4話






「あ!刹那、ごめん!」
「どうし…あ、仕事?」
「また再開になったらしくて…また落ち着いたらお茶しよ!」


 ゆっくり話しながらお茶をしていた刹那と茅野。
 彼女はふと自分のスマホに通知が来ていることに気がつき、内容を見ると刹那に急に謝り出した。
 不思議に思いつつも問い掛けかけるが刹那はひとつ思い当たることがあったのかそれを口に出すと茅野は眉下げて彼女の言葉に頷くと両手を顔を前で合わせては次の約束を取り付ける。


「さすが売れっ子は違うね〜」
「もう何言ってるの!…あ、会計…」
「いいよ、私まだここにいるつもりだったし。奢っちゃる」


 刹那は冷やかすように言葉を紡ぐと茅野は眉下げて言葉を返し、会計の話をし始める。
 しかし、刹那が遮って太っ腹なことを口にした。


「いいの?」
「構わんよー、ほれ仕事頑張り」
「うん!ありがと!!また連絡するね!」
「はいよー」


 茅野は驚いた顔をして刹那に問いかけると彼女は茅野の問いに肯定の意を示し、ふっと笑って手を振る。
 刹那の笑みに茅野も笑顔になりお礼を言って店の出口へと歩いていった。
 そんな彼女の背中を刹那は見送る。


(さてと…少しでも仕事進めるかな……いや、やめとこう)


 茅野の背中が見えなくなると刹那は鞄からタブレットを出して本業の作業をしようとするが、視線を感じてピタリと手を止めてタブレットをそっとカバンにしまう。


(さっきから痛いほど視線が刺さるんだけど…ああ、憩いの場がなくなってしまった……やっぱり帰ろ)


 まだ残っているコーヒーを口付けてはスマホを弄る刹那は突き刺さる視線にため息を付くと癒しの場がなくなったことをショックに思ったのか心の中でぼやくと鞄を持って席を立ち上がった。


「あっ」
「わっ」


 伝票を持ってレジまで向かう途中で安室とぶつかり、安室が持っていたコーヒーが刹那の服につく。


「…あ」
「刹那さん!すみません!!洋服を汚してしまって…」


 服に付いた染みを刹那は茫然と見ていると安室は慌てて彼女に謝りながら、濡れタオルを急いで用意して染みついている個所を押さえた。


「気になるほとじゃないので気にしないで下さい」
(…というか、わざとぶつかったよね?アンタ…)
「そういう訳にもいきませんよ…もうすぐ上がりなので弁償させて下さい」


 刹那は引き気味に笑っては気にするなと言葉を掛けるが、心の中で毒を吐いていると安室は彼女の言葉を否定して、彼女の耳元でぼそりと彼女にとっては最悪な呟きをした。


「いや、そんな…本トにいいので…」
「いいですよね?」
「あ、はい…はぁ、時間までどこかで暇潰すのでここに連絡下さい」
「本当にすみません」


 刹那はぎょっとした顔をして断ろうとするが、彼女が見たこともない笑顔で安室は強制的な言葉で問いかけると彼の思惑通り、刹那は断れなかった。
 諦めた彼女はため息を付いてこそっと連絡先を渡すと安室は頭を下げて謝る。


「いや、もー…気にしないで下さい、本トに」
(安室さんと刹那さん、何してんだ?)


 刹那は逃げれない現実に力なく言葉を掛けて会計を済ますとコナンは後ろで行われていた会話に疑問を持って首を傾げていた。



◇◇◇



 刹那は本屋で時間を潰しているとスマホからバイブ音がして機器を手に持つと画面に表示された名前はなくただの電話番号となっていた。


(…ってことは"安室さん"の電話から掛けて来てるわけね)


 彼女の知らない番号だということを認識しては彼女はスマホを耳に当てる。


「はい、どなたですか?」
「あ、安室です。先程上がりました…今どちらに?」
「お疲れ様です、駅近の本屋にいます」
「そちらに向かいますね、それでは」


 刹那はおそらく誰から掛かって来ているのか分かっていながらもわざとらしい問いかけをするが、その問いかけに電話主…安室は当然のように名前を告げて刹那の現在位置を問いかけた。
 刹那も一般常識のテンプレを述べると彼女のいる場所を答えると安室は刹那に一言を掛けると電話を切る。


(……この茶番はいつまで続くわけ?)


