10話






「ねぇ、渚」
「何、カルマ…」

 
 帝丹高校の廊下を歩く高身長の赤髪の男は隣にいる低身長の水色髪の中性的な人物…渚に声を掛けると彼は赤髪の男…カルマに返事をしながら歩みを進める。


「想像はしてたけど俺達セット扱いなんだね」
「あはは…まあ、エンドじゃ2人一組は基本中の基本だしね」

 
 カルマは気だるそうな顔をしてポケットに手を突っ込みながら前を見ながら渚に言葉を投げかけると渚は困ったように笑いながら彼の言葉に返す。
 渚はふと教室の上に記されている“2-B”と書かれたボードを見ては足を止めるとカルマもつられる様に足を止めた。

 
「でもさ…」
「うん…」


 カルマも渚が見上げている先を見て眉下げて何か文句を言いたそうに言葉を途中まで言いかけると渚は彼が何が言いたいのか理解しているのか何も言っていないカルマに頷く。


「急に赴任してきた教師二人が担任と副担任ってのは出来すぎだよね」
「…だよね」
 

 カルマは片方の手を腰に当ててため息をついては呆れたように言葉を紡ぐと渚は同じことを思っていたようで方を落として同意した。


「まあ、頼りにしてるよ。渚せんせー」
「もう…調子良すぎ」


 カルマは渚を見下ろしては悪戯っこのように微笑むと渚はそんな調子のカルマにため息をついて彼に注意しては目の前の教室の扉をガラっと開けて教室の中へと入っていく。


「はーい、席について」
「うっわぁ、可愛いー!」
「い、イケメン…!!」


 渚は教室の中でがやがやと談笑している生徒達に席に着くように声を掛けると赴任してきた二人の先生に目を向ける生徒達は二人の容姿について言葉を漏らしていた。
 

「ぶっ…可愛い……」
「……コホン、日直」
「起立、礼!着席」

 
 教壇の上に立った渚とカルマだったが、カルマは生徒の1人が渚を見て“可愛い”というワードを言ったのを聞き取っており、思わず吹いてしまっていたがその後笑いを堪えるように肩を震わせてボソッと渚に聞こえるように言葉を呟く。
 カルマの呟きが聞こえた渚はカルマを睨むように横目で見ては咳払いをして日直に声を掛けた。日直は渚の言葉に号令をかけると生徒達は立ち上がって礼の言葉でお辞儀をしては席に着いた。
 

「新井先生の代わりとして赴任してきました担任の潮田渚です。教科は英語になります。みんな、よろしくね」
「河村先生の代わりとして赴任してきた副担任の赤羽業です。教科は数学。よろしく」


 渚は黒板の方を向いて白いチョークを手に持つとチョークの独特な音をさせながら自身の名前を書くと振り向いて教卓に両手を突いて微笑みながら自己紹介をした。
 カルマも同じように黒板に自身の名前を書くと振り返っては左手をポケットに手を突っ込みながら自己紹介をする。


「め、目の保養だわ」
「あ、因みに渚せんせーはかわいー見た目してるけど、男だから男子気をつけなよ」
「あの、カルマ先生?そんな忠告しなくてもみんな分かって……」
「「………」」


 カルマの高身長に加えて整っている顔を見た女子生徒は頬を少し赤く染めてポツリと言葉を零すとカルマはふと思い出したかのようにへらっと笑いながら男子に忠告をする。
 その忠告に渚は眉をピクッと反応させて複雑そうな顔をしながらカルマに反論しているが生徒達の反応が無反応であることに気が付いては生徒達の方に顔を向けると生徒達は渚を見て呆然としていた。


「え、」
「「えええええ〜〜〜〜!!」」
 

 呆然としていた生徒達の中で1人の男子生徒が一言言葉を漏らすとその言葉にはっと覚醒したように目を見開くと渚の性別に2年B組の生徒達全員が教室が揺れんばかりの大きな声で声を揃えて驚いていた。


「……なかった………そんなに驚かなくても…」
「やっぱ、取った方がいーんじゃない?」
「取らないよ!大事にするよ!!」


 生徒達の驚きように渚は頭を垂らして悲しそうに言葉を漏らしていると隣にいたカルマはニヤニヤしながら10年前にも良くやっていたからかい方を渚にする。
 渚はキッとカルマを睨んで必死の突込みを入れた。


