12話






「はあー…授業って思ったよりキツ……」
「あはは、お疲れ。初の授業はどうだった?」
「んー…まあ、新鮮だったよね」


 渚とカルマは横に並んで担当しているクラスへと歩いていた。
 初めて先生としての授業にカルマは右手を左肩に添えて首を右へ伸ばしながら、言葉を呟くカルマに渚は眉を下げて笑っては仕事の感想を求める。
 カルマは渚の問いに目線を上にして考えては簡素な感想を述べた。


「そっか…あ、刹那に頼めた?」
「いや、全然電話に出ない。あいつ携帯の意味知ってるのかな」
「あはは……寝てるのかもね」


 その様子に渚は微笑んでいると思い出したかのように朝方調べてもらおうと言っていた件がどうなったのか気になったらしくカルマに問い掛ける。
 カルマは怪訝そうな顔をして頼めていないことを口にするとこの場にいない人物に対して嫌味を言い放った。
 カルマの嫌味に渚は困った顔をしながら刹那のフォローをしていた。

 
「にしても、世良ちゃんからの視線が鋭かった」
「あはは……世良さん、まだ敵視してたんだ」


 今日1日を振り返ったのかカルマはため息を付いて世良の鋭い視線に呆れたようにボソッと言葉を呟くと渚は想像が付いたのか苦笑いしながらカルマに言葉を返す。


「あれは暫く警戒されそうだね。猫みたいだよ」
「生徒を動物に例えるのはどうなの?」
 

 気だるそうに歩きながら女子生徒を猫と比喩表現するカルマに呆れたように渚は突っ込みを入れていた。


「まあ、今日はあとHRで終わりでしょ」
「それが終わったら明日の授業の準備だね」
「よくやるねぇー…せんせって」


 授業は全て終わり、残すはHRだけどなっていることに気を楽にさせて渚に言葉を掛けると渚はこくりと頷いてはHR画終わった後の準備があることを口にする。
 その言葉にカルマは他人事のように“先生”という仕事に賛嘆していた。


「今はカルマもその先生だよ」
「はあ……まあね」


 人事のように言葉を吐くカルマに渚はくすっと笑って当事者だとばかりに言葉を返す。
カルマがため息を付いて渚の言葉に同意するところを見ては渚は教室の扉をガラッと開けた。


「ぜってー世良が勝つだろ!」
「いや、赤羽先生だって!」
「お前ら、毛利を忘れるなよ!」


 扉を開けて二人の目に飛び込んできた光景は男女関係なく言い合っている姿だった。


「……何の話?」
「さあ……皆、席に着いて。HR始めるよ」


 どういう状況なのか理解できていないカルマは渚に問い掛けると彼も同じく理解できていない為、首を傾げては生徒達に席に座るよう声を掛けた。


「あ、渚ちゃん!」
「渚ちゃん!?」
「ぶっ…くくくっ……」


 渚の存在に気が付いた生徒は渚をまるで女の子のように呼ぶとまさかそのように呼ばれると思ってなかった渚は目を見開いて驚くと彼の隣にいたカルマは手を口元に添えて笑いを堪えようとしていたが堪え切れていなかった。


「カルマ先生、笑いすぎ……えーっと、首藤君。何かな?」
「世良とカルマ先生が戦ったらどっちが勝つと思う!?」
「「………」」
 

 笑っているカルマに渚は半目になって文句を言うと戸惑いを見せながら渚を“ちゃん付け”で呼んだ生徒に問い掛ける。
 首藤は興奮気味に渚に謎の問いかけをするとこのクラスの担任と副担任は唐突な問い掛けに黙った。


「あ、毛利も入れてもいいよ」
「え、あ……カルマ先生じゃないかな?」


 首藤はその様子に気づいたのか気付いていないのか更に言葉を続けて選べる人物を増やすが、渚は戸惑いながら曖昧に彼の問い掛けに答える。


「えー!何で!?」
「何でって聞くの!?」
「電信柱を拳の突きで折る毛利とそれに匹敵する強さの世良だぜ?」


 首藤の問いかけに答えた渚の答えに驚いた首藤は何でカルマが強いって思うのかと逆に問い掛けてくるものだから渚はその言葉に驚いて突っ込みに近い問いかけを返した。
 首藤は渚の問い掛けに自分のことでもないのにドヤ顔で説明をすると渚とカルマは黙って蘭をじっと見つめた。


