9話






「だー!も〜…疲れたぁ…」


 旧校舎…元いい自分たちで買った山の校舎で新たにエンドのE組は結成され、無事帰宅した刹那は自身のベッドに思い切りダイブして心の声が思わず漏れていた。

 
“本郷さん、君に頼みがある”


 枕に顔を埋めて抱き締めてる刹那は話し合いの後、こっそり烏間に呼び出されて掛けられた言葉を思い出す。


「もー、私は平凡にひっそり暮らしたいのに…まあ、無理なのは分かってるけど」


 烏間の言葉を思い出しては伸ばしきっていた足をバタバタと暴れさせて無駄な抵抗をしてはまた足の力を抜いてばたりと布団へ足を投げ出した。


“君は降谷君の協力者だが、こちらの情報は渡さないで欲しい。彼がバーボンとして潜入していることを知っているということも”


 刹那は射抜くような視線でしっかり刹那の目を見て言葉を掛ける烏間の姿をまた思い出す。


(まあ、渡せるわけ無いよね…それを言ったら全てを話さないといけないし)


 枕に埋めていた顔を横にして深いため息をついて彼の忠告という名の頼みを納得した。


――ただし、君は誰よりも彼の近い場所にいる。彼は相当な切れ者だが、彼から得られる情報は得てきて欲しい。そして、こちら側の人間には彼の協力者であることは今はまだ言うな。

 
 烏間から言われた続きの言葉を思い出した刹那はパタパタしていた足をピタッと止めて足の力を抜くと彼女の足は力なくベッドへ放り投げだされた。


(なんてスパルタ教師なんだろう…)
 

 彼女はうつ伏せになっていた体をゆっくり転がって仰向けになると烏間の厳しさに心の中で言葉をポツリと零す。


――君なら出来るな。


 真っ直ぐ見つめる恩師の瞳には彼女への絶対的な信頼が見られていた。


(絶対的な信頼を見せられちゃぁ…応えるしかないのよねぇ)
「はああ〜〜〜〜…覚悟決めますか……あ?」


 真っ直ぐ刹那の目を見る烏間の目を思い出しては彼女は足をパタパタさせながら考え込んでいると深く長いため息をつくと刹那は彼に指令を出されたことに対して腹を決めようとするとサイドテーブルに置いていたスマホからバイブ音がして眉間に皺を寄せた。


(………ナイスタイミング…なのかなぁ、バットかなぁ)
「もーしもしー…」
『……僕だ』


 バイブ音の長さ的に電話であることを理解した刹那はスマホに映し出されている電話主の名前…降谷零の名前を確認するとのん気なことを考えながらのろのろとスマホを手に取りながら応答ボタンを押して電話主に気だるそうな声を掛けると気だるそうな刹那の声に電話主は少し間を空けて言葉を発っした。


「分かってます…」
『なんだ、そのやる気のない声は』
「私ののーみそが思考停止してるだけです…」


 刹那はやる気のない声で降谷に言葉を返すと彼は呆れたように言葉を返すが彼女は彼にどう思われようがいいらしく素直に今自身の感情…というより状況をざっくり説明する。

 
『仕事の話をしたいのだが?』
「分かってます…用件は?」


 降谷はため息を付いてさっさと要件を話させろとばかりに問い掛けると刹那はむっとした顔をして言葉を返すと要件を聞き始めた。


 『木下麗華という女性について調べて欲しい』
「…その類ってそっちで調べた方が早いんじゃないんですか?」
『君なら今すぐ出るだろ?』


 彼からの発せられた言葉に刹那は眉をぴくっと動かしては疑問に思ったことを口にするが、降谷から返された言葉はとんでもなく特急な依頼であることを現していた。


「……イマスグデスカ?」
『ああ、出来るな?』
「もー…!やりますよ!PC立ち上げるんで待ってください!」


 彼から発せられた言葉に違和感を覚えた刹那はピタリと固まって頬を引き攣りながら彼の言葉に問いかけ返すと彼は肯定して刹那なら出来るという確信があるような余裕のある声で彼女に再度問い掛ける。
 刹那はその言葉の立ちの悪さに悪態をついてはベッドから起き上がってPCのある部屋へとバタバタ走り出した。


(処理したから大分軽くなってるけど…立ち上がり遅いかなぁ…あ、スムーズにいった)
『君がPCを立ち上げていないのも珍しいな』


 刹那はPCのある部屋へと入るとすぐさまPCの電源を入れるがHDの容量が増え続けていたため、処理してはいたものの起動が遅くないかと心配していたが、それは杞憂だったようだ。
 パスワード画面に移ったのを確認した彼女はパスワードを入力し始めると降谷はいつもこの時間ならPCを立ち上がっていると思っていたのか不思議そうに素朴な疑問を口にする。


「まあ、外出してたんで」
『こんな夜中にか』
「プライベート詮索禁止」


 刹那はパスワードを入力終わったようでEnterを押してはざっくり彼の疑問に答えるともう夜も遅い時間…というよりも夜中に女性が外出していたということに快く思わなかったのか降谷は突っ込んで聞くが彼女はふぅと息を吐いては彼に詮索するなとばかりに言葉を吐いては調べろといわれた人物の名前を入力して調べ始めた。


