『はあ?どうやったら別室に案内されるのか?』
「ああ」
女性は素っ頓狂な声を上げて彼の問いかけを繰り返し口にした。
男性の電話口からはギシッと椅子に女性がもたれかかったような音が聞こえる。
彼は短く、彼女の問いかけに肯定して答えた。
『……何、降谷さん。興味持っちゃった?目覚めちゃったの?』
「シャナ。寝言は寝て言え」
女性は怪訝そうな…でも、何処か彼を茶化すような言い方をしながら彼……降谷零へ問い掛ける。
しかし、彼女の言い方が気に入らなかったのか降谷は眉間に皺を寄せて彼女…シャナこと刹那へ言葉を返した。
『はぁ…
「何だ、急に四字熟語なんか言い出して…今は関係ないだろ」
彼女はわしゃわしゃと髪をかきながら深いため息をつく。
そして、突然四字熟語を口にした。
降谷は突然発せられた四字熟語に更に眉間に皺を寄せて言葉を返す。
彼女の掴めない言葉にどこか苛立っているようにも見える。
『関係ないように見えて関係あるの、裏接客があることはさっき話したでしょ』
「ああ、聞いた」
刹那はふぅと息をついては彼の言葉を否定しては話を続けるように彼へ言葉をなげかけた。
そう、彼らの会話の内容は以前降谷が刹那へ依頼した“木下麗華”が副職している“Clover”という店の事だ。
どうやら、E組のメンバーに話していた情報を降谷にも求められて話をしていたようだ。
彼は彼女の言葉に短く同意すると彼は車のハンドルに人差し指を軽く叩く。
『で、客が宝石をご所望する時に別室へ通す為のpassがそれ』
「……」
彼女は端的に先程の四字熟語の意味を口にすると彼はその言葉の意味に目を丸くして絶句した。
まさか裏でやましいことをしているものがそんな四字熟語をパスワードにしていると思わなかったのだろう。
『本来の意味は良いものと悪いもの、優れたものと劣ったものが入り混じってることを言うんだけど……まあ、見事に悪いものと悪いものが入り混じって真っ黒黒助だけどね』
「…他の言い方はないのか」
刹那は彼の反応を気にすることなく更に続けて言葉を紡ぐ。
そして、呆れたように四字熟語と真逆と言いたげに言葉を吐いた。
彼女の言葉選びに違和感を持ったのか真剣な声音で降谷は彼女へ問う。
『あるとでも?』
「……」
彼女は不思議そうにそこに裏も表も含みも持たない声音で彼に逆に問いかけた。
しかし、彼は特に口にすることも無くただ黙り、考え込む仕草をする。
『……降谷さん?』
「いや、なんでもない」
返事が返ってこないことに不思議に思ったのか刹那は彼の名前を呼んだ。
彼は目を閉じ、相手には見えないが首を横に振って言葉を返す。
『因みにサファイアはとんでもない金額積まないと無理よ、何たって彼女、No.2なんだから』
「玉石混淆と言えば通されるんじゃないのか?」
彼女はどこか違和感を持ちながらついでのように追加情報を彼へ渡した。
その情報に彼は片眉下げて不思議そうに問いかけかえす。
『それが第一の条件、第二の条件はお金よ、お金』
「はぁ…聞いてるだけで吐き気がしてくるな」
彼女はカタカタとキーボードを打ちながら、彼の問いかけに吐き捨てるように答えた。
降谷は彼女の問いかけに深いため息をついて頭を抱えながら彼女の情報に感想を述べる。
『でも、イレギュラーはどんなこともある』
「どういう事だ?」
彼女はEnterキーを押すと手を止めて、言葉を紡ぐ。
その声音はどこか面白そうに笑っているようにも聞こえる声に彼は眉間に皺を寄せて彼女へ問い掛けた。
『宝石が客を所望する事もあるわけ』
「店のメリットはないだろ」
彼女はデスクトップに写った木下麗華の画像を見ながら彼の疑問に答える。
しかし、彼女の言葉に不審に思いながら彼は自身が抱える疑問を彼女にぶつけた。
『宝石もご褒美がないとやってけないのよ…自分好みの男とワンナイト過ごすぐらいの許容は店としてはありのようですよ』