「な、何でこっちを見るんですか!!」
「いや、電信柱を折ったんだと思って……凄いね、毛利さん」
「見かけによらずやるねぇ」

 
 視線に気が付いた蘭は二人に困った顔をしながら言葉を掛けると渚は眉を下げて彼女に言葉を返す。
 そして、カルマも同じく感心したように言葉を零した。


「からかわないでください!」
「まあ、別にどっちが強いとか比べる必要ないんじゃない?」


 賞賛してるような言い回しだが、そうは感じなかったのか蘭は二人に文句を言うとカルマは首藤にどっちでもいいとばかりに問いかけ返して話を終わらせようとしている。


「お、逃げか?」
「逃げだな」
「そういうのじゃなくて……」


 カルマの言葉に男子生徒がカルマを煽るような言葉を言い始めるとカルマは面倒くさそうに言葉を返そうとしたがダンッという音が聞こえると言葉を発するのをやめて音のした方を見た。


「早い話…勝負すればいいんじゃないか」
「「………。」」
(ど、どうしてそうなるの……!!)


どうやら世良真純が机を叩いたのが音の原因で教室にいた人物達は彼女へ視線を向ける。
 彼女は挑発的な目をして敵意むき出してカルマに勝負を持ちかけるとカルマは眉間に皺を寄せて黙り、渚は心の中で突っ込みを入れていた。


「ねえ、赤羽先生……ボクと勝負しようよ」
「えー…生徒に手を出したら俺、クビになるんだけど」
「その言い方卑猥だな」


 世良は再度同じ言葉をカルマに言い放つとカルマはやる気のない声音でやりたくないとばかりに言葉を返すが、その言葉選びのチョイスが微妙だと感じた生徒から突っ込みを入れられる。


「せ、世良さん…カルマ先生強いからやめよう!?」
「尚更、試したくなるじゃないか」


 渚は担任として必死に世良を止めようと言葉を掛けるが彼の言葉は逆に世良の心にひをつけたようで不敵に微笑みながらカルマを見つめた。その様子に渚は更にあわあわとする。


「あれ、何でカルマ先生が強いって渚先生知ってですか?」
「あー……うー……実は同級生なんだ。僕達」
「え、そうなの!?」


 渚の言葉にふと疑問を持った蘭は不思議そうに渚に言葉を掛けると朝誤魔化したはずの言葉を誤魔化しきれないミスをしてしまったのでしぶしぶ正直に話すと園子はその言葉に目を見開いて驚きの声を上げた。


「うん」
「何で隠してたんですか?」
「お互い教員だからけじめをつけるためにそうしようってなったんだけど……」


 渚は眉を下げて頷くと蘭は更に不思議そうに問い掛けると渚は眉下げて笑いながら申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。

 
「とか言って言いだしっぺがバラしちゃうんだよねー…ね、渚」
「うう……予想外の展開です」


 カルマは渚の言葉に合わせるように彼の言葉の続きを紡ぐと渚を責めるような言い回しで彼の名前を呼ぶ。
 渚は名前を呼ばれ、少し縮こまらせて申し訳なさそうに言葉を零した。


「話そらさないでくれるかな?やる?逃げる?」
「そんなに腕試ししたいんだ?」
「ああ」


 世良はカルマを睨み付けながら挑発を続けると気だるそうにカルマは世良に問いかける。
 彼女は彼の問い掛けに強い眼差しを向けて肯定の言葉を吐いた。


「はあ〜……やるなら校庭ね」
「ちょ、カルマ!!」
「まあ、いいじゃん。少しくらいなら」


 カルマは面倒くさそうにため息をついて頭をガシガシかくと肯定とも取れる言葉を吐く。
 その言葉に生徒達は盛り上がりを見せるが、流石にまずいと思った渚はカルマを制止するように彼の名前を呼んだ。
 カルマはその声が耳に届いていたが、渚の忠告をサラッと受け流す。