 ただ知らない人たちが聞けば一般的な会話で違和感はないが、彼女たちは知り合いでこんな会話をする中ではない。
 刹那は電話が切れたスマホをじっと見つめて毒を吐いた。


「お待たせしました」
「いえ…そんなに待ってませんから」
「どうぞ、乗って下さい」
「……失礼します」


 それから数分すると安室はRX-7 FD3Sのホワイト車に乗って刹那の前に現れると彼女に声を掛ける。
 刹那は気だるそうに声を返すと安室は車の助手席を開けて乗る様催促をした。
 彼女は乗りたくなさそうな顔をしながらのそりと彼の愛車に乗り込む。


「「………」」
(何この気まずい空間)


 安室は彼女が乗ってシートベルトをしたのを確認すると愛車を走らせる。
 その間、二人の間にはただ静かな空気だけが漂っており、この空間が刹那にとっては居心地の悪いものだった。


「…まさか君があそこに通っているなんて知らなかった」
「プライベートだもの、言わないわよ」


 気まずい空間の中、安室が言葉を発すると刹那は外の景色を見ながら憎まれ口を叩く。


「偶然とは言え、君の名前を知ってしまった…これは契約違反になるのかい?」
「防げない事故でしょ…目を瞑るわ」
「それは助かる」


 安室は彼女の言葉にわざとらしく困った顔をしながら彼女が協力者になる条件である“プライベートに干渉しない”という条兼について問いかけると刹那はため息を付いて目を閉じて彼にお咎めなしを伝えるとふっと笑って言葉を返した。


「その代わりに私からも一つ質問させてもらえる?」
「何だい?」
「私が知ってる"貴方"の顔は2つ?それとも…」


 刹那は安室の方へ目線を寄越して今度は彼女が彼に問いかけると彼女の問いに受け付けるとばかりに安室は言葉を発する。
 刹那は指を人差し指と中指を立て2を表して問いかけては意味深な言葉を述べながら微かに薬指を立て相手の反応を待つ。


「……はは、の顔は毛利先生の助手とポアロのバイトだけだよ」
「……。」
(今、波長が揺らいだ…目線は薬指ということは…)


 安室は彼女の指をちらっと見てはまた前を向いて運転を続けて言葉を返すが、その言葉は彼女の意図していた言葉とは違った。
 刹那はじっと観察するように安室を見て彼の波長を感じながら一つの考えに至る。


「…嘘が上手なことはよーく分かった」
「何のことかな?」
「さあね…」


 刹那はため息を付いて安室にぽそりと呟くように言葉を述べると彼は誤魔化すように彼女をちらっと見て問いかけると刹那も知らなふりをして会話を終わらせた。


「…僕からもひとついいかな?」
「…何?」
「刹那さんとシャナ…どっちが本物の君?」
 

 安室は少し間を置いてから刹那に声を掛けると彼女はボーッとしながら頬杖付いて横の車窓から外の景色を眺めながら言葉を返す。
 安室は彼女の本質である刹那とシャナについて問いかけた。


「くす…まずその問い掛けが不正解」
「……?」
「本郷刹那もシャナも両方とも私。これが最適解」


 刹那はその彼の問いかけに思わず目を丸くして車窓に映る安室の姿を見てはくすっと笑いながら問題でもないのにも関わらず“不正解”という言葉を使って彼に言葉を返した。
 安室はその言葉の意味が分からずちらっと刹那を見て不思議そうな顔をしていると刹那は不敵に微笑みながら彼女の中の“最適解”を答える。


「なるほど、両方とも君か」
「そーゆーこと」


 彼女の答えに納得した安室はふっと笑って言葉を返すと刹那は背もたれに寄りかかって言葉を返した。


「まさか君の苗字まで知り得るとは…何のサービスだい?」
「…さあね、気まぐれかな……でも、貸1」
「手厳しいことで」
「…ねぇ」


 安室は刹那が彼女自身から彼女の情報を出すと思ってなかったことを大げさに言葉にすると刹那は目を閉じて彼の言葉に言葉を返して貸しを作った。
 彼女のその一言に安室は困ったように肩を縮こまらせて笑うと刹那は話を変えるように彼に声を掛ける。


「今度は何かな?」
「家まで送って」
「服は?」


 ふうと息を吐いて安室は問いかけると刹那は簡潔に彼にお願いをすると彼は不思議そうな顔をしてもともとの無垢的である弁償について問いかける。


「はあ?あれ口実じゃないの?」
「約束は守るさ」
「めんどくさ…」


 安室の問いかけに刹那は怪訝そうな顔をして問いかける。彼女の中ではお互いの情報が漏えいしたことについて話し合うための口実だと思っていたようだ。
 安室は不敵に微笑んではハンドルを切ると刹那は深いため息を付いて彼の言葉にぼやく。
 そして、そのあと本当に弁償というなの服を購入されて彼女は無事家まで送り届けられた。




約束を
 
 ―彼は守る人間らしい―




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