11話






「ふわぁ〜……はぁ………ねむ…」
「刹那さん、おはようございます!」
「んー……おはよ………今何じー…?」


 カーテンの隙間から強い日差しが入り込む寝室で気だるそうにむくっと起きた刹那は両腕を伸ばして大きな欠伸をすると腕を脱力させてまだ開ききれていない目を半目にしながらぼそっと言葉を呟いた。
 サイドテーブルに置いてあったスマホの中にいる律は元気な声で刹那に挨拶をするとまだ眠いのか彼女は適当な返事をしながら律に現在の時刻を問う。


「只今の時刻は14:37です!」
「あちゃー…寝すぎ?でも、寝たの4時だからセーフ?」
「とはいっても10時間半は寝てますよ…」


 刹那の問いかけに律は元気良く現在時刻を答えると思っていたより日が昇りすぎている時間に起きたことにしまったとばかりに目を片手で覆って上を向く。
 はっと我に返って就寝時間を考えると問題ないのかと自問していると律が困った顔をしながら彼女に突っ込みを入れた。


「律ちゃんきびしー…」
「生活の乱れは大敵ですからね!」
「そー言われても…原因があるの分かってるじゃん」
 

 突っ込まれた言葉に刹那は覇気のない声で律に言葉を返すとごもっともらしい正論が律から返ってくる。
彼女の言葉に刹那はむっとしては不規則な生活の原因に文句を言いたそうに律に言葉を返した。


「はぁ……そうなんですよね、だからこそ私の悩みです」
「私の母親か、アンタは」
「違います!同級生の友達です!」
 

 刹那の言葉も理解している律は深いため息を付いて自身の頬に手を添えて目を閉じてまるで母親のように言葉を零すものだから刹那は思わずぼそっと突っ込みを入れるが、律からむっとした顔をして即答の否定の言葉が返って来る。


「ふふ、知ってる…それにしても昨日の案件はどーやら、“降谷さん”の依頼……ぽい気がするね」
「まだ何とも言えませんけど…その線が濃厚ですね。警察も水面下で情報を集めているようなので」
「にしても、あの女の人がねぇ……マフィアと繋がってて彼女の働いてる店もそのマフィアとの癒着が激しいとは…それはそれは恐ろしい」


 律の表情を見て思わず刹那は笑ってしまったが彼女の言葉に理解を示すと降谷からの依頼を深く掘って調べていた件を思い出したかのようにぼそっと呟く。
 彼女の言葉に律も曖昧に答えては刹那は呆れたように調べた内容の結果を口に出す。


「刹那さん、手を引いたんですから気にしなくていいんじゃないですか…?」
「だね。一応侵入した形跡は全て消したから問題ないっしょ……ん?」


 一般人が聞いたら恐ろしいような内容を口に出した刹那に律は眉を下げて忘れましょうとばかりに問い掛けると彼女は律の言葉に同意する。また物騒な言葉を零して証拠隠滅をしたような言い回しをした。
 サイドテーブルにあった刹那のスマホからバイブ音がすると彼女はそちらに目を向ける。


「寺坂さんからですね」
「めっずらしいねー……いい予感しないけど」
「出ないんですか?」


 どうやら電話が来ているよう刹那はスマホを手に取るスマホに表示されている名前を確認した。そこに表示されていた名前は“寺坂竜馬”…彼女のクラスメイトからだった。
 律がスマホの画面上ひょこりと顔を出して言葉を発すると珍しい人物からの電話に刹那は気だるそうな表情を見せると律は応答ボタンを押さない彼女に問い掛けた。


「出る出るっと……もしもし?」
『ああ、本郷。今大丈夫か?』
「うん、何かあった?」


 律の問い掛けに肯定して応えた刹那は応答ボタンを押して耳にスマホを当てると寺坂が刹那に要件を言っても良いかと問いかける。
 彼女は彼の問い掛けに肯定すると要件を求めるように問い掛け返した。