 
「ああ、もう。僕は知らないよ」
「な、渚先生……」

 
 受け流したカルマに渚は深いため息を付いて諦めたような目でボソっと言葉を呟くと近くにいた蘭は渚が不憫に思えたのか同情の目を向けていた。



◇◇◇


 
「で、どーいうルールにするのー」
「一発入ったら負けでどうだ?」
「ふはっ、超安易だね……まあ、いいんじゃない」


 校庭で対峙することになったカルマは目の前にいる世良に勝負はどうするのかと問い掛けると彼女は不敵に微笑んではルールを提示する。
 彼女の簡単なルールにカルマは巨ん賭した顔をしてはふっと笑って彼女のルールを飲み込んだ。


(……ギャラリー増えてる……これは後で説教されるな…)


 対峙している二人を見守りながら周りがガヤガヤと騒がしくなっている様子に渚はドキマギさせてはこれから起こるであろうことに胃を痛めていた。
 

「それじゃ……いくぞ!」


 世良は周りの目など気に模せずにただ目の前にいるカルマを見据えては掛け声と同時に走りこんではカルマの懐に入る。


「うっはー…世良の奴、始めから強気の攻めだな」
「カルマ先生、普通にかわしてるけど…」
 

 世良がカルマの急所を目掛けて拳を突きつけたり、蹴り技を繰り出すがカルマは表情を変えずに彼女の攻撃をただかわしていた。
 彼女のクラスメイトの野次馬達は強気で攻める世良と飄々とかわしてるカルマを見ている。


「世良ちゃんの攻撃かわせるって凄いんじゃ…」
「ああ、もう……生徒に怪我させないでね」

 カルマが飄々と攻撃をかわしている所を見た蘭は目を見開いて驚きながらカルマの余裕さえ感じる防御に賛嘆の声を上げていると彼女の隣にいた渚は自身の両手を握り締めて世良が怪我しないように祈るように見ていた。
 

「へぇ、なかなかやるじゃないか」
「そーいう世良ちゃんもね」

 
 全く攻撃が当たらないカルマに世良は冷や汗をかいて相手を賞賛するとカルマも口角を上げて世良を賞賛し返した。


「攻撃して…こないのはっ、何でだよ!!」
「何でって…生徒に手を出したらダメでしょ」


 世良は攻撃しながら何故防御しかしないのかとカルマに問い掛けるが、カルマは眉下げて困った顔をしながら彼女の問いに答える。


「バカにしてんのか?」
「はあ……何でそーなる訳」


 返ってきた言葉が不服だったのか彼女は眉間に皺を寄せてカルマに問い掛けるとカルマは何故その疑問に至るのか呆れた顔をして言葉を吐いた。


「だったら…本気出せっ……よっ!!」
「はーい……終わり〜」


 むかついたのか世良は渾身の力を込めた一撃を繰り出すが、カルマはそれをかわしていつの間にか世良の後を取り、腕を真っ直ぐ伸ばして彼女の頭に拳銃を向けた。


「っ!?」
「な、何持ってるんですか!?カルマ先生!!」


 いつの間に背後を取られていたことに驚きを隠せない世良とカルマの手の中にあるブツにその場にいる人物達は目を見開いて驚く。
 蘭はカルマの手に持っている拳銃を見て驚きの声を上げてた。
 

「何って……水鉄砲」
「うわっ、冷たっ……!」
「あはは、意外と飛ぶね。これ」


 カルマは気だるそうに世良に向けていた銃口を肘を曲げて空へ向けると今度は渚の近くにいた男子生徒へ銃口を向けると引き金を引くとそこからは水が発射された。
 思っていたより飛距離があったのか楽しそうにカルマは笑った。


「これで満足してくれた?」
「……本気出してないくせに」


 カルマはくるっと世良の方へ向くと不敵に微笑んで彼女に言葉を掛けると世良はむっと顔をして顔をそっぽ向けては彼に文句を付ける。

 
「まあ、子供にはハンデを上げないとね」
「はーい!皆教室に戻ってー!!HRやるよー!!」


 カルマはその様子を見てくすっと笑っては彼女の頭をわしゃわしゃと撫でて大人の余裕を見せる蹴るように言葉を掛けると渚が2年B組の生徒達に声を掛けて教室に入るように指示をし始めた。



