5話






「ふわぁ〜……よく寝た…ん?」


 刹那は目が覚めてカーテンを開けるともう既に日は頂上に昇っており、時計の針は12時を指していた。
 伸びをしているとスマホのライトが点滅しており、何か通知が来ていることに気が付く。


「烏間先生?……めっずらしー」


 スマホを手に取り、通知を確認すると恩師からのメッセージが来ており、意外な人物からのメッセージに刹那は言葉を漏らす。

 
"話がある。今日の20時、下記URLの店に来てくれ"

 
 LANEを開いてメッセージを確認するとそこには簡潔に内容のみ書かれていた。


「相変わらずですなぁ…了解っと」
(…にしても、何の話?)


 刹那は堅物具合はご健在とばかりに言葉を漏らしてLANEの返事をしては彼女は顎にスマホを添えて恩師の話は何かを心当たりを探していたが、見つからなかった。



◇◇◇



「烏間先生、お久しぶりです…って、え゛」
「本郷さん、久しぶりだな」
「え゛、あの、その、隣の方は…?」
「……」


 店に行って恩師がいる部屋に通された刹那は恩師…烏間に声を掛けて部屋に入るとそこには烏間以外の人物もおり、彼女は固まる。
 刹那の声に烏間は淡々と挨拶を返すがこの状況に付いていけていないは戸惑いながら烏間の隣にいる人物…ミルクティ色の褐色肌の男のことを聞くとその人物…降谷零は居心地悪そうに黙っていた。


「どうした?」
「い、いえ…それで私に話ってなんですか?」


 烏間は戸惑っている刹那をじっと見て問いかけるが彼女は困惑した顔をしながらも首を横に振り、席に着いては話を切り出す。


「…3年前、とある悪徳組織が壊滅した」
「へぇ」


 烏間は彼女の問いかけに突如一般人に話していいものでは無い話を簡単に言葉にした。
 彼女は表情も変えずどうでも良さそうに一言言葉を零す。


何者か・・・がその組織をハッキングし、警察に情報を流したおかげだ」
「…回りくどいのは嫌いです、それがどうしました?」


 烏間は手を組んで肘をテーブルにつけ刹那をじっと見ながら更に情報を彼女に漏らす。
 刹那は水の入っているワイングラスを持ってくるっと回しながら烏間の意図を理解してかしてないか彼に問い掛けた。


「君だな」
「……」
(………そこで笑うのか)


 射抜くような目で烏間は確信ある言葉で警察に情報を流した主が刹那だと言うと彼女はふっと微笑んで水を口にするとその姿に降谷は目を見張って驚いた。


「認めるんだな」
「認めます。ほっておけない子がいて…つい」
「……全く、正義感が強いのも考えものだな」


 威圧的な言葉で問いかける烏間に刹那はあっさり認めて困ったように眉下げて言葉を返す。
 烏間は彼女の言葉に深いため息をついて言葉をポツリと零した。


「あの、何で2人が一緒にいるんですか?」
「君が彼の協力者になっている情報を得て過去も調べた」
「あー…納得しました」
(絶対、律だ…)


 刹那は戸惑いながら、彼女が先程から気にしていること…この場に烏間と一緒に降谷がいるのかを問いかけると彼は淡々と彼女の疑問に答えていく。
 烏間のその説明で情報源がどこであるかまで理解した刹那は首を縦に振って納得したのだった。


「まさか降谷の協力者になっているとはな」
「まさか烏間さんの知り合いだとは…」
「お二人共面識あるんですか?」


 烏間は深いため息をついて元教え子が公安の協力者になっていることに頭を抱えると降谷も困ったような顔をして防衛省の知り合いであることに驚いていた。
 刹那は首を傾げながら2人に素朴な疑問をする。


「何年か前に防衛省と警察で合同訓練をしたことがあってな」
「そういう事だ」
「へぇ…」


 彼女の疑問は烏間によって答えられ、降谷も彼の言葉に頷いて同意すると刹那は驚いてはいるものの気の抜けた声で言葉を零した。


「…ところで君と烏間さんの関係はなんだ?」
「プライベートには関与しない約束は?」
「……」


 降谷はじっと刹那を見て烏間との関係を問い掛けるが彼女はにっこり笑って彼の問いかけには答えず、これ以上踏み込むなと言うように逆に問いかけを被せる。
 彼女の笑顔を見た降谷は頬を引きつかせ黙って見ていた。