『手厳しいな…』
「だって、今の貴方は“降谷さん”でしょ」
「僕じゃなければいいのか?」
 
 はぁとため息を付きながら困った声音で彼女に言葉を返す降谷だが刹那は彼の反応に淡々と言葉を返しながら又別の画面でとあるコンピュータセキュリティに侵入してはカタカタとブラインドタッチで入力をし続ける。彼は表情の読めない声音で刹那の言葉に更に問い掛けた。


「そうですねぇ…探偵でも雇ったらどうですか?」
『徹底してるな、君は』

 刹那はコンピューターセキュリティに侵入できると口角を上げて降谷を試すように問い掛け返すと彼は彼女の言葉にこれ以上聞いても無駄だと理解したのはため息を付いて彼女を賞賛する言葉を述べる。


「それが私なんで……っと、出ました。木下麗華(28)独身。東都大に入学するもすぐに中退。現在は産能商業で営業事務として働いていて、米花町1丁目3番地21号にあるロータスマンション201に住んでますね」


 刹那は降谷の言葉に肯定するとターゲットの情報を手に入れられたようですらすらと情報を降谷に伝えるが、彼女の目の前にある画面には2種類のSNSに加え、彼女の働いている会社の情報なども映し出されていた。


『……それ以外は?』
「で、副業してるみたいですよ。夜のお仕事を」
『その店は分かるか』

 
 彼女の情報を黙って聞いていた降谷は更に情報を催促すように問い掛けると刹那はブラインドタッチしながらターゲットの詳細を見つけては呆れた顔をしながら追加情報を降谷に渡した。
 彼女の追加情報に目を付けた降谷は即座にターゲットが働いている夜の店の名前を問う。


Cloverクローバー…因みに彼女の源氏名はサファイヤ。あーんまり良くなさそうな店でキャバ嬢やってるみたいですね」
『何故良くない店と分かるんだ?』
「前に潰した店・・・・に似てる気がして…まあ、直感ですけど」


 降谷の問い掛けに答えるべくターゲットの働いている夜の店を調べると意外にも情報が簡単に出ててきて刹那は画面に映し出されている文字を淡々と読み上げるとターゲットの源氏名まで情報を入手しており、ボソっと個人的な感想を呟いた。
 彼女の個人的感想に疑問を抱いた降谷は刹那に問い掛けると彼女は淡々ととてつもなく第三者が聞いていたら違和感を感じるであろう言葉で彼の問い掛けに答える。
 

『…なるほどな』
「あとは副業してない時は最近付き合っていた彼氏と別れたとかで酒飲みながら同期に愚痴を言ってるみたいです」
『…いつもながらどうしてそんな詳細まで調べられるんだ……?』


 降谷はふぅと息を吐いては彼女の答えに納得したように言葉を返した。
 刹那は彼がどう思っているのかどうでもいいのか更に追加情報を降谷に提供すると戸惑っているような声音で降谷は素朴な疑問を彼女に投げかける。


「SNSに自分から自身の情報発信してる世の中ですから。あとは写真とかで簡単に割り出せますし」
『……』
「あ、怒るのはなしですよ?やりたくてやってるわけじゃないし」


 降谷の素朴な疑問を受けた刹那はきょとんとした顔をしてはふっと笑って当たり前のように彼の問い掛けに答えるが、降谷は彼女の言葉にただ黙って声に耳を傾けていた。
 降谷からの応答がないから刹那は降谷が怒っていると思ったのか先手を打つように怒るなよとばかりに言葉を掛ける。


(何故君にその技術を見につけているのか…なんて聞いたところで答えないな)
『はあ……ああ、分かっている。また連絡する』
「ご愛顧ありがとうございまーす」


 降谷の中で一番疑問に思っていることを口に出そうか迷っていたようだったが、どうせ答えて貰えないという結論が出たところで彼はため息を付いては彼女の言葉に肯定して電話を切る旨を刹那に伝えると彼女は飄々とした声音でまるで客に言うような挨拶をしては電話を切った。


「はぁ〜〜〜〜…この女性を調べてるのは“降谷零”か“安室透”か……はたまたまだお会いしたことの無い“バーボン”か…」
 

 刹那はイスの背もたれに思い切りよっかかっては深いため息を付いて天井を見上げながらぼそぼそと呟くように降谷が情報を求めた理由を考え始める。


「なーんて、ぜーんぶあの人だけどね」


 そして、刹那はやる気のない顔をして手をぶらっと下に下げてはイスをくるくる回しながら自分で問いた言葉に自分で答えた。


「律、サポート頼んでいい?」
「はい!お任せを!」
「すー…はぁー…降谷さんには悪いけど、調べさせてもらうよ」


 刹那はスマホにいる彼女のクラスメイトである律に声を掛けると律はぴょこっと現れて敬礼して彼女へのサポートを快く引き受ける。
 刹那は息を限界まで吸って思い切り吐くと目の前の画面をキッと見つめては言葉とは裏腹に口角を上げて笑った。




なんせ私は

 ―協力者であり、エンドの人間でもあるから―




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