『例の件とは別件なんだが、ちっと助けて欲しいことがあんだよ』
「……ものすごーく嫌な予感しかしないけど一応聞いてあげよう。助けて欲しいってどんな?」
『世話になってる議員の知人に連れられて3人で……あー…その、あれだ。そういった店に行ったんだわ』


 寺坂はいつもと違う彼の声音で刹那に改まって頼みを申し出ると刹那は頭をガシガシかいて上から目線で言葉を返すと更に問い掛ける。
 彼女の言葉に寺坂は先ほどより小さな声で以前あった出来事を口にし始めた。


「……そういった店、ねぇ……」
『んだよ、含みのある言い方しやがって』
「べっつにー……それで?」


 夜の店とはっきり言えばいい所を濁して言う寺坂に刹那はそのワードをわざとらしく復唱するとイラッとしているのか寺坂は刹那に文句を言うが彼女はその文句をサラッと流して話の続きを催促した。

 
『大体その議員に連れられて行く所はホワイトのところばかりなんだが…知人はそうでもないらしくてな……はあ……やばそうな所に連れられちまってよ』
「はあ……連れて行かれる前に調べなさいよ」
『あ゛?』

 
 寺坂は彼女に催促されて言葉を続けるが途中でその時のことを思い出したのか深いため息をついては不穏な言葉を口にすると刹那はため息が移ったのかため息をついては彼に突っ込みを入れる。
 しかし、その言葉に寺坂は突っかかるような一言を口にした。


「はあ……続きは?」
『トイレに行くのに席を外したら……偶然見ちまったんだ』
「……」


 面倒臭くなった刹那はまた1つため息をついては寺坂に催促すると気を取り直したようにその時のことを思い出すかのように言葉を零すと刹那はただ黙って真剣に彼の言葉を聞き入る。


『……女が支配人にブツをくれとせがんでる姿ややめたいと泣いて助けを求める姿を』
「それ、目撃したところ誰かに見られた?」
『いや、見られてない。助けたかったけどよ……今出て行って助けたところで又連れ戻されるのが目に見えてたからな』


 次の瞬間、寺坂の口から出た言葉は小説でよく出てくる裏社会の顔を彷彿させるものだった。
 刹那は彼の言葉を聞くとすぐさま寺坂の安否を気にしたような問いかけをすると彼は誰にも見つかっていないことを彼女に告げるとその言葉に安堵したのか刹那はほっと息を吐く。
 彼は悔しそうに言葉を続けて紡いだ。
 

「へぇー…直情型のバカが考えるようになったわねぇ……それで私に何をして欲しいの?」
『決まってんだろ。その店の情報を手に入れて欲しい』
「……バカ坂さんは律に頼むって言う頭はないのかしら」


 寺坂の発言に刹那はわざとらしく挑発するような言葉を紡ぐと本題に入るように寺坂に問い掛けると彼は当たり前のように彼女の問い掛けに答えては頼みごとをする。
 刹那は自分に情報を求めてくるクラスメイトに頭を抱えてボソっと毒を吐いた。


『あ゛あ゛?』
「……もういいや、アンタが直接助けてって言われたわけじゃないのにそこまでするのは何で?」


 彼女のぼやきを聞き取ってしまった寺坂は文句あるのかとばかりに声を発したが、刹那はそれに言葉を返すのをやめて先ほどまでの話に軌道を戻して寺坂に更に問い掛ける。


『……助けを求める声を聞いたのに動かねーわけにはいかねぇ、それだけだ』
「上等……ちなみにその店の名前は?」
 

 寺坂は彼女の問い掛けに少し黙ると強い意思の見える声音で彼女の問い掛けに答えると刹那はその回答に口角を上げて笑っては彼に問題の店の名前を問い掛けた。


『英語でCloverクローバーだ』
「………」
『本郷?』


 彼女の問いに寺坂は淡々と問題の店の名前を答えると刹那はつい最近…というよりも12時間以内に聞いたことのある名前にスマホを手元から落として顔を手で覆った。
 何も返答のない刹那を不思議に思ったのか寺坂は彼女の名前を呼ぶ。