◇◇◇



「……カルマのせいで怒られた」
「いや、ごめんごめん」


 渚は教員室の自席に座ると眉間に皺を寄せて文句を言う。HRが終わった後、学年主任の先生に呼び出されて説教を食らっていたようだ。
 原因である当の本人であるカルマも渚の隣の席へ座りながら渚に謝罪の言葉を述べているが、言葉に重みはなかった。


「思ってないでしょ」
「まあねー」
「はあ……」


 反省の色が見えないカルマに渚はじと目で見て言葉を返すとカルマは彼の言葉を肯定する。
 渚はカルマの言葉に目を閉じて深いため息をしたのだった。


「今日も二ノ宮ひまりが欠席ですね」
「…ん?」


 二人の席の後で1年の担任の先生が困った表情で何気ない会話をしているのに気が付いた渚はそちらの方を見る。


「まあ、体調不良ということですから…もう暫く様子を見るのもいいかもしれませんね」
「そうだとしてもあまり体調を崩さなかった子が急に1週間も休むって……心配です」


 1年学年主任の安藤という男性教諭は二ノ宮ひまりの担任の小林という女性教諭の言葉に眉を下げて言葉を返すが、小林は様子がおかしいと思っているのか酷く生徒を心配していた。


「どうかされたんですか?」
「ああ、潮田先生、赤羽先生」


 話の内容を聞き取ってしまった渚は気になってしまい、小林と安藤に声を掛けると小林は渚とカルマを見て二人の名前を呼ぶ。


「私のクラスの女子生徒…二ノ宮ひまりが1週間体調不良で休んでるんです」
「体調不良の原因は何なんですか?」


 小林は眉を下げて心配そうに渚の問いかけに答えると渚は更に突っ込んで詳細を詳しく聞こうと問い掛けた。


「それが詳しく話してくれないのよ」
「……心配ですね」


 小林は暗い表情を見せて首を振って理由が不明であることを打ち明けると渚は眉を下げて言葉を返す。


「もし、彼女を見かけたら声を掛けてもらえますか?この写真の…この子です」
「分かりました」
「ありがとうございます」


 小林は渚とカルマに切実そうにお願いをすると二人は首を振って彼女のお願いを了承した。
 彼女は少しでも味方が出来たのが嬉しかったのか少しほっとした表情を見せては自席へと戻っていった。


(一週間…体調不良で休むって……この時期にインフルエンザはありえない……何か重い病気になったのか…それとも……)


 渚は机にある名簿をじっと見つめながら二ノ宮ひまりが休んでる理由を予測していた。


「ねぇ、渚」
「ん?何?」


 カルマは頭の後で腕を組んで考え込んでいる渚を横目で見ると彼に声を掛ける。
カルマに呼ばれてはっとした渚はカルマの方へ向いて言葉を返した。


「今日、あいつの家寄ろう」
「え?刹那の家??」


 カルマが突然の提案をするものだから渚は首を傾げて何故とばかりに問い掛ける。


「そ。電話で頼めなかったから直接頼もうと思って」
「ああ、そうだね。一緒に行くよ」


 カルマはため息を付いて肯定すると面倒くさそうに朝の件を直接頼みに行くという理由で渚に声を掛けたようでそれを理解した渚は納得して言葉を返した。


「…ついでに気になるなら調べてもらったら?」
「!!…そうだね。じゃ、お土産持って行かないとね」


 カルマは少し間を空けて渚に先ほど聞いた話を気にしている様子が見てられなかったのかこれから寄る家…刹那に頼めばと言葉を掛けると渚は目を見開いて少し笑顔を見せてカルマの提案に賛成しては刹那への手土産を考え始める。


「はあ……だね」


 彼女への手土産を考え始める渚にカルマはその手土産が気が重くなったのか深いため息を付いて彼の言葉に同意した。


(……酒でも持ってけばやるデショ)


 考えるのが面倒くさくなったのかカルマは適当な手土産を決めては明日の授業の準備をし始めたのだった。




情報を得るには

 ―それ相応の対価が必要になってくる―




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