『あの店の“客を取る”ってワードは裏接客になるみたいです』
『裏接客……?』
時は遡って数時間前―――
Cloverで使われる専門用語について律が説明していると彼女の言葉に疑問を持った磯貝はその言葉を首を傾げてぽつりと言葉を零した。
『変態客に身体を売る接客』
『『……………』』
『……無駄美人はもっと言葉をオブラートに包もうか』
『的確かつ簡潔に答えたのに…』
刹那は恥じらいもなく淡々と“裏接客”の意味を答えるとその言葉に今回の精鋭たちは言葉を詰まらせていると片岡は精鋭たちを代表して彼女を咎める言葉を口にする。
刹那はそれに納得いかなかったのか口を尖らせてぼそっとぼやいていた。
「………………」
『おい、中二半』
「………」
『おい、聞いてんのか?中二半!』
カルマは眉間に皺を寄せて不機嫌なオーラを出して数時間前のやり取りを思い出しながら、車で待機しているとインカムから杉野がカルマを呼ぶ声がするが彼は一向に返事をする気配がない。
杉野はもう一度先程より大きな声を出して彼に呼び掛けた。
「………はあ……聞いてるよ、野球バカ」
(うわ…機嫌悪いな……まあ、仕方ないか)
カルマは深いため息を付いては通常よりも低い声で機嫌悪いと聞いている側も分かるほど態度に出して杉野へ返事を返すとカルマの側にいた磯貝は機嫌の悪いカルマに頬を引き攣らせていたがそれも仕方ないと注意せずに目を瞑る。
『っ、…そろそろお前の出番だ』
「……はいはい、分かったよ」
杉野は少し怯んだのか言葉を詰まらせると気を取り直したようにカルマに言葉を返すと彼は目を閉じてまた深いため息を付いて杉野に返事をすると車から出て行き、作戦を実行するためにとある場所へと走って行った。
(……ちゃんと無事でいなよ、刹那)
その行く道の中、カルマは幼馴染である刹那の身の安全を心配していた。
◇◇◇
「いらっしゃいませ〜」
「サファイヤちゃん、会いたかったよ〜」
「え〜、本トぉ〜??」
開店し、店へと足を運び入れる客に女性達は媚びた声を出して挨拶をすると鼻の下を伸ばした中年男性はサファイアと呼ばれる女性へと近寄って言葉を掛ける。
サファイアは嫌な顔を一つせずに中年男性へべったりくっついては言葉を返した。
(何か……想像と違う)
(……品がない)
客とキャバ嬢のやり取りを傍から見ていた渚は想像と現実の差異に困惑した顔をして観察していると彼の隣にいる刹那は呆れた顔をして心の中で毒付く。
(……裏接客、かぁ…まぁ、ひまわりがやらなくてよくなっただけよしとしよう…うん)
刹那は笑顔を張り付けながら先程予想外に男に言われた“客を取る”と言うワードを思い出しては気を重くしていたが、無理やりポジティブな考えに持っていった。
「いらっしゃいませ」
「あー…初めてきたんですけど……」
そんな刹那を他所にまたしても店へ来店した客へ支配人の男は声を掛けるとダークブランの髪を遊ばせている男…変装した前原は自身の手を首に回しながら気まずそうに言葉を零した。
「でしたら、この中からお選びください」
(まだ刹那は客取ってないのか……つーことは)
支配人はその客に違和感も感じずにメニューを見せるかの如く店にいるキャバ嬢のリストを客へ見せると男はまだ客を取っていない人物がいることに気が付く。
「あー…じゃ、この子とこの子を……」
「かしこまりました……お客様をご案内して」
元々の計画で指名するはずだった
「アクアマリンとラピスラズリ」
「はい…!」
「は、はい」
「お前らに客だ」
少し壁の華となっていた刹那と渚の元へ支配人が近づいて来ては2人を呼ぶ。
支配人の声音に少し驚きつつも渚と刹那は返事をすると支配人は先程指名した客のテーブル番号を渡すとさっさとまた別の場所へと移動する。
(前原君だ…)
(こっちの作戦は順調ね……)
渚は手元にあるテーブル番号と同じ番号のテーブルに座っていた人物を確認するとほっと安堵の息を零した。
刹那も元々の作戦通り前原が渚を指名出来た事にほっと肩の力を抜く。
「初めまして…アクアマリンと申します」
「ラピスラズリです」
刹那は気を取り直してすぅと息を吸っては前原の座っていたテーブルへ近づき、微笑みながら自己紹介をすると渚も同じように自己紹介をした。
「俺は……」
「どうしましたか?」
前原は自身の名前を言おうとするがピタリと動きを止めて言葉を飲み込むと刹那は額に少し冷や汗を掻きながら沈黙を誤魔化すように前原へと問い掛ける。
((やばい、偽名忘れてた…!))
