7話






「あー…そういや、今日は蘭ちゃんの勉強を見る日だっけ」


 急に現れた元同級生という名の客が家で飲み会をした。
 彼らは流石に各々の家へと帰宅し、刹那も倒れるように自身のベッドに眠ったようだ。
 目を覚ました彼女は腕を上に思い切り伸ばして伸びをすると本日の予定をスマホを見て確認すると言葉を零す。


「ふわあ…あの人、今日いんのかな……」


 大きな欠伸をしたあとにスマホを口元に当ててあまり出会いたくない人物…降谷零の存在を思い浮かべた。


「どうか、いませんように…」
 

 閉めていたカーテンを思い切り開けて空を見上げては刹那は願うようにまた言葉を零したのだった。



◇◇◇



「あ…刹那さん、いらっしゃい」
「ふ…じゃなくて、安室さん。どーも」
「あ!刹那さん!」


 刹那はポアロの扉を開けるとそこには満面の笑みを浮かべて働いている姿の降谷零…ではなく安室透が彼女へ言葉を掛ける。
 思わず彼の本名を言いそうになった刹那は言葉を詰まらせて口を止めると安室に挨拶を返した。
 そんなふたりのやり取りを知らない蘭は刹那の姿を見つけたことで彼女の名前を呼び、手を振った。


「おや、今日は蘭さんとですか?」
「ああ…たまに勉強を教えてるので」
「……貴女がですか?」


 安室にしてみれば不思議な組み合わせだったのか目を見開いて刹那へ問い掛けると彼女は素っ気ない態度で言葉を返す。
 刹那に返された言葉が意外だったのか安室はじっと見つめたまま再度問い掛けた。


「一応、一通りは出来ますから」
「へぇ…そうなんですか」
(まあ…ハッキング出来るくらいだしそれ相当の学はありそうだな)


 刹那はあまり聞かれたくなさそうな表情を見せるが今会話している相手が"安室"だと言うこともあり、ざっくりとした返答をすると彼は特にそれ以上深く突っ込んで聞くこともせずに納得した。


「それじゃ、蘭ちゃんのところに行きますね…あ」
「どうかされましたか?」
「…いつもの、お願いします」
「…あ、はい。分かりました」


 話を切り上げて蘭の元へ行こうとする刹那は声を上げて足を止めると安室は不思議そうに彼女に問いかける。
 ゆっくり少し照れた顔をしながら安室に注文をすると彼はキョトンとした顔をして注文を受けた。
 刹那は彼のその言葉に会釈して蘭の元へと駆け寄った。

 
(なんか降谷さんに言うの地味に恥ずかしい…)
「刹那さん、また呼び出したりしてすみません…」
「ああ、気にしなくて大丈夫だよ。何が分からなかった?」


 いつもなら梓とするこのやり取りを安室とすることで刹那の中で違和感を感じて照れを生んだようだ。
 蘭の元へ近寄った刹那に蘭は申し訳なさそうに声を掛けると刹那は首を横に振って言葉を返すと席に着きながら蘭に問い掛ける。


「今回は数学が…」
「どこが解けなかったの?」
「ここの問3です」
「どれどれ…ああ、これは応用だね」


 蘭は鞄から数学のテキストを取り出して言葉を掛けると刹那は更に問題について問い掛ける。
 蘭はテキストを開いて解けなかった問題と自身で解いてみたノートも合わせて刹那に見せた。


「途中まで解いて見たんですけど…答えに辿り着かなくて」
「ああ、途中まで合ってるよ。ここからこの公式を使うの」


 蘭はシャーペンを持ちながら困った顔をして刹那に教えを扱ぐと刹那は問題と蘭の解いた計算式を見て理解したのか問題の解き方の説明をし始める。

 
「刹那さん、先にコーヒーをお持ちしました」
「ああ、ありがとうございます…ってことでこの公式を応用して解いてみて」
「は、はい」
(本当に合ってる)


 勉強を教え始めるとオーダーしていたコーヒーを届けに安室が刹那たちのテーブルに来て声を掛けるが、刹那はそちらに顔を向けることなくお礼を言っては蘭に解き方を教え続けると蘭も彼女の言った解き方で問題を再度解き始めた。
 安室は問題を解いている蘭の問題集をちらっと見ては刹那の教え方が的確であることに少し驚いた顔をしていた。


