05




ヘリオードを目指して足を進めていると、もういい加減に疲れてしょうがないカロルが速度を落としながら口を開いた。

「そろそろ休憩しようよ〜」

するとジュディスは周囲を見渡してから頷き、ユーリもアイナも野営の準備を始めてくれた。道具をくわえてラピードも手伝っている。暗くなり始めてから野営の準備をするのはよくないと言ったアイナいわく、騎士団では野営準備の訓練もあったそうだ。道理で随分と手際がいい。

「ひと休みしたらギルドの事も色々ちゃんと決めようね」
「ひと休みしたいのはカロル先生だけどな」
「え〜、あたしも休みたい」
「ギルドを作って、何をするの?あなた達」

ジュディスに問われて、改めて考え込むユーリとハルカだったが、カロルは既に決めているらしく元気に宣言する。

「ボクはギルドを大きくしたいな。それでドンの跡を継いで、ダングレストを守るんだ。それが街を守り続けるドンへの恩返しになると思うんだ」
「立派な夢ですね」
「オレはまぁ、首領(ボス)について行くぜ」
「そうだね、同じく」
「え?ボ、首領(ボス)?ボクが?」
「そりゃそうだよ。ね、ユーリ」
「あぁ。お前が言い出しっぺなんだから」
「そ、そうだよね。じゃぁ、何からしよっか!」

とりあえず落ち着けとユーリに言われながら頭を撫でられ、カロルは嬉しそうに返事をした。それでも興奮が収まらない様子のカロルに、ハルカはつい笑ってしまう。そんな光景を見ながら、ジュディスはつい、といった様子で零した。

「なんだかギルドって楽しそうね」
「ジュディスもギルドに入ってはどうです?」
「あら、いいのかしら。ご一緒させて貰っても」
「ギルドは掟を守る事が一番大事なんだ。その掟を破ると厳しい処罰を受ける。例えそれが友達でも、兄弟でも。それがギルドの誇りなんだ。だから掟に誓いを立てずに加入は出来ないんだよ」
「カロルのギルドの掟は何なんです?」

言葉を詰まらせるカロルに、ユーリが助け舟でも出すように声を上げる。

「お互いに助け合う、ギルドのことを考えて行動する、人として正しい行動をする、それに背けばお仕置きだな」
「え?」
「ひとりはギルドのために、ギルドはひとりのために。義をもって事を成せ、不義には罰を、だね」

ハルカがそう簡単にまとめると、ユーリも頷く。

「掟に反しない限りは、個々の意思は尊重する」
「ユーリ、ハルカ、それ……」
「でしょ?首領(ボス)」

あの時、あの壁を見た時から決めていた。ユーリと、カロルと。ギルドを作るなら自分達のルールはこれがいい、これしかないと。それはユーリも同じだったらしい。

「ひとりはギルドのために、ギルドはひとりのため……う、うん!そう!それがボクたちの掟!」

酷く嬉しそうにカロルがまた笑う。するとジュディスも、ならと笑った。

「今からは私の掟でもある、という事ね」
「そんな簡単に決めていいのか?」
「えぇ、気に入ったわ。ひとりはギルドのため……いいわね。掟を守る誓いを立てるわ。私と、あなた達のために」
「あんたの相棒はどうすんだ?」
「心配してくれてありがとう。でも平気よ、彼なら」

ユーリの言うジュディスの相棒が誰なのかわからないハルカ達が首を捻ると、彼女は以前旅をしていた友達だと教えてくれた。なんとなく引っかかりを覚えたハルカだったが、カロルは気に留める事もなく言う。

「へぇ、そんな人が居たんだね。じゃぁ今日からボクらがジュディスの相棒だね!」
「よろしくお願いね」
「よろしく!」
「ワン!」

ラピードも元気に声を上げると、今度はアイナを見上げたカロルが言う。

「よかったらアイナもどう?」
「ごめんね、今はちょっと難しいかな……ギルドとの個人契約をちょっと見直して話をしてからじゃないと」

すると途端に落ち込むカロルの頭を撫でてやりながら、アイナは再度謝った。どうやら小説家としての活動に関係しているようで、彼女はそれ以上何も詳しい事は教えてはくれず、ユーリ達は野営の準備を再開した。

ハルカが手伝って作ったエステルの夕食を食べ終えて、夜が更けてくると各々自由にくつろぎ始める。ハルカはアイナに魔術の基礎を教わっていたが、その膝にはユーリが居る。ユーリは彼女の膝を枕にして横になっていて、ラピードはその隣でくつろいでいるのだ。エステルは暗がりなのに少しの明かりで本を読んでいるし、カロルとジュディスは自分の武器の手入れをしている。

魔術の講義もひと段落したところで、ハルカは声を潜めてアイナにもう大丈夫なのか尋ねた。何が、とは言わなかったが意図は伝わったらしく、彼女は苦く笑いながら頷く。

「ユーリの暑苦しいくらいの愛情、信じない理由が見付からなかったよね」
「だよね〜」
「最近ちょっとバタバタしてて、表現不足だと思ってたんだけど?オレ」

今までのあれで表現不足とのたまう神経を疑ってしまうハルカだったが、アイナは顔を真っ赤にして今はいらない、大丈夫だと首を横に振っている。

目の前で突然彼女の膝から起き上がったユーリがアイナの唇を濃密に奪うまで、間はなかった。



いつものようにユーリとアイナそれからラピードが交代で見張りをしてくれた翌朝、カロルの作った朝食を終えて野営の後片付けも終えると、ふとハルカが同じギルドのメンバーの誰ともなく声をかけた。

「ギルドも立ち上げたし、何か仕事したいねぇ」
「そう慌てるなって。そういえば、エステルはこれからどうするつもりなんだ?」

街でユーリに問われた時、彼女は確かに旅を続けたいと言った。当てのない旅なのか、それとも何か彼女なりの目的地があるのか。ハルカも知りたかったのでエステルの方を見ると、彼女はまっすぐに見詰め返してきた。

「私は、あの喋る魔物を探そうと思います。狙われたのが私なら、その理由を知りたいんです」
「理由がわからないと、おちおち昼寝も出来ないか」
「でも見付かる?どこに居るかわからない化け物なんて……」

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ほたるび