「……頭が痛くなってくる」
刹那はペットボトルの蓋を開けながら彼の疑問も最もだと思ったのだろう。
そこに対しての疑問を回収出来るよう既に調べあげていたようだ。
その事を彼に伝え終わるとペットボトルを手にして中に入っている水分を体に取り込む。
全ての話を聞いて辻褄が合うと感じたのだろう。
彼はそこまでクズな店がのうのうと商売していることに頭を抱えてぽつりと言葉をこぼした。
『降谷さんの顔を見て落ちない女なんて居ないでしょ、頑張ってくださーい』
刹那は水分補給するとテーブルにペットボトルを置いて、手銃をデスクトップに写っている木下麗華目掛けて向けては彼を応援する言葉を投げかけたのだった。
◇◇◇
「安室さん?どうかされたの?」
「あ、いいえ…」
(くそ、彼女が既に他のやつに目をつけられていたとは予想外だ)
Cloverの店内でソファに座りながら、サファイヤに顔を覗きこまれながら問いかけられた安室はどうやら数日前、刹那とのやり取りを思い出していたようだ。
彼ははっとしては営業スマイルを向けてサファイヤに何でもないというように首を横に振る。
しかし、彼の内心は焦りが見えていた。
「……そんなにあの子がよかったんですか?」
「え…?」
サファイヤはじっと安室の顔を見つめるとぽつりと言葉を零す。
彼にしか聞こえないような小さな声で。
その言葉に彼は目を見開いて彼女の顔を見つめた。
「くす…私知ってるんですよ?店に来てはアクアマリンばかり貴方は指名してたこと」
「…よく知っていましたね」
彼の顔が図星をついているように見えたのか彼女はくすりと笑うと安室の腕に絡みつけながら顔を近づけ、彼へ言葉を紡ぐ。
彼女の行動に動じることなく、安室は驚いたように言葉をこぼした。
「だって…貴方程の男性ですもの。私に指名して下さらないかしらといつも思っていたんですよ?」
「あはは…貴女はいつも誰かに指名されてたので…中々勇気が出なくて」
「あら、奪い取ってくれる勢いで来て下さいな」
彼女は寂しそうな表情をし、彼の胸板にそっと手を添え、上目遣いしながら彼を見上げる。
彼は眉を下げて力なく笑いながら気弱な発言をした。
彼女は引くことなく彼にアタックするように誘惑をする。
(彼女は一体どこに……それがわからない限り、風見に指示は出せない…なら、この女の後ろを先に突き止めるか…)
彼は笑顔を絶やさずに彼女の言葉に耳を傾けながらとある人物…彼が助けると約束した少女の身の心配をしていた。
しかし、このフロアに居ないことに焦りを感じながらも優先順位を変更したようだ。
「では…今宵、貴女を頂けませんか?」
「っ、……あら、私はあの子の二番煎じ?」
彼はぐいっと彼女へ近づき、にっこり笑いながら問いかけた。
顔の整った男がさらりと嫌味なくいうのがサマになっている。
サファイヤはまさか相手が乗り気になると思ってなかったのか驚いたように目を見開いた。そして、彼女は妖艶に微笑みながら彼を試すように問い掛ける。
「まさか!貴女がずっと欲しかったのですがチャンスがなかったんですよ。このチャンスを逃す僕ではありません…貴女が良ければ…」
「ふふっ、喜んで」
安室は微笑みながら彼女に甘く囁いた。
どこか野性的な目を彼女に向けるとサファイヤは少し頬を赤らめて微笑みながら言葉を返す。
「……では、玉石混淆…貴女を僕に」
「ふふ…いくらでも」
安室は彼女の耳元で掠れた声で甘く別室へと続くためのpassを紡いだ。
彼は彼女の耳元からそとっと距離をとると彼女は彼を愛おしそうに見つめ、サファイヤは安室の手を取り、同意の言葉を口にするとその場を立ち上がる。
甘い蜜がある場所へと案内するように安室を誘ったのだった。
臨機応変に彼もまた
―甘い蜜へとわざと足を踏み出す―