「…ん?安室さん、どうしました?」
「良くこんな難しい問題解けますね」
「まあ、それなりに勉強はしてたので」


 視線を感じた刹那は不思議そうに安室を見て問いかけると彼は感心したように彼女に称賛の声を掛ける。
 その言葉に刹那は眉下げて困ったように笑って言葉を返した。


「あ!出来ました!刹那さん、これで合ってますよね」
「……うん、正解。良く出来ました」
「刹那さんの教え方って分かりやすいですよね」


 解き終わった蘭は嬉しそうに回答を刹那に見せると安室はすっとその場から姿を消して刹那は蘭に見せられた計算式と答えを見てにっと笑って言葉を返した。彼女のその言葉に蘭は嬉しそうに笑い返しては刹那を褒める。


「そう?」
「正直、学校の先生より分かりやすいです」
「あはは、おおげさ」


 蘭の言葉に刹那は眉下げて笑いながら首を傾げると蘭は大きく首を縦に振ってキリッと言葉を返すが、刹那は有り得ないとばかりに軽く受け流した。


「いらっしゃい…あら、コナン君」
「梓さん、安室さん、こんにちは!」
「おや、少年探偵団のみんなも一緒かい?」


 お店の戸が開いてカランカランという音がすると梓は扉の方を見て来店した客を迎えようと声をかける。
 店の扉開けた人物は見知った人物だったようでその人物…江戸川コナンの名前を呼んだ。
 コナンは目の前にいる梓と少し離れた所にいた安室に声を掛けると安室はコナンの後ろにいる数人の少年少女に目を向けて問いかける。


「うん、おやつここで食べようってなって」
「オレ、腹減ったー!」
「もう元太君、さっきからそればっかだよ〜?」


 コナンは安室の問いかけに笑って頷いては言葉を返すと後ろから元太が眉下げて大声で空腹を主張した。
 その言葉に歩美はくすっと笑って元太に言葉を掛けると元太は少し拗ねた顔をする。


(随分賑やかになったもんで…)
「蘭ちゃん、他にはある?」
「あ、あとここの…」
「あれ?蘭ねーちゃん?」


 後ろから聞こえる少年少女とこの喫茶店の店員の会話を何となく聞いていた刹那はふっと笑っては蘭に他に分からない問題があるか問いかけると蘭は問題集を指を差したところで小さな子供の声が蘭を呼んだ。


「びっくりした〜!コナン君、来てたの?」
「うん、みんなと一緒に来たんだ」


 余程集中していたのだろう。
 蘭はコナンに声を掛けられるまで気付いていなかったようで驚いた顔をしてコナンを見ると彼女は首を傾げて少年に問いかける。
 コナンは彼女の問いかけに大きく首を縦に振ると返答した。


「こんにちは、コナン君」
「こんにちは!刹那さん!」


 2人の会話が落ち着いたころにテーブルに肘を付いていた刹那はコナンに挨拶すると少年も笑顔を見せて挨拶を返す。


「あー!刹那さんだ!!」
「珍しくいるな!」
「お仕事落ち着いたんですか?」


 コナンと刹那が会話をしていると遠くから嬉しそうな声で彼女の名前を呼ぶ声がすると彼女はそちらの方を見た。
 そこには歩美、元太、光彦、灰原哀がおり、元気3人組は彼女を見るなり駆け寄って思い思いに言葉を掛ける。


「おお、少年探偵団たち久しぶりね。元気そうで何より」
「あなたも元気そうね」
「今、仕事が落ち着いてるからね。自由は素晴らしいわ」


 元気に駆け寄ってきた少年少女たちに思わず笑って刹那は言葉を掛けると少し遅れて寄ってきた哀は彼女にクールに言葉を掛けると刹那はふっと笑って言葉を返すが、その言葉は余程自由を愛する人間だと子供でも分かるほどだった。


「ねえねえ、何のお仕事してるの?」
「ん〜、ヒミツ」
「いつになっても教えてくれねーよな、刹那ねーちゃん」


 歩美は刹那に素朴な質問をすると彼女はにっこり微笑んで教えることはせずに一言返すと元太は眉間に皺を寄せて文句を言う。


「私の仕事を知っても得にならないもん」
「それは僕たちが決めることです!」
「私が決めることなんですよ〜」


 刹那は元太に眉下げて笑いながら言葉を返すと光彦がむっとした顔をして再度歩美がした質問に対して催促するように言葉を返すが、刹那は元気3人組をあしらう様に子供じみたような言葉を返した。


(はは、子供の言い合いかよ…)
(何故、子供と同じ精神年齢に下がるんだ)


 刹那が元気3人組と言いあっている姿にコナンは半目になりながら心の中で突っ込みを入れているとこのやり取りを聞きながら刹那が注文したものを持って現れた安室も心の中で大人げないとばかりに突っ込みを入れていた。


