20話






『無駄美人、どうする?』
「どーするったって、あの人の目的は何か分からないのにどーしようもないでしょうよぉ…」


 インカムから聞こえてくる渚の声に刹那は頭を抱えて愚痴を零す。
 眠って縛られている客に座りながら髪をわしゃわしゃと掻いた。

 
『ねぇ、それどーいうこと?』
『二ノ宮ひまりが目的じゃないのか?』

 
 彼女の言葉に違和感を持ったのだろう。
 カルマは尽かさず、刹那へ問い掛けると磯貝も同じように彼女へ問いかけた。


(そう考えるのが普通か…)


 2人の疑問に刹那は眉間に皺を寄せる。
 まるで、余計なことを言ったとばかりに。
 

「この店はマフィアとも関わりがあるからアクアマリンが目的と断定するには些か安直だと思ったの」
 

 彼女は冷静に彼らの疑問に答えると目を細めた。そして、手を顎に添えて考え込むような動作をとる。


(…あの人の目的は木下麗華…ひまわりじゃないはず…)


 元はと言えば降谷から依頼を受け、調べているうちに個人的に関わりが深くなってしまったこの店。
 目的はとある女性だったのだ。
 アクアマリンであるはずかないと彼女は頭の中で整理しているようだ。
 

『ふーん…』
「何よ、中二半」
『別にー…あ、ついでに飯がすすんじゃう人確保』
 

 カルマは彼女の言葉にいまいち納得がいっていないような反応をした。
 彼の反応に刹那は眉間に皺を寄せて言葉を投げ掛ける。
 しかし、彼は口にすることは無く話をそらすかのようにこの作戦の報告をした。


『中二半、念のために確認するけど無傷だよな?』
『いやあ、このスプレー便利だよね。余りない?』
 

 磯貝は少し彼を疑うように問いかける。
 何故そのようなことを聞くのかといえば恐らく先程機嫌悪く返事をしていた彼の姿を思い出したからだろう。
 カルマは飄々とした声で彼の問いには答えず、竹林と奥田が共同開発した睡眠スプレーを褒める。そして、とんでもないことを問いかけた。


((カルマに渡したら…!!))
「そんなものあってもアンタには渡さないわよ」


 彼のたった一言の言葉でカルマと刹那以外の者達は顔を青ざめただろう。そして、彼らは同じことを心の中で思い、恐ろしい未来を想像してしまった。
 刹那はというと彼がろくでもないことに使うことは予想済みだったのだろう。
 呆れたように溜息をつきながらカルマの言葉をバッサリ斬る。 


『ちぇ…さっさと回収に来なよ、鷹岡もどき』


 カルマは舌打ちをすると偉そうな態度で寺岡へ指示を出した。
 

『ったく、お前は機嫌悪く指図するんじゃねーよ』
『ほらほら〜…早く来ないとやっちゃうよ?』


 寺岡は眉下げ悪態つきながら車のアクセルを踏む。
 寺岡の耳からはとても物騒な言葉を飄々と言うカルマの声が聞こえてきた。
 彼の態度からそれが本気なのか冗談なのか分からないものだから実に厄介だ。
 

