいおい、お兄さんよ。子ども相手にそんな話したのかね。世の中簡単だったら誰も苦労してないでしょ。実際お兄さん同棲中の恋人も養えてないじゃないか」
「そうなんだよな。ま、ギルドの話、真面目に考えるわ」
「ん?ギルド?」
「あぁ、ボクが一緒にギルド作んないか誘ったの。ハルカも、どうかな?」
「ギルドを作る、かぁ。気軽な気持ちでうんって言える話でもないし、ちゃんと考えてみるね」
「うん。ありがとう、ハルカ」

途中、通りかかった人に変な目で見られながら話を続ける。そのまま待ち続けても、リタもエステルも部屋から出ては来なかった。仕方がないので疲れた顔をしているのに頷かないカロルを説得し、先に部屋で休ませる。それからふたりでアイナの様子を見に行くと、リタは起きていたが今度はエステルが寝落ちたらしく突っ伏していた。何よりアイナも目を覚ましており、ベッドの上で上体を起こして再び泣き出したらしいリタに困惑している。

「ユーリもハルカも丁度いいところに。どうしよう、なんか怪我してないか聞いたらこうなっちゃって」
「おいおいアイナ、それより先に言う事があんだろお前」
「え?あ、おはよう?」
「違うだろ。ったく、無茶ばっかしやがって」
「あぁ、それね。ごめんごめん。でもリタにもエステルにも怪我なかったみたいだし、結果オーライって事で」
「大変だ、お兄さん。反省の色が感じられませんぜ……」
「まったくだな……それでお前があんだけの怪我してちゃ、意味ないだろうが」
「術を使ってる余裕なかったんだから仕方ないでしょ。大丈夫、もっと強くなって、次はもっと華麗に助けるから」
「これ以上強くなる気かよ……」

あの助け方は酷く格好悪かったと変な方向に反省しているアイナに、ふたりの口からため息が吐き出される。その間もずっとアイナに縋り付いて泣いていたリタが少し落ち着きを取り戻し、目を真っ赤に腫らしながら呟くように話し始めた。

「アイナは、覚えてないかも知れないけど。あたしが、あんたに助けられたの、シャイコス遺跡と今回だけじゃないわ。四年前……シゾンタニア辺りのエアル噴出量とか調べてた頃に一回、助けて貰ったの」
「うん、覚えてるよ。私がまだ喋れない頃だよね」

静かに、ゆっくりと頷いたリタは再び口を開く。

「あの時あたしは、あんたと一緒に居た犬に吠えられて、何も言わずに逃げ出した。助けてくれてるって、ちゃんとわかってたのに。エアルクリーチャーなんて危ないやつの相手を押し付けて、ひとりで逃げたの……ごめん、なさい」
「どうして謝るの?」
「だって……あたし、逃げたでしょ。シャイコス遺跡の時だって今回だって、助けて貰ったのにお礼も言わなかったし……」
「……ねぇ、リタ」

拳を握りしめながら俯き続けるリタのそれを、アイナの両手が優しく包み込んだ。思わず顔を上げれば優しく微笑むアイナが居て、リタはますます泣きたくなったのをぐっと堪える。彼女はそんなリタの拳をそっと解かせながら紡いだ。

「私は亡くなった父を娘としても、騎士としても誇りに思ってるの。だから騎士団を去る時、私は私の騎士道とその誇りを大切にしようと決めた。だから騎士団に勤めていようと、辞めていようと関係ない」
「アイナ……」
「お前は誰がなんと言おうと、ずっとオレの娘だ。もっと胸張って生きろ……最期にそう伝えてくれた父の言葉の通り、私自身が胸を張れると思う選択を心がけてるだけ。だから、リタが謝る必要なんてどこにもないんだよ。それに私、ごめんよりありがとうの方が嬉しいな」

驚いたように目を丸めたリタがぎこちなく礼を言い、涙を零し始める。嬉しそうな顔で彼女の涙を拭ってやるアイナの姿に、見守っていたユーリとハルカは酷く安堵した。そこでやっとエステルが目を覚まし、起きているアイナを目の当たりにしてすかさず身を案じ始める。ぺたぺたとあちこちに触れながら確認し、かと思えばまた治癒術を使い出した。もう大丈夫だからと止めさせて、今度はアイナがエステルの頬にある擦り傷に気付いて治癒術を展開する。

それを見ていたリタが、初めて耳にするくらい優しい声色で告げた。

「ふたり共、もう魔導器(ブラスティア)使うふり、やめていいよ」

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ほたるび