「刹那さん、はい。いつものですよ」
「…ありがとうございます」
(……しまった、いつものノリで返してるの見られてしまった)


 安室は会話に加わらずに端的に刹那に声を掛けて彼女がオーダーしていたアップルパイとコーヒーを机に置くと刹那はこの店に安室がいることを忘れていたのかはっとして気まずそうな顔をしてお礼を言う。


「蘭さんたちは何してたの?」
「刹那さんに勉強を教えてもらってたのよ」
「へー!そうだったんだ!」


 そんな様子に気付いていない歩美は蘭達に問いかけると蘭は優しく少女の問いかけに答えると歩美は目を見開いて驚いていた。


「刹那さんって何でも出来るんですね!」
「そんなことないよ…苦手なことくらいあるよ」
「マジかよ!何が苦手なんだよ」


 蘭の言葉に光彦は目をぱちくりさせてながらも彼女を尊敬のまなざしを向けて言葉を掛けるが、刹那は眉を下げて困った顔をしながら少年に言葉を返した。
 彼女に苦手なことがあること言った言葉をすぐさま元太は拾い上げて何が苦手なのかを問いかける。


(意外だな…刹那さんに苦手なもんがあるの)
「……り」
「へ?」


 コナンも意外だったのか興味津々に彼女から紡がれる言葉を待機していると何故か安室もこっそりその場におり、彼女の言葉を待っていた。
 彼女は目を逸らしながら小さく呟くが、その声が小さすぎて聞き取れなかったコナンは素っ頓狂な声を上げる。


「……料理」
「あら、女として致命的ね」
「だよねー」
 

 少し黙っていた刹那にその場にいる者は彼女へ耳を傾ける様に近づくと彼女はもう一度先程より大きな声で苦手なことを言った。
 哀は腕を組みながら彼女を突き刺すような一言を呟くと刹那は頭と垂れて少女の言葉に同意した。


「料理くらいできる様になんねーと彼氏作れねーぞ」
「出来てるんだけど、…美味しくないんだよね」
「失礼ですが、レシピ通り作ってますか?」


 元太が急に心配するように眉下げて刹那に言葉を掛けると刹那はうーんと唸りながら首を傾げて少年に言葉を返す。
思わず会話に加わった安室は彼女に眉下げて笑い掛けながら問いかけた。


「作ってるのにそれなんですよ、安室さん…」
「えー、レシピ通り作っても美味しくならないの?」

 安室にまで問いかけられてしまった刹那は少し低い声で嘆きのような声音で答えると歩美は眉下げて追い打ちをかけるように彼女に問いかけた。


「私はならないのー」
「良ければ教えましょうか?」
「は…?」

 刹那は拗ねた顔をして少女の問いかけに返答すると彼女の頭上からまさかの申し出が掛けられて刹那は目を見開いて驚きながら安室をじっと見つめた。
 恐らく彼目当てのこの喫茶店の客からすれば飛びつく申し出だろう。


「僕で良ければ教えますよ、料理」
「安室さんは料理上手ですもんね!」
「え、でも、女子高生の報復が怖いから遠慮しま…」
「安室さーん!厨房お願いしますー!」


 安室はにこっと笑ってもう一度同じ言葉を切にに掛けると蘭が両手を合わせて良い案だとばかりに笑顔を見せる。
 刹那は頬を引く付かせて安室の申し出を断ろうとするが、彼女の言葉は遠くから安室を呼ぶ梓の声に遮られてしまった。


「あ、分かりました!それじゃまた」


 梓に呼ばれた安室は梓に言葉を返すと彼は刹那に断った言葉を聞かなかったことのようにしてその場を去る。


「……どういう流れ?」
「安室さんと料理教室の流れじゃない?」
「はあああ…余計なことを…」


 去って行った安室を茫然と見ていた刹那は状況が読めずにポツリと言葉を零すとコナンが彼女を見ながら彼女の問いかけに答える。
 刹那はテーブルに肘を付いてがっくりと頭を下げると深いため息を付いてぼそっと言葉を零した。


(ははっ、あの安室さんをそう言うあんたも凄いけどな)
(どんっどん関わりが深くなる…私、平凡に暮らしたい…)


 彼女の零した言葉に呆れたような顔をしてコナンは心の中で突っ込みを入れるが、刹那は極力関わりたくないと日ごろから思っている人物とかかわりを深くなっている事実に心の中で嘆いていた。




まさかの
 
 ―約束事が増えてしまった―




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