8話






「んー…終わり!」


 蘭と勉強会をした翌日、刹那は本業をするために部屋に引き籠っており、カチャカチャとPCで作業をしていたが、保存ボタンをクリックして背もたれに寄りかかって伸びをする。
 どうやら仕事はひと段落ついたようだ。


(…最近本トにあっちの協力ないんだけど、いいのかな…まあ、連絡がないってことは順調なんだろうな…ない方が嬉しいんだけどここ最近多かったからなー…)
「慣れっておっそろしいわ」


 ふうと息を吐いた刹那は床に置いていたペットボトルと手に取って口付けて降谷からの連絡がないことに疑問を感じていたが、いいことだと思い込むことにした。
 色々調べさせられる機会が多かったのか慣れてしまっている自分に思わず思っていたことが口から零れ落ちてしまった。


「げ、もう21時!?急がないと…間に合わないじゃん!!」

 スマホの時間を見ると21時を少し回っていて彼女は思わず目を見開いて声を上げて驚くとPCをシャットダウンしていた部屋を出ると鍵を閉めて階段を上がっていく。


(私っていつもギリギリだよなぁ…)


 刹那は自分の行動をまるで他人事のように観察して支度をしては家を飛び出した。



◇◇◇
 


「……ま、間に合った!!」
「おー…遅刻魔が一分前に到着した」
「正確には21時59分31秒です!」


 家から旧校舎…E組の学び舎までフリーランニングして辿り着くとダッシュで教室に滑り込むように入った刹那は壁に手を付いて宣言をする。
 彼女の姿を見た杉野が眉下げて言葉を零すと渚が持っていたスマホに現れたモバイル律はにこっと笑いながら正確な時間をクラスメイト達に伝えた。


「律…そこまで正確に測らなくて良いから……」
「あははは…」
「そろそろ自分の席に着こう」


 ぜぇぜぇと息を整えている刹那は律に言葉を掛けるとお渚は困ったように眉下げて笑うと磯貝はクラスメイトに声を掛ける。
 流石クラス委員長だっただけあり、統率力はご健在のようだ。


「皆、よく集まってくれた」
(…集まれる人だけでいいと言ったが、まさか全員来てくれるとはな)


 教室に現れた烏間は教壇に立つと元教え子たちの姿を見て言葉を掛ける。
 集まれる人だけでいいと連絡した烏間だったが、この場には28名全員が集まっており、それに感動していた。


「君達に頼みがある」
「……」
「これは強制的ではない。君達には拒否権がある。あくまでも君達の意見を優先させるつもりだ」


 烏間は一言言葉を紡ぐと生徒達はじっと烏間を見つめ、言葉を続けて本題には入らずに前置きを話していく。


「私達を呼んだってことは殺せんせーに関すること…ですよね」
「!!」


 それに気が付いた刹那は手を上げて本題を切り出すと烏間は目を見開いて驚いた顔をした。


「本郷が言ってる通りなら俺達の答えは決まってます」
「そーっすよ」
「殺せんせーが関係してるなら私達で解決したいです」


 刹那の言葉に続き、磯貝が烏間に言葉を掛けると前原は磯貝の言葉に同意する。
 岡野も頷いてはっきり思いを烏間に伝えると皆、思いは同じなのだろう。
 クラスメイト達は黙って首を縦に振った。


「烏間先生、教えて下さい」
「……」
(俺達3人の生徒は…頼もしく成長したものだ)


 片岡が烏間に教えを扱ぐと烏間は黙ったまま教え子たちを見渡すと目を閉じてふっと生徒達の成長を喜ぶ。


「ことの始まりは1年前…厳重に保管されていた国家機密の重要書類が何者かの手によって盗まれた」
「「!!」」
「10年前…この世を去ったマッハ20の超生物に関する書類だ」


 彼は目を開けて本題に入るように言葉を紡ぎ始める。
 その言葉に生徒達は息を呑むと烏丸は言葉を続けてクラスメイト達がうすうす気づいているだろう言葉を紡いだ。


(…やっぱり、か)
「盗まれた書類がとある組織の元にあることが発覚した」
「その組織から奪い返せばいいんですね?」
 

 予想が確信に変わった刹那は視線を自身の机の上に下げると烏間は言葉を続けると磯貝は手を上げて烏間に問いかけた。


「そんな簡単な話じゃない。その組織は名を明かされていないが世界的組織…黒の組織と呼ばれている」
「え、…組織名も分からないんですか」
「ああ、相当深い闇の中だ…正直、この件に君たちを関わらせるのは不本意だが、超生物を熟知している君たちだ。協力を願いたいと国から依頼が来ている」


 しかし、烏間は首を横に振って否定の言葉を掛けると組織の説明をするとその言葉に驚いた生徒達はざわめく。
 生徒代表して木村が烏間に問いかけると烏間は頷いて眉間に皺を寄せて冷や汗を掻いて本音を零すが、国からの依頼を伝えなければいけない彼の仕事の責任もあった。