『鷹岡もどき、急いで向ってくれ』
『わってーるって!』

 
 念の為を思ったのか寺岡の後部座席に座っていた磯貝は寺岡に指示を出すと寺岡はハンドルを切ってカルマのいる場所へと車を向かわせた。

 
「そこは問題なくクリアね…じゃあ、あとは目的はひとつ……」


 刹那は先程眠らせた客を椅子にしながら今までの話を聞いていたようでカルマのミッションがクリアしたことにほっと息を付く。

 
『無駄美人さん!』
「どうしたの?」

 
 今度は律が刹那のコードネームを呼ぶ。刹那は反応し、彼女へ問いかけた。


『男性数名が店から3mほど離れたところで待機してます、恐らく警察関係です』
『!』
「!」

 
 律の言葉に精鋭部隊も刹那も驚き、目を見開いた。


『どういう事だよ、それ』
「なるほどねぇ…作戦変更!」


 まさか警察がCloverという店の近くにいることに動揺した寺岡は言葉をぽつりと呟く。
それの意味を理解した刹那は口角を上げて突然作戦プランの変更を口にした。
 

『!?』

 
 彼女のいきなりの指示に精鋭部隊は息を飲み、驚く。


「女たらしクソ野郎はさり気なく店を出ていって外で待機。誰にも見つからないでよ?性別は気配を消して様子見ながら裏口へ回って」
『写真撮らなくていいの?』


 刹那は皆の驚きの声に反応することなく次々と指示を出していった。
 元々のプランにあったのだろう。渚は疑問に思ったことを彼女へ問いかける。

 
「ええ、萌え箱の言葉で確実に警察が関与してることが分かった。それに乗り込んでくる可能性もある」
『『!!』』
 

 刹那は彼の疑問に肯定するとひとつの推測を口にした。それにまた精鋭部隊は目を見開き、驚く。


「警察が外にいるということは安室透は公安としてこの店に訪れてる。ということは大体この店の悪事は見抜いているはず。無駄な作業は省くよ」
『『了解』』


 刹那は次々と言葉を吐く。そして、精鋭部隊に疑問を持たすことなく的確な言葉を選ぶ。
 彼らは彼女の言葉に理解を示すと了承の言葉を口にした。
 

「中二半と貧乏委員、鷹岡もどきは元々のプラン通りに!でも、早急に!」
『了解』
『おう!』
『りょーかい』
 

 彼女はカルマ、磯貝、寺岡に至急でプランをこなせと指示を出す。
 3人からは彼らしい返事が返ってきた。
 

『凛として説教とすごいサルは無事ひまわりを送り届けて』
『『OK!』』


 次に片岡と岡野に指示を出すと2人は返事を返す。
 岡野は運転席へ座るとシートベルトをつけ、アクセルを踏んで二宮ひまりの家へと向かった。

 
「…私はこのまま管理室へ乗り込む」
『お前、大丈夫か?』


 刹那はふぅと息をつくと自分の行動をみんなに告げる。
 その言葉に磯貝は彼女の身を心配したのだろう。彼女へ問いかけた。

 
「1種のかけだけど…行くしかないし、私も萌え箱もある情報が調べきれなかったし」
『へぇ、2人が無理とか相当だね』


 刹那は眉下げて困ったように言葉を紡ぐ。その言葉にカルマは不思議に思ったのか会話に加わった。それは彼らにとって当たり前といえば当たり前なのかもしれない。
 なんせハッキングの常習犯と自己成長するAIが手を出せないものだと言うのだから。
 

「そう…一番、欲しい情報が微塵も出てこない」
『何の情報が欲しかったんだ?』


 刹那はカルマの言葉にムッとして膝に肘を乗せ、掌にかおをのせながら言葉を紡いだ。
 彼女達が求めていた情報が何かを知らなかったのか杉野は不思議そうに彼女へ問いかけた。

 
「この店の顧客情報と店の雇用情報」
『何のために?』
「決まってるじゃない」


 刹那は彼の問いかけに簡潔に答える。
 しかし、なんの為に手に入れる必要があるのか分からなかったのだろう。
 前原は小さな声で問いかけた。
 彼女はどこか笑みを含んだ声で当たり前のように言葉を零す。

 
『『……??』』
『「捻り潰す為に」』


 彼女が紡ぎ出す言葉が理解できなかった律ともう1名を除く者達は首を傾げ不思議そうにしていた。
 刹那はすぅと息を吸うと目的を口にする。そして、彼女の声と被らせ同じ言葉を紡いだ男性の声が聞こえた。

 
『『…………』』


 その言葉を聞いた刹那と精鋭部隊の律ともう1名を除いた人物たちは彼女の言葉に血の気を引く。

  
「あら、中二半わかっちゃったの」
『無駄美人はそれしか考えてなかったデショ』
「ふっふっふっ……そんな事ないわよ〜」
 

 刹那はどこか楽しそうに彼女の言葉に被せて同じ言葉を紡いだ人物…カルマに言葉をかけた。
 彼もまたへらっと笑いながら彼女へ言葉を返す。
 刹那はわざとらしい笑い声を出しながら彼の言葉を否定するが実際のところどうなのか分かりにくい。

 
((この幼馴染コンビ怖い……!!))


 その場の会話を聞いていた二人を除いたら人物達は心を1つにして2人のことを畏怖していた。

 
『でも、管理室にあるの?』
「多分」


 カルマは話を戻し、彼女達の欲しい情報がそこにあるのかと問いかける。
 刹那は一言で言葉を返すが、そこに確証はなかった。
 

『おいおい、なんでそこはっきしりてねぇんだよ』
「いがーいとしっかり守られちゃってるのよ、このお店」
『どーいうことだよ』


 杉野は彼女の言葉に心配になったのか口を挟む。
 刹那は深いため息をついて困ったように言葉を紡いだ。
 彼女の言葉の意味が分からなかった寺坂は少し苛立った声で刹那へ問い掛ける。
 

「バックがバックだからかなぁ」
『あー、マフィアが付いてんだったな』
「そーゆーこと!それじゃ…変更プランでやりますよ!』
『『おう!』』


 刹那は能天気とも取れる口調で寺坂の質問に答えた。
 磯貝が以前彼女の言っていた言葉を思い出したかのように口にする。
 そう、このCloverというキャバクラ店はマフィアと癒着があるのだ。
 刹那は眠らせていた客の上から退き、立ち上がると磯貝の言葉に同意する。
 ストレッチをするように腕を上に伸ばすと第二作戦を開始する合図する言葉を零した。
 彼女の合図にインカムから精鋭部隊が返事をする。
 彼女は部屋のドアを少し開けて廊下に誰もいないことを確認すると管理室へと走り出した。




安室透の動きと

 ―雑草伐採作戦変更―




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