「……彼女は私の教え子だ」
「ちょ、烏間先生…!?」
「教え子…?」


 2人が謎の駆け引きをしていると烏間はワインを一口飲むと降谷が求めていた答えを述べる。
 まさか烏間からその言葉が出ると思ってなかった刹那は驚いて烏間の名前を呼ぶと降谷は更に疑問が深まったのか烏間から出た言葉をオウム返しした。


「詮索は禁止。これ以上私のテリトリーに入ったら契約違反と見なす」
「全く…恐ろしい女性だな」
「じゃなきゃ貴方の協力者なんてやってられませんから」


 刹那は目を細めて降谷を見て牽制をかけるように言葉を言い放つと彼はふっと笑って降参とばかりに両手をあげる。
 それを見た刹那は不敵に微笑んで言葉を返した。


「電話だ…俺はこれで」
「ああ、忙しい中すまないな」
「いえ、それでは」


 ピピピッという電子音が部屋に響くと降谷のスマホから着信が鳴っており、彼は席を立つ。
 烏間は彼に言葉をかけると彼は軽く会釈をして部屋を出て行った。


「全く君は犯罪を犯していたなんて驚いたぞ」
「私だってやる気はなかったです」
「はぁ…」


 降谷が出て行ったのを確認すると烏間は刹那の方を向いて眉間に皺を寄せて小言を言うと刹那は肩を竦めて言葉を返す。
 しかし、烏間にとって彼女がそんなことをしていたことは予想外だったのか深いため息をついてテーブルに肘をついて額に手を当てていた。


「まあまあ、そんな頭抱えないで下さいよ」
「誰のせいだ」
「…もう大人ですから自分で責任負えます」


 刹那はそんな姿の烏間を見て困ったように笑いながら言葉を掛けると烏間は反省しろとばかりに刹那を睨みつける。
 彼女はふっと笑いながら言葉を返した。


――子供でも自分のことくらい自分で責任負えます

 
「全くそういう所は変わらないな」
「そうですかー?」
「ああ」


 烏間は言葉を返してきた刹那に10年前に言った彼女の姿を重ねてふっと笑って目を閉じる。
 刹那は不思議そうに首を傾げていると彼は彼女の言葉を肯定した。


「…ところでビッチ先生は元気ですか?」
「ああ…あれは今、仕事で飛んでいる」
「危険なことしてるんですか?」


 話題を変えて刹那はもう1人の恩師・イリーナ・イェラビッチ…通称ビッチ先生のことを烏間に聞くと彼は淡々と彼女がどうしているのかを答えると彼女は眉下げて掘り下げて問いかけた。


「あいつの実力なら問題ない」
「ひゅー…流石」


 烏間は確信した断言の言葉を述べると刹那は口笛を吹いて2人の信頼関係の厚さに賛嘆の声を上げる。


「しかし…」
「ん?」
「いや、何でもない」


 烏間はワインを見つめて言葉を言いかけると刹那は首を傾げてたが、烏間は目を閉じて言いかけていた言葉を飲み込んだ。


「そうですね…あまり話さない方がいいです」
「……。」
「ハエがどこに飛んでるかなんて分かりませんから」
「ふっ…そうだな」


 刹那は立ち上がって烏間の方へ歩み寄ると意味深な言葉を投げ掛ける。
 烏間は彼女の言葉の意図を理解しているのか黙ったまま彼女の声に耳を傾けた。
 刹那は微笑みながら先程まで降谷が座っていた席にナイフを突き刺して盗聴器を壊す。
 盗聴器を壊した刹那を見て腕が鈍っていない教え子に思わず笑って烏間は彼女の言葉に同意した。



◇◇◇



「っ!……僕をハエ扱いするひとは君だけだな」


 降谷は愛車の中で烏間と刹那の会話を盗聴していたが、まさか盗聴器を仕掛けていることがバレると思ってなかったのか壊された音に驚いた顔をする。
 そして、壊れて聞こえなくなる間際に聞こえた彼女の言葉にふっと笑っては盗聴を諦め、車を走らせた。




私には

 ―彼に知られてはいけない過去がある―




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