04


ハルカとカロルの返事を待たずに広場に出ると、フレンが剣を杖代わりに辛うじて立っている姿が見えた。すぐにアイナが治癒術をかける。

「なんてザマだよ」
「ユーリか、頼む……エステリーゼ様を……」
「ユーリ、あれ!エステルが!」

街の出入り口付近でエステルが倒れている騎士達の治療に専念していた。すぐ近くには、あの巨大な魔物の姿がある。ウィチルが巨大な魔物に向かって魔術を放つけれど、いくらやってもエステルの方を向いたままだ。何をしても見向きしない。エステルも、巨大な魔物の狙いが自分であると気付いたようだ。

そこへアレクセイが部下を連れて広場に出て来た。護衛のために選ばれた騎士団の精鋭が手も足も出ていない状況に、どうやら何か「ヘラクレス」という兵器らしき物を使う気でいるらしい。しかしユーリ達は待っていられなくて、部下に指示を出すアレクセイ静止を無視して駆け抜けた。

先に辿り着いたアイナがエステルを背に庇い、ためらいもなく巨大な魔物に剣を向ける。

「忌ワシキ、世界ノ毒ハ消ス」
「人の言葉を……あ、あなたは……!」
「エステル、そんな事今はどうでもいい!」

一歩前へ出て巨大な魔物と会話をしようとしたエステルを片腕で止め、改めて庇う体制を整えるアイナ。すると突然、爆撃が巨大な魔物を襲い、ふたりの前から離れるといつの間にか現れていた要塞の元へ向かった。そちらが優先と考えたのだろう。要塞は砲撃を続け、巨大な魔物はその体躯からは考えられない身のこなしでかわしている。何度かこちらに来てはいるが、続く砲撃のせいで何も出来ないようだ。

「ここに居ちゃ危ないよ!」

カロルの言う通りだ。ここに居ては危険すぎる。砲撃の中でも未だあの巨大な魔物は隙を見て狙ってきているのだ。離れた方が得策だろう。

「オレ達はこのまま街を出て、旅を続ける」
「え?」
「帝都に戻るってんなら、フレンのとこまで走れ。選ぶのはエステルだ」
「私は……」

砲撃は未だ止まない。まるで豪雨のようだ。

「エステル、素直になっていいの」

背に庇ったまま、アイナがそう言うとエステルは少しの涙を流して顔を上げた。

「私は旅を続けたいです!」
「そうこなくっちゃ!」

ハルカが嬉しそうに笑ってエステルの手を取る。すると彼女はもう一度だけ涙を流してから笑った。その直後、砲弾が街を繋ぐ橋に直撃する。ハルカはエステルの手を握ったまま走った。ユーリ達も崩れる橋から離れる。途中、橋で巨大な魔物と対峙するジュディスの姿があった。

ハルカの手を放したエステルがジュディスに駆け寄り、その無事を確認するように手を握る。

「ジュディス?危ない事しないで!」
「お前がそれ言うな」

確かに、とアイナが笑う。するとお前もだとユーリが彼女を小突いた。

「心配ないわ。あなた達は先に」
「さぁ、早く!」
「あら、強引な子」

エステルがジュディスの手を強引に引いて走り出す。ジュディスはされるがまま、エステルと共に走る。後を追う形で走ると、しかしユーリ達が街を出ようとするとあの巨大な魔物も飛び去った。なぜ帰っていくのか。何が目的だったのか。忌まわしき世界の毒とは何か。何もわからないまま巨大な魔物は姿を消した。

「待つんだ、ユーリ!それにエステリーゼ様も!」

肩で息をしたフレンが声を張る。面倒なやつが来たとユーリとアイナは少し顔をしかめたが、フレンは橋が壊れてユーリ達の居る所までは来られない。

エステルは壊れた橋のギリギリの所まで戻ると、真摯に頭を下げた。

「ごめんなさい、フレン。私、やっぱり帝都には戻れません。学ばなければならない事が、まだたくさんあります」
「それは帝都にお戻りになった上でも……」

エステルは静かに、ただ首を横に振った。

「帝都にはノール港で苦しむ人々の声は届きませんでした。自分から歩み寄らなければ何も得られない……それをこの旅で知りました。だから!だから旅を続けます!」
「エステリーゼ様……」

するとユーリも、何か腹を決めた顔でフレンに何かを投げ渡す。それが下町の水道魔導器(アクエブラスティア)の魔核(コア)だと、ハルカは直感的にわかった。

「フレン、その魔核、下町に届けといてくれ!」
「ユーリ!」
「帝都にはしばらく戻れねぇ。オレ、ギルド始めるわ。ハンクスじいさんや、下町のみんなによろしくな」
「ギルド。それが、君の言っていた君のやり方か」
「あぁ、腹は決めた」
「……それは構わないが、エステリーゼ様は」
「頼んだぜ」

遮るように言ったユーリがフレンの呼び止める声を無視してカロルに向き直る。エステルはその間に丁寧に頭を下げてから、ハルカの所へ戻って来た。

「言うのが逆になっちまったけど、よろしくな、カロル」
「あ、カロル。あたしもよろしく〜」
「うん!」

軽い調子で言いはしたものの、真面目に考えた結果だった。ハルカにはこちらの世界での生活の基盤も糧も、知識もない。そう考えた時、カロルからの提案は渡りに船だったのだ。

「さぁ、とっとと街を出ようぜ。ウダウダしてると騎士どもが追っかけにきちまうぞ」

ユーリがそう言って歩き出すと、ハルカはフレンに手を振ってから後を追って今度こそダングレストを出た。街を出てしばらく進むと少しばかり開けた場所に出て、誰がともなく足を止める。カロルは肩で息をしているし、正直ハルカも疲れていた。エステルも顔に疲労が見える。

「はぁ、はぁ、街を出なきゃはわかるんだけど正直へとへと〜。てゆうか、なんでジュディス付いて来てんの?」
「行きあがり上、そういう事になったみたい」
「道連れが増えんのは構わねぇけど、今はもうちょっと頑張って踏ん張ろうぜ」
「どこまで踏ん張ればいいのかしら」
「ここから近いのはヘリオードか」
「じゃぁ、とりあえずそこまでだね」

ユーリに続いてアイナがそう決めると、ハルカとカロルは揃ってブーイングを始める。するとエステルが少ししたら休憩しようと提案してくれたので、ふたりは食い気味で賛成した。

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ほたるび