06
「化け物情報はカロル担当だろ」
「いくらボクでもあんなの初めてだもん。わかんないよ〜」
カロルが拗ねると、ジュディスが化け物ではなく「フェロー」だと訂正した。どうやら彼女はあの巨大な魔物を知っているらしい。
「ジュディス、知ってるの?」
「前に友達と旅をした時に見たの。友達が彼の名前を知っていたわ」
「一緒に旅してたって人?その人、なんでそんなの知ってたの?」
カロルの問いにジュディスは何も答えず、ただ笑顔を貫く。それ以上何も言う気はないらしい。エステルが代わってどこで見かけたのか尋ねると、ジュディスは「デズエール大陸」にある「コゴール砂漠」だと教えてくれた。ハルカはまた新しい大陸の名前だ、と覚える事が増えて少しうんざりしてしまう。
「このトルビキア大陸の南西の大陸ですね。デズエール大陸……砂漠……」
「ただ見たってだけで、ほいほい行くようなとこじゃないぞ。砂漠は」
「そうだよねぇ」
カロルがユーリに同意するも、エステルは何か心当たりでもあったらしく、もしかしてと呟く。
「あのおとぎ話の……お城で読んだことがあります。コゴール砂漠に住む、言葉を喋る魔物の物語を」
「でも、いくらでもあるじゃん、そんな話。ほら、海の中から語り掛けてくる魔物の話とか」
「それはきっと逆ね」
逆とはどういう事なのかオウム返しにカロルが尋ねると、ジュディスに代わってアイナが答える。
「彼らを見かけた人が、そのまま書いたんだと思うよ。それでおとぎ話になったんだと思う」
「火のないところに煙はたたない、ですね」
「でもさ、もしかしてエステルはひとりで行くつもりだったの?」
「え?あの……」
言葉を詰まらせて俯いてしまったエステルに、ユーリ達は揃ってため息を零す。どうやら本当にひとりで行く気だったらしい。
「やれやれ。こりゃ護衛役続けとかねぇとマジでひとりでも行っちまいそうだ。なぁ、これギルドの初仕事にしようぜ」
「うん。これでエステルをひとりで行かせたら、ギルドの掟に反するね」
ハルカがユーリに続いてそう言うとジュディスも頷く。
「そういう事ね」
「でも、仕事にするなら、エステルから報酬を貰わないと」
「別にいいだろ、金なんて」
「ダメだよユーリ。仕事として受ける以上は後払いきちんと報酬は貰わないと」
「ハルカの言う通りだよ。それに、ギルドの運営にお金は大切なんだから」
今は持ち合わせがないと落ち込むエステルに、ジュディスも後払いを提案する。確かにまだ料金など決めてはいないし、後で払って貰った方がギルドとしても助かるだろう。成功報酬という形にすればいいのだ。必ず払うとエステルは真摯に頷いた。
話が決まると、今度はカロルが元気いっぱいに拳を突き上げる。
「よーし!じゃぁ勇気凛々胸いっぱい団出発!」
「ちょ、それなんです?」
「え、ギルド名だよ」
「え、なんかやだ」
「そうです!それじゃだめです!名乗りを上げる時にずばっと言いやすくないと!」
思わず否定してしまったハルカを後押しするようにエステルが力強く言うと、カロルは素直に新しいギルド名を考え込む。カロルの考えた「勇気凛々胸いっぱい団」は可愛い名前だけれど、なんだか格好悪い気がした。ハルカも考えてはみているが、ユーリもジュディスも考えている様子はない。カロルの考えた「勇気凛々胸いっぱい団」でいいのだろうか。
やがて閃いたらしいエステルが手を打って自身ありげに提案する。
「凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)なんてどうです?夜空にあって、最も強い光を放つ星です」
「一番の星か、格好いいね!」
あ、とハルカは思わず声を出した。文句がある訳ではない。ただちょっと、この世界に来る前に見た、タイトルと同じだと思ったのだ。
「凛々の明星(ブレイブヴェスペリア)……ね。気に入った、それにしようぜ」
「大決定!じゃあ早速トリム港に行って船を調達しよう!デズエール大陸まで船旅だ!」
「ヘリオードで休むのはもう良いのか?」
「もうへっちゃらだよ!」
だがどちらにしても、ヘリオードを通らなければトリム港には行けない。
ヘリオードと言えば結界の役目をしている魔導器(ブラスティア)の暴走があった街だ。あの後どうなったのか、ハルカだけではなく、アイナもエステルも気になっていたようだ。凄い暴走だった。思い出すだけで寒気がする。
通りがかるついでに様子を見ていく事になると、カロルは今度こそ格好よく出発すべく拳を突き上げる。
「じゃあ改めて……凛々の明星、出発!」
ワン、とラピードも高らかに吠える。
空は新たな門出に相応しい、キレイな晴天だった。
to be continued...
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ほたるび