「凸凹コンビだな」
「うぅ…」
「ふふ、渚先生ってなんだか可愛いね」
「だね!癒し系?弄られキャラ?って感じ!」


 カルマと渚のやり取りを見ていた男子生徒はケラケラ笑いながら言葉を零すとその言葉を聞き取った渚は身を縮こまらせてションボリするとその姿に女子生徒達は笑みを零しながら渚の愛らしさに話を盛り上げていた。


「赤羽先生ってモデルですか!?」
「身長でかいよな」


 元気の良い女子生徒は手を上げて興奮気味にカルマに質問をすると元気の良い女子生徒の隣の席に座っている男子生徒は頭の後に手を組んでカルマの身長に対しての感想をぼそりと呟く。

 
「ざんねーん、はずれ。まあ……教師になりたくて空きを待ってたってことにしようか」
「なんだよ、とってつけたような理由は」
「ん?確か……世良ちゃん、だっけ?」


 カルマは質問された内容に肩をすくめて不正解と応えると顎を支えるように親指と人差し指を添えてはそれらしい理由を述べるが、その言葉に違和感を覚えた生徒がいたらしく凛とした声がカルマを突き止めるように言葉を発する。
 カルマは飄々とした顔をしながら声を発した生徒を観察するように見ては彼女…世良真純の名前を思い出しては彼女の名前を疑問系で口にした。


「教師になりたくて空きを待ってた、でいい所を“待ってたってことにしようか”って表現はどういう意味?なりたくてなったように聞こえないんだけどボクの気のせいか?」
「あー…言葉の綾だね。ごめんごめん」
「…………」


 世良は獲物を狙うか如く鋭い目で彼の発した言葉の違和感を問い詰めるように問い掛けていくとカルマは彼女の言いたいことを理解したのか表情の読めない声音で言葉を延ばすとヘラヘラした顔をして言葉の綾だと謝罪をするが、その謝罪はとても軽く、本当に悪いと思っているような謝り方ではなかった。
 世良はそんな態度のカルマの真意が読めずじっと彼を睨むように見つめる。


「せ、世良さん!」
「……なんですか」
「えーっと、カルマ…先生は人をおちょくるのが大好物だからあまり挑発しないようにしてね」
「……」


 生徒達が二人の対立にざわつき始めると渚は少し空気の重くなった教室の空気を変えようと世良の名前を呼ぶと世良は目線だけ渚に移して渚に言葉を返す。
 渚は困ったように笑いながら必死に彼女に分かってもらおうとカルマという人物を教えると世良は黙ったまま不機嫌そうに自席に座った。


「ねえねえ、渚先生!」
「えーっと…鈴木さん、どうしたの?」


 とりあえず納得した世良に渚はほっと息を付いていると別のところから今度は渚を呼ぶ女子生徒の声が彼の耳に届く。
 渚は声の主である鈴木園子に顔を向けると柔らかく微笑みながら彼女に問い掛ける。


「どうしてそんなこと知ってるんですか?今日会ったばっかなんじゃ…」
「えっ、あはは……それは挨拶そうそうおちょくられたから……」
(そこを突っ込まれるとは思わなかった……上手く誤魔化せた、かな)
 

 園子は不思議そうに人差し指を頬に当てて首をかしげながら渚に問い掛けると渚はまさかそこを突っ込まれると思っていなかったのか少し驚いたような声を上げては苦笑いしながら目線を下げて彼女の問い掛けに答えると彼女の反応を伺っていた。
 

「へぇ〜、確かに渚先生って弄りがいありそうよね」
「やめてね!?」
「あはっ、早速弄られてんじゃん。渚せんせー」 


 園子は渚の答えに納得すると他の生徒達もうんうんと頷いて園子の言葉に同意する。
 その生徒達の姿に渚は目を見開いて生徒達に突っ込みを入れていると彼の隣にいたカルマは生徒達と渚のやりとりにケラケラ笑ってはニヤニヤした顔をして渚を見下ろした。