「あー……ゴメン、Cloverクローバーね。調べとく……いつまでに必要なの」
『出来るだけ早くにくれねーか?』
「分かった。今日夜空いてるなら情報渡すけど」


 はっと我に返った刹那はスマホを拾って耳元にスマホを当てて寺坂に謝罪すると彼の頼みごとを承諾するとリミットを聞き出す。
 寺坂は明確な時間や日数を口にはせず最短で出来ないかと問い掛けると彼女ははあと息を吐いては了承し、最短時間を提示した。


『そんなに早く出来んのか?』
「まあ、私だからねー」
『相変わらずだな、お前は……じゃ、取りに行く』


 最短時間を告げる刹那に寺坂は驚いて疑いながら問い掛けると彼女は適当とも取れる言葉を返す。
 しかし、その言葉を信じる寺坂ははあと息を吐いて褒め言葉とも取れる言葉を吐くと今日取りに行くことを口にした。


「おk。とりあえず君がお世話になっている議員、その知人。助けを求めて泣いてた女の名前を教えて」
『世話になってんのが設楽謙蔵。知人が佐藤進。女はアクアマリンって名札に書いてあった』


 寺坂からの返答を聞くとサイドテーブルに置いてあるメモとペンを取り出して情報源となる人物達の名前を問い掛けると彼はさらさらと3人の名前を口にする。


「おkおk。じゃ、4時間後辺りにお越しくださーい。あ、ビール買って来てね。日本酒でもいいよ」
『わーったよ。じゃあな』


 彼女は全て一度に3名の名前を聞き取ってはメモに名前を書き出すと勝手に時間を自分で決めてはお土産を要求する。寺坂は文句を言わないが面倒くさそうに承諾すると電話を切った。


「……律」
「……はい」


 電話が切れたことを確認すると刹那はスマホをじっと見つめながら中にいる住人である律を呼ぶ。
 彼女は画面上にひょこりと顔を出して何とも言えない顔をして返事をした。


「どうやら手を引くに引けない状況になりそうですよ」
「刹那さんはどうも引きが強いですね……」
「嬉しくないよぉ……」


 刹那は真顔で手を引くつもりで全てのデータを消して尚且つ侵入した形跡も消したのにまだ同じ作業をする為となったことに何とも言えない表情をしていた。
 律に言葉を掛けると彼女は淡々と観察した経過を述べるように言葉を返すが、刹那はその言葉が褒め言葉だろうとなかろうと嬉しくないのだろう。
 刹那は頭を垂らしてぼやいた。


「事実ですから……仕方ないです」
「はあ……一応、烏間先生に報告はしとかないとだよね。地味に降谷さん絡んでるし………あ、もしもし、本郷です」
『本郷さん、どうした?』


 困ったように微笑みながら律は言葉を返すと刹那はため息を付いてこの12時間以内に起きた濃厚な内容を報告しようと持っていたスマホをタップして烏間という名前を探すとコールをしてBluetoothブルートゥースをオンにすると耳にイヤホンマイクを付けてベッドから起き上がる。
 寝室のドアノブに手を掛けたところで電話が繋がった刹那は電話主に声を掛けた。
 刹那から電話が来ると思っていなかったのか烏間は何かあったのかと問い掛ける。


「少し烏間先生の耳に入れておきたいことがあって……今大丈夫ですか?」
『ああ、大丈夫だ』
「降谷さんから依頼があり、木下麗華という女性について調べていました」


 彼女は寝室から出て1階へ続く階段を下りながら彼の問い掛けに応えると話しても良いかと確認の問いかけをした。
 烏間は簡潔に肯定の言葉を返すとまず夜中に降谷から受けた依頼内容を話す。