「それを聞いても俺達の気持ちは動かないっすよ」
「うん…あんなこともう起こしちゃいけない」
「私達みたいな悲しみを作り出さないためにも」


 前原はふっと笑って烏間に言葉を返すと倉橋が頷いて10年前のことを思い出したのか眉を下げて言葉を零す。
 彼女の言葉を継ぐように矢田も強い意志を見せて烏間に言葉を掛けると彼女の言葉にクラスメイト達は再び頷いた。


「…協力に感謝する。話を進めるが、その組織の幹部は全て酒のコードネームを与えられている」
「コードネームって分かってるのはあるんですか?」


 元教え子たちの意思の固さに烏間は頭を下げてお礼を言っては話を進めると中村は首を傾げて烏間に問いかける。


「律」
「はい!組織としてはボス…まだこの者は誰かとは判明しておりませんが、組織内ではボスを“あの方”と呼ばれることも多いようです。そして、組織の実行部隊のリーダー…コードネーム・ジン。この人物は“あの方”からの信頼も厚く、直接連絡を取り合えるようです。次にベルモット…情報収集や暗殺、取引などのサポートを行う組織の女性幹部で表の顔はハリウッドで活躍する自称29歳の人気二世女優・クリス・ヴィンヤード 。組織内での階級はかなり高い地位にあり、“あの方”のお気に入りとされていて“あの方”からは直接メールで指示を受けるほど目をかけられているそうです。次に…」
「ちょっと待った!!」


 烏間は律を呼ぶと彼女は懐かしの自律思考固定砲台姿で教壇の烏間の隣にいつの間にか現れた彼女は元気に返事をすると“黒の組織”と呼ばれた組織について説明を淡々としていくがその様子にクラスメイト達は段々顔を青くさせていく。
 まだ説明をしようとする律に前原が待ったを掛けた。


「前原さん、質問ですか?」
「それ以前にお前…なんで、危ない組織のリーダーとか女幹部の写真なんか持ってんだよ!?」


 律は首を傾げて前原に問いかけると眉下げて困った顔をしながら前原は彼女に声を荒げて問い掛ける。


「ちょこっとお邪魔してきました☆」
「「そんな簡単に入れちゃうもんなの!?」」
「私にかかれば!…と言いたいところですが、私が侵入できたのはコードネームを持っている人物の顔写真とほんの少しの詳細までです」


 律は前原の問いかけにとても軽く明るくお茶目に答えるとクラスメイト達から総突っ込みを受けた律は笑顔で肯定するが、すぐさま落ち込んだ顔をして言葉を零す。


((十分凄いんじゃ…))
「それに…ボスの片腕とされているラムと呼ばれる人物に関しては組織内でも姿もはっきりと分かられていないそうです。この人物のことはどんなに調べても曖昧な情報しか手に入りませんでした」


 しかし、彼女が落ち込んでいると言っても闇が深い組織に入り込んでそこまで情報を入手した律の凄さにクラスメイト達は冷や汗をかいて同じことを思った。
 律は冷静に更に深い闇があることをクラスメイト達に伝えるとクラスメイト達は固唾を飲む。


「プロジェクトのデータベースに侵入できた律でも調べられないって…」
「それ以外にもコードネームを持っている人物はいますが、多少抜粋しますね。あとで皆さんのスマホにデータを送ります。厳重に情報を保管するので基本施錠します。見る際は私に声を掛けてくだされば解錠します」
「それはありがたいな」


 殺せんせーを助け出すために宇宙ハイジャックの際、世界中の極秘研究を簡単に手に入れた律が調べきれないという現実に木村は困った顔をした。
 律は目を閉じて頷くと重要人物に関する情報以外は抜粋するようで情報の開示方法をクラスメイトたちに伝えると千葉は彼女の言葉にポツリと呟いた。


「次にこの組織に入り込んでいるNOCがいます」
「…それってスパイってことか?」
「はい。CIAからは水無怜奈。コードネームはキールという女性。FBIから赤井秀一。コードネームはライという男性。公安からは本名は降谷零。表向き探偵をやっているようで安室透と名乗っており、コードネームはバーボンという男性です。あともう1人の公安はスコッチというコードネームの方がいました。今はライとスコッチという人物は存在しません」
(…公安って降谷さんの同僚、よね)


 次に重要な情報としてNOCのことを律は伝えると磯貝は彼女の言葉に問いかける。
 律は磯貝の言葉を肯定するとNOCのメンバーを簡単に説明し始めるが、子4名のコードネームのうち二人は存在しないといううちの一人の公安のコードネームを聞いた刹那は固まった。


