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更に森の奥へ進んで一層開けた場所に出ると、目の前に空洞を作りながらも絡み合う巨大な木々があった。その空洞から大量のエアルが立ち上がっている。リタは眉を寄せながら調査を始めた。
「これ、ヘリオードの街で見たのと同じ現象ね……あの時よりエアルが弱いけど間違いないわ」
そう呟いたリタが調査に集中出来るよう、分担して全員で辺りを警戒していると、上から大きな魔物が落ちてくる。サソリにも見えるその魔物は様々な色を有しており、一番背の高いユーリの何倍もある体躯で荒々しく襲いかかってくる。
「あの魔物もダングレストを襲ったのと様子が似てます!」
「そんなの後でいいから!エステル援護して!」
アイナが居ない今は、エステルしか治癒術を使えない。ハルカは最近やっと初歩の魔術を覚えたばかりで、治癒術は全然だ。カロルとレイヴンも傷を癒す技を持っているが、それでもエステルの治癒術に比べたら応急処置程度。魔術にしたってまともに使えるのはリタとレイヴンだけだ。そう考えるとレイヴンも結構アイナと同じで万能型で頼りになるなと、ハルカは必死に戦いながら場違いな事を考える。
「(圧倒的な戦力不足だし、みんな疲れてる上にグミもギリギリ……)」
こんな時にアイナが居てくれたら、なんてまた考えてしまう。彼女にもう無理をして欲しくないから懸命に先回りしたと言うのに。
それでもなんとかギリギリの所で魔物を倒す事が出来た。しかし安堵したのも束の間、同じ魔物が複数同時に、また頭上から降りてくる。こんな状況で四方を囲まれてしまっては、無闇に攻撃するのは悪手だろう。
「ま、また来た!」
「あぁ、ここで死んでしまうのか……さよなら、世界中の俺のファン」
「世界一の軽薄男、ここに眠るって墓に彫っといてやるからな」
「そんな事言わずに、一緒に生き残ろうぜ、とか言えないの!?」
「ちょっと、無駄な事なんか喋る余裕があるんだったら、この状況どうにかする方法考えるのに余力使ってよ!!」
ハルカがつい怒鳴ったその時、上空からまた影が落ちる。男だ。長い白銀色の髪を持ったその男が剣を掲げると周囲に目を開けていられない程の強い光が包み込み、気付いた時にはもう四方を囲んでいた魔物達が消えていた。立ち上がっていた大量のエアルも嘘のように落ち着いている。
あんな絶望的な状況を僅かな間に解決してくれた、目の前の男は誰なのだろうか。知り合いらしいレイヴンが呟いた「デューク」が名前である事だけはわかった。だが彼は、礼を言う間も何が起きたのか理解する間も与えず、去っていく。
「ちょっと、待って!」
懇願するような音を絞り出した声にデュークと呼ばれた男は足を止める。少しだけ振り返ってくれた彼に、リタは矢継ぎ早に質問を投げかけた。
「その剣は何!?いったい何をしたの?エアルを斬るっていうか……ううん、そんな事無理だけど」
「知って、どうする?」
「そりゃもちろん……いや、それがあれば魔導器(ブラスティア)の暴走を止められるかと思って。前にも魔導器の暴走を見たの。エアルが暴れて、どうする事も出来なくて……」
「それは、歪。当然の現象だ」
「ひず、み?」
質問が終わったと考えたらしいデュークがまたこちらに背を向けしまう。去ってしまう前に、とエステルが慌てて呼び止めて頭を下げた。
「あ、あの、危ない所をありがとうございました」
「エアルクレーネには近付くな。あのお方を近付けるな」
「エアルクレーネって何?ここの事?」
「世界に点在するエアルの源泉、それがエアルクレーネ」
エアルにも、やはり源泉があったのかとハルカは頭の隅で納得する。けれどそれ以上に、何か引っかかって仕方がなかった。
「あんた、いったい……こんな場所だ、散歩道って事もないよな?」
ユーリのその問いかけに答える様子はなく、彼は今度こそ背を向けて振り向かない。
「ま、お陰で助かったけど。ありがとな」
「待って!あなたの言う、あのお方って誰の事なんですか?」
デュークはほんの少しだけ視線をこちらに向けた。一瞬だけ目が合うけれど、やはり何も答えない。ただもう一度「あのお方をエアルクレーネに近付けるな」とだけ告げて、どこかへと消えた。その背を漠然と見送りながらリタは呟く。
「まさか……あの力が『リゾマータの公式』?」
けれど結局は、この場所だけを調べても詳しくわからないと結論付けた彼女に、カロルは先程デュークが言った言葉を思い出しながら声をかけた。
「さっきの人、世界中にこういうのがあるって言ってたね」
「そう。だからそれを探し出して、もっと検証してみないと。確かな事は何もわかんないわ。ここで調べる事はもうないしね」
「んじゃ、ダングレストに戻ってドンに会おうぜ」
疲れた体を引き摺りながら来た道を戻る。ドン・ホワイトホースとここへ向かったらしいアイナとも途中で会えるのではと内心期待しているのは、ハルカだけではない。それはなんとなく仲間達の雰囲気から察するのは存外容易だ。アイナが居るという事はラピードだってそこに居るだろう。彼と彼女が居ないだけで魔物と戦うのがこんなに大変だとは思いもしなかった。周りをよく見て動くふたりに、今までどれ程サポートされていたのか痛感せざるを得ない時間だった。
不意に地鳴りが一行を襲い、咄嗟にしゃがみ込む。そのすぐ傍を魔物の大群が通った。森の奥へと、まるで慌てているかのように向かっていく。頭を上げそうになったカロルを自分の下へ押し込んだユーリの姿が、ハルカの視界へ僅かに入り込んだ。
地鳴りが納まったのと共に魔物の大群は森の奥へと消え、上体を起こす。すると大群がやってきた方角に人の姿が複数あり、そこにはアイナとラピードも居た。ラピードもこちらに気が付いて尾を振っている。
嗚呼、やはりアイナの顔色が悪いなとわかると、強い魔物達に囲まれ苦戦し、もうダメかと覚悟もしたけれど、必死に頑張ってよかったと思った。いくら力があるからといっても、無理をして欲しくない。特に、血を吐くような無理だけは、絶対に。
ユーリが恋人へ駆け寄る背中が見える。辿り着く直前アイナの膝が力を失くしたが、すぐにユーリが抱き留めた。遅れてハルカ達もそちらへ行けば、強く抱き締めるユーリに疲労した身を任せきるアイナの姿があって、足元にはそんなふたりに頬擦りするラピードが居る。やはり彼らは、こうでなくては、とハルカ達は胸を撫で下ろした。
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ほたるび