22話






「…無駄美人、無事に誰にも会わずに管理室到着……って、PC多すぎでしょ…どれ弄ればいいのよ」
『無駄美人さん、一番奥にあるPCに例のUSBを挿してください』
 

 管理室をそっと覗くと中には誰も居らず、ガランとしていた。二ノ宮ひまり扮する刹那は誰もいない管理室に乗り込むとインカムで精鋭部隊に潜入成功したことを告げる。しかし、管理室には異様な数のPCが並んでおり、彼女は眉を下げてボヤいた。
 インカムから彼女の名前を呼び、的確な指示をする可憐な声が耳に響く。
 声の正体は萌え箱…律だ。
 刹那は彼女の言う通り、一番奥にあるPC目掛けて駆け出す。


「りょーかいっと…」
『…これでこのPCは私のものです』


 言われた場所へ辿り着くと彼女は手に持つUSBをPCに入れた。
 差し込んだ瞬間、律はPCの中へ潜入成功とも言える言葉を紡ぐ。
 

「いやぁ…私がハッキングするより簡単だよねぇ。楽だわ」
『……無駄美人さん』


 PCのデスクトップが1人でにデータを読み取られていく様を感心しながら刹那は独り言のように呟くと窘めるように彼女のコードネームを律が口にした。
 どうやら、その彼女の言葉が気に触ったようだ。

 
「ごめんごめん。それで情報はあった?」
『えっと…ありました!』


 刹那は眉下げて笑いながら彼女へ謝罪すると目的のものがあったかを問う。
 律はデータを確認しながら彼女の問いに答えた。

 
「よし、これでバックとの癒着の証拠ゲット…今のうちにコピーして例のところに送り付けて…」
「何をしている」


 刹那は探しても見つからなかったデータがあっさり見つかったことにほっと肩を下ろす。
 そして、律へお願いをしようとしたがそれは第三者の声に遮られた。
 

「『!?』」


 第三者の声に驚き、刹那は声の下方向を向くとそこには黒いスーツを来た中年の男性が立っている。
 よく見ればアクアマリンに裏接客をしろと言ってきた支配人だった。

 
「……アクアマリン、何をしている」
(やっばー…見つかった)
 

 支配人は彼女を疑いの目で見ながら問い掛ける。
 三下のまだ未熟なキャバクラ嬢が管理室に入り込んでいるのだから無理もない。
 刹那は内心面倒くさそうに呟きながらも、二ノ宮ひまりのフリを瞬時にした。
 

(どうするつもりだ!?) 
 

 インカム越しで聞こえていた精鋭部隊たちは彼女がこの事態をどう切り抜けるのか心配し、耳を傾ける。
  

「あ、あの…」
「川村様はどうした」


 彼女は怯えた表情をし、言葉を詰まらせながら必死に紡ごうとした。
 しかし、支配人は警戒心が抜けずにジロっと彼女を睨みながら問いかける。

 
「う、うう…助けてください…!!」
「なっ、…!」
「か、川村様がこの店の情報を盗んで来いって…お、脅されて……!!」


 刹那は目にいっぱいの涙を溜めながら支配人に抱きつき、助けを乞う。
 泣きながら抱き着く従業員の姿に男は狼狽えた。
 その隙を見逃すことなく刹那は先程眠らせた中年に罪を着せては目から一雫の涙を零す。

 
(もっといい言い訳なかったの?)
(そんなの信じるわけ…)


 インカム越しで聞いていた精鋭部隊は彼女の言い訳に呆れた顔をしながら心の中でツッコミを入れた。
 

「何だと!?」


 しかし、彼らの予想を裏切るように支配人は彼女の言葉を信じ込み、驚いた顔をして彼女を見つめた。


((信じた…!!))