「もう……って、時間が無いからとりあえずHR終わり!欠席は……工藤君だけで遅刻も無し…日直!号令!」
「起立!…礼!」

 
 カルマにからかわれてると思ったのか渚は眉を下げて彼に文句を言おうとするが時計を見るとHRの時間が少し過ぎていた為、急いで出席を取ると日直に声を掛ける。
 渚の一声に日直は号令をしてSHRは終わりを告げた。


「……」
「世良さん、どうしたの?赤羽先生に突っかかってたけど…」
「そうそう、あんなイケメンに突っかかれるなんて世良さんくらいよ」


 渚はカルマの背中を押してさっさかと教室を出て行くとその姿を世良はまるで猫のようにじっと見つめていると彼女の側に毛利蘭と鈴木園子が近づく。
 蘭は心配そうに世良を見ては声を掛けると園子は蘭の言葉にうんうんと頷いて言葉を零していた。


「あの赤羽って先生……何かいけすかなかったんだ」
「い、いけすかない…」
「それにあの先生は裏がある気がしたんだ…」
 

 警戒しているような目をしながら世良は二人の疑問に答えると思ってもいなかった言葉だったのか二人は目をてんにさせており、彼女の発した言葉に蘭は戸惑いながら復唱する。
 世良は自身の机をじっと見つめては彼女の勘が何かを訴えているとばかりにぽつりと言葉を口にした。


「まっさかぁ!考えすぎじゃない〜??ねぇ、蘭!」
「う〜ん、人をおちょくるの好きそうに見えたけど…裏は無いと思うなぁ」
「……」


 世良の言葉を聞き取った園子は明るい声音でありえないとばかりに言葉を返すと蘭に同意を求める。
 蘭は上を向いて顎を親指と人差し指で支えるように考えると園子と同じ意見になったようで独り言のように言葉を零した。
 二人の意見を聞いた世良は二人に目を向けてじっと黙って考え込み始める。


「渚先生…あわあわしてて可愛かったよね」
「可愛かった!髪伸ばせば美少女ね、あれは」
(…本当にボクの気のせいか……?)


 蘭はふと思い出し笑いをしては嬉しそうに渚の可愛らしさについて話すと園子も目を見開いて蘭の言葉に同意すると何かを企むような顔をして意味深な言葉を発しては自分の言葉に頷いた。
 その姿を見た蘭は眉を下げて笑っていると世良は二人の会話を聞きながらも自分が感じた違和感について考え続けていた。



◇◇◇



「もう、…突っかかれたからって挑発しないでよ」
「ごめんごめん…からかいがいがありそうだなって思ったらついね」
「ついって…」


 教室を出た渚は教員室を目指しながら少し目の前を歩くカルマを軽く睨みながら自分達の生徒達に挑発をしていたことを忠告すると反省の色が見えない謝罪をするカルマはケラケラ笑いながら渚に言葉を返す。
 返された言葉に渚は呆れたように突っ込みを入れた。


「でも、世良ちゃんは中々鋭いみたいだし……気をつけた方がいいね」
「うん、そうだね」
「一応、調べてもらおうか……うちのスペシャリストに」
 

 カルマはふっと真面目な顔をして先ほど自身が発した言葉の違和感に突っかかってきた世良の姿を思い出しては警戒するべき人物として認定するとその言葉に渚も真面目な顔になっては同意の言葉を返す。
 カルマは左手を右肩に乗せて首の筋を伸ばすような仕草をすると警戒すべき人物を誰かに調べてもらおうと言葉を紡いだ。


「あははは…そこは律じゃないんだ」
「それにさ、あいつ言わないと動かなさそーじゃん?」
「確かに…」


 カルマの言った“スペシャリスト”というワードで誰に頼むつもりなのか分かった渚は苦笑いをしてはもう1人のスペシャリストじゃないことに言葉を漏らす。
 カルマは目を閉じて呆れたように彼の言うスペシャリストは怠け者のような言い回しで渚に同意を求めると渚はフォローが出来ないと思ったのか冷や汗をかいて目をそらして彼の言葉に同意した。




英語と数学の教師が

 ―帝丹高校に赴任してきた―




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