『なるほど…それで問題があったのか?』
「木下麗華という女はマフィアと個人的につながりがあり、店自体もマフィアと繋がりがあるようで……で、問題はここから。どうやら寺坂が行ったらしくて」


 烏間は彼女の言葉に疑問を持ち、問い掛けると刹那は調べた結果を口にすると本題は心からとばかりに先ほど電話をしていた相手…寺坂の名前を口にした。


『………』
「まあ、世話になっている議員の知人に連れられていったらしいんですが、偶然目撃したブツを欲しがる女性ややめたいと泣いて助けを求める女性の姿を見たらしいんです」


 彼女の言葉に黙って耳を傾ける烏間に刹那は更に言葉を続けて詳しい状況を話し出すと彼女はリビングの扉に手を掛けてリビングへと入る。


『………』
「これから寺坂に依頼を受けたのでそこら辺を更に詳しく調べます……もしかしたら、そっちに手を加える状況になるかもしれないので一報入れました」
『はあ……見聞きしてしまったら見過ごすわけにいかない、か……君達は』


 口を挟まずに聞き続ける烏間に刹那は寺坂から受けた依頼について話すとなにやら物騒な言い回しをして報告を終わらせる。
 すると、烏間は深いため息をついてはあまり快く思っていないのだろう…渋っているような声音で彼女らの性格を理解しているからこその言葉を口に出した。


「ふふ……この力は人のために使うって約束しましたから」
『はあ……』
「まあ、メインディッシュ前に腹ごしらえするには丁度良い輩じゃないですか?」


 烏間が言った言葉に刹那は肯定するように笑っては冷蔵庫を開けて500mlのペットボトルを手に持っては懐かしそうに言葉を返すと烏間はまた一段を深いため息をついた。
 刹那は方と耳の間にスマホを挟んで支えながら両手でペットボトルのふたを開けては不敵に微笑みながら準備運動とばかりに言葉を返す。


『あまり甘く見るな。マフィアとの癒着が酷いならそいつらが出てくる可能性もある』
「それは分かってます。まあ、調べて手を出すか出さないかは寺坂に任せるのでまた状況が変わりましたらご報告しますね」
『ああ、頼む』


 彼女の言葉に烏間は忠告し、最悪の場合を考えて刹那に指摘をした。
 彼女もそこは予測していたようでペットボトルの蓋をテーブルに置いてはスマホを片手にとって彼の忠告を素直に飲み込むと人任せとばかりに言葉を返してまた報告する旨を伝える。
 彼女の申し出はありがたいのか、一言言葉を返すと烏間の方から電話を切った。


「……さーてと、律さん」
「はいっ!」
「約束の時間まで4時間切ってるし、また店と人物達を洗いざらい調べるから手伝って」


 刹那は手に持っていたスマホをテーブルに置いてもう片方で持っていたペットボトルを口付けて乾いていた喉を潤すとスマホにいる律に声を掛けると彼女は再び顔を出す。
 刹那は時計を見て寺坂が来るまでのリミット時間を確認しては律に手伝いを頼み込んだ。
 

「分かりました!」
(これで全てが繋がればいいけど……)


 律は彼女の申し出に快く了承をすると刹那はまたペットボトルに口を付けて考え込みながら喉を潤す。


「でも、その前に!」
「ん??」


 ひとつ物申すとばかりに律が刹那に言葉を掛けるとふっと我に返った刹那は不思議そうに首を傾げた。


「刹那さん!栄養補給をして下さい!」
「……だよねー……はあ……胃袋に何か入れるか」


 律は“栄養補給大事”と書かれた何処から持ってきたのか分からない木の板を刹那に見せ付けるようにして言葉を掛けるとその言葉に刹那は面倒くさそうにため息を付いて頭を掻きながら冷蔵庫の中を漁り始めたのだった。




リミットまで残り

 ―3時間と50分―




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