 まさか信じると思っていなかった精鋭部隊一同は支配人の言葉に驚きを隠せない。
 

「支配人…お願い、します……助けて下さい…」
「PCには触れたのか?」


 刹那は顔を赤らめながら涙をポトポトと落とした。そして、自然に支配人に縋り付くように胸を押し当てながら見上げ、再度助けを乞う。
 支配人は眉間に皺を寄せながら彼女へ問い掛けたが、完全に支配人には彼女の谷間を見ていた。
 やはり、支配人と言っても男の性なのだろう。
 

「いいえ、触れていません…!」
「今から川村様の所へ向かおう」
「ありがとうございます…」

 
 彼女はぶんぶんと首を横に振りながら、男の問いに否定する。
 彼女の言葉を信じたのか彼女の行動に懐柔されたのか支配人は罪を擦り付けた男の元へ向かおうと踵を返した。
 刹那は手を顔に覆い、涙を流しながら支配人にお礼を言う。


「2度目はないと思え」
「はい、もちろん…信じてくれてありがとうございます♡」
「なっ……!!」

 支配人は顔だけ彼女の方へ向けて忠告をした。彼女はこくこくと縦に首を振る。
 そして、何処から出したのか分からないハンカチで口と鼻を押さえ、睡眠スプレーを支配人に向けて噴射すると先程までボロボロ泣いていたのが嘘のように満面の笑みを浮かべながら支配人にお礼を言った。
 そこで今の今まで騙されていたことに気がついた支配人だったが、もう遅い。
 毒メガネとメガネ(爆)の共同開発によって生まれた強力スプレーを食らってそのまま倒れ込んだ。

 
「……こんな上手くいくとは思わなかった」


 刹那は呆れた顔をしながら眠りについている支配人を見ながらぽつりと言葉を零す。
 彼女の中でもこんな簡単に対処できると思っていなかったようだ。

 
『大丈夫か!?』
「意外と頭弱かったみたい、大丈夫」

 
 インカム越しで磯貝が状況把握するために刹那へ問い掛ける。
 彼女は場に似つかわない声音で呑気とも取れる言葉を口にし、身の安全を報告した。


『ヒヤヒヤさせんなよ…』
「あはは、ごめんごめん」
 

 何処かと影の薄かった杉野は深いため息をついて彼女へ言葉を零すと刹那は眉を下げて笑いながら謝罪をする。
 彼女が反省してるのかしてないのかはイマイチ分からない。


『無駄美人!こっちは店の裏口に着いたぞ』
「それじゃ、飯がススムくんを放り込んで。あ、指紋には気を付けてよ」
『了解』


 磯貝はプラン通り裏口に着いたことを刹那へ報告すると彼女は簡単にさらりと問題発言をする。
 そう、誘拐した人物を店の中に放り込ませたのだ。
 注意を忘れずに口にすると実行部隊は彼女に返事をする。

 
「放り込んだら裏口で隠れてる性別と外で待機してる女たらしクソ野郎を中二半たちが回収して撤退」
『…無駄美人はどうするわけ?』


 そして、次の行動を指示すると各自彼女の言う通りに動き始めた。
 その中で渚は不安そうに彼女へ問い掛ける。
 彼女はまだ店の中心部にいるのにどうやって脱出するのか疑問に思ったのだろう。
 

「私は逃げる経路確保済みだから問題ないけど……これから私は作業をするからレス返せないし、念の為こっちのマイク切るよ」
『何やるんだよ』


 刹那は先程眠らせた男を縄で縛り付けながら渚の疑問に答えるが、唐突な言葉を口にする。
 彼女の言っている意味がわからない寺坂は彼女へ問いかけた。
 

「顧客情報は萌え箱に抜いてもらったけどまだ抜いてないでしょー、雇用情報&アクアマリンについて…それを全ての情報を抜くの」
『…!!』


 彼女は支配人を縛り付けると先程律がハッキングしていたPCへと向かって歩きながら彼の問いかけに答える。
 彼女の答えに一同は目を見開き、声にならない声を上げた。
 

「という訳で本気を出すので司令塔交代で頼むよ、貧乏委員」
『…無理はするなよ』


 彼女は一番奥のPCに辿り着くと椅子にドサッと座って磯貝へバトンタッチの言葉を口にする。
 磯貝は固唾を飲み込んでは彼女の身の安全を心配する言葉を投げた。
 

「off course…萌え箱、例のヤツ頼んだ」
『任せてください!』


 彼女は口角を上げて自信満々に彼へ言葉を返すと彼女は律へ言葉を投げる。
 “例のヤツ”と言われた彼女は刹那の意図をちゃんとくみ取っているようで頼もしく返事を返した。
 刹那は目を閉じてふぅと息を吐き、筋肉をほぐすように両手を組んで上にあげて伸びをする。
 腕を上から下へと力を抜くと首を左右に動かすと微かに肩の筋肉が鳴る音がした。
 そっと目を開けると彼女は鋭い眼光でデスクトップを睨みつけると作業に入る。




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