渚も前原も冷や汗を掻いており、どうやら3人とも同じことに気が付き、内心焦っていたようだ。
(偽名考えてなかったー…神崎名人とホームベースの名前を借りるぜ)
「俺は…神崎大成。よろしく」
((ナイス判断!))
「「よろしくお願いします」」
前原は焦りながらもこの場を切り抜ける為に彼自身のクラスメイトの名前を借り、偽名を作り上げて刹那と渚へ笑みを浮かべて自己紹介をすると二人は安堵した表情をしては前原の両隣へと座った。
「神崎様はかっこいいのにこんなお店来てるんですか?」
「いや、部類の女好きでさ〜」
刹那は黙ってグラスに氷を入れて酒を作っていると渚は女性らしい仕草をして前原に擦り寄りながら、前原へ問い掛ける。
彼はニッと笑って渚の問い掛けに答える様はいかにもゲスな男だ。
「ふふ…女泣かせですね」
「あ、分かる?」
酒を作り終わった刹那は前原に初々しく微笑みながら言葉を掛けては作った酒を渡すと彼は微笑み続けながらチャラ男のように言葉を返した。
(…なんだろう)
(昔、ビッチ先生が言ってた言葉を思い出す……)
この数分のやり取りの中で気まずそうに目を逸らしながらお酒を口にする前原と渚。
――仕方ないでしょ!!顔見知りに色仕掛けとかどうやったって不自然になるわ!!キャバ嬢だって、客が偶然父親だったらぎこちなくなるでしょ!?それと一緒よ!!
10年前に突如始まった烏間模擬暗殺の際にイリーナが言っていた言葉を思い出したようだ。
(あの時は分からなかったけど…)
((今、凄く分かった気がする))
刹那は周囲にバレないように水をグラスに注ぎながら喉を潤しながら彼女もまたイリーナの言葉を思い出す。
そして、3人は心を一つにして10年経った今、イリーナの言葉を理解するとこの状況が気まずいという空気が漂っていた。
「アクアマリン」
「……あ、…はい。今行きます」
そんな3人の元へボーイが刹那を声掛けると彼女の肩を2回軽く叩く。裏接客業の合図だ。
刹那はその行動の意味を理解すると一瞬わざとらしく暗い表情をしてはボーイに言葉を返した。
ボーイはそのまま去って行くと刹那は席を立ち上がろうとする。
「あれ、行っちゃうの?」
「すみません、また今度指名して下さいね……時間見て、例のワード言えば個室通されるからそしたら進めて」
「……残念、また指名させてもらうよ」
前原は不思議そうに刹那へ問い掛けると彼女は前原へ謝罪の言葉を掛けて次回の約束を取り付けようとして彼へ近づくと耳元に唇を寄せて作戦について指示を出した。
前原は静かに縦に頷くと眉下げて先程刹那が掛けた言葉の返答をすると刹那は眉下げて微笑んで会釈をしてはその場を去る。
(さて……二ノ宮ひまりを高く買い取った変態客の顔を拝んでやろうじゃないの…!)
刹那はコツコツとヒールの音を立てては眉間に皺を寄せて裏接客の相手のいる個室へと向かって行った。
最悪の変態客と
―ご対面まであと3分―