「…いないってまさか」
「消された、ということになります」
「「!!」」


 存在しないという律の言葉に三村は頬を引き攣らせて言葉を零すと率は憂いた目をして断言する。
 その彼女の言葉にクラスメイト達は目を見開いた。


(……というか、待って…あんた、こんなところまで首突っ込ん出たの…あの時の波長の揺れはこういうことだったのね)


 刹那は律の言葉に降谷零という人物の名前があったとこに机に肘を付いて頭を抱えて心の中で降谷零という人物に突っ込みを入れてる。
 以前、カマを掛けた時に微妙に揺れた波長の意味をやっと理解した彼女は深いため息を付いた。


「どーしたの、刹那」
「なんでもない…」


 隣の席で頭抱えて深いため息を付いている刹那に気付いたカルマは不思議そうに彼女に問いかけるが、刹那は言葉を誤魔化す。


「ねぇねぇ、この安室透って人!刹那の行きつけの店員さんだよね?」
「「え」」
「………」

 しかし、茅野は振り返って刹那の方を向いて問いかけると彼女の一言でその場の空気が固まった。
 できればそれに触れて欲しくなかった刹那は暗い表情を落として黙っていた。


「どーいうこと?刹那」
「……私の行きつけの店にたまたまアルバイトで入ってたの、その人」
 「え、なんのために?」


 怪訝そうな顔をしてカルマは刹那に問い掛けると刹那は固まったままカルマの問いかけに答える。
 彼女の返答に菅谷は不思議に思ったのか刹那に問いかけた。


「…そんなの分かるわけないじゃん。でも、毛利探偵の弟子やってるらしいよ」
「ふーん…」


 刹那はふぅと深いため息を吐いて首を横に振って彼の問いかけに答えては自分の持つ情報を一つクラスメイト達に公表するとあまり納得しない顔をしながらカルマは生返事をした。


「渚君とカルマ君、君達には潜入捜査をお願いしたい」
「え、僕達にですか?」
「まさかその黒の組織に入れとかじゃないよね?」


 烏間は会話に加わり、カルマと渚にまた別の依頼をするとその彼の言葉に驚いて渚は烏間に問いかける。
 カルマは面倒くさそうな顔をして潜入捜査の内容を問いかけた。


「流石にそれはしない。君達には帝丹高校に赴任して貰う」
「烏間せんせ…俺、官僚なんだけど」


 烏間は首を横に振ってカルマの問い掛けに否定すると潜入捜査の内容を話し始めるとカルマは半目になりながら何言ってるんだこの人はという目を向けて言葉を返す。


「ああ、承知の上だ。既に君の上にも話を通す算段は整えている」
「……仕事早いね」
「帝丹高校には有名な工藤新一という高校生探偵がいるんだが、ある日を境に姿を消してしまった」


 烏間は彼の意図を理解して問題ないとばかりにカルマに言葉を返すと彼は眉を下げて深くため息を付いて称賛の声を上げる。
 烏間は話の軌道を戻して渚とカルマに潜入捜査の内容を話した。


「それと俺の赴任、何が関係あるのー?」
「そして、入れ替わりのようにある少年が毛利探偵事務所で居候になっている。少年の名前は江戸川コナン。少年が毛利事務所に転がり込んでから毛利小五郎の名が世に轟き始めた」


 烏間の言葉にいまいち意図が読めないカルマは首を傾げて問いかけると烏丸は更に言葉を続ける。


「その、工藤新一君と江戸川コナン君が何か関係があるんですか?」
「ああ、彼は今回、我々のターゲット…黒の組織に関わり、毒薬…アポトキシン4869を飲まされ体が縮んでしまっているらしいが、その事は組織にまだバレていないようだ。彼の幼馴染である毛利蘭への接触を試みて欲しい」


 戸惑った顔をしながら渚は烏間に問い掛けると烏間は頷いては工藤新一と江戸川コナンについて説明すると渚とカルマに潜入捜査を依頼する意図を話した。


「いや、体が縮んだって…」
「ありかよ……」
「まあ、人間が超生物タコになるから…ありかもね」
(って、あの子供らしくない波長はそういうこと…というか、私の周りがどんどん平凡じゃなくなっていく…)


 しかし、元教え子たちはその情報よりも体が縮んで子供になったことにあり得ないとばかりにざわつく。
 刹那は冷静に殺せんせーのことがあるから縮まるのもありだと思ったのか彼女は冷静に言葉を紡ぐが、江戸川コナンが工藤新一だと言う真実を知った刹那は平凡じゃない周りに気を重くしていた。


「なるほどねー…まあ、教諭免許は取ってるからいいけど」
「お前、相変わらずスペック高いな」
「僕は元々帝丹高校の配属が決まってたので問題ありません」


 烏間の意図を理解したカルマは手をひらひらとさせて了承すると千葉は後ろを振り向いてカルマに言葉を掛ける。
 渚も手を上げて烏間に了承の声を掛けた。


「あれ、渚…極楽学園じゃないんだ?」
「うん。英語教諭が重い病気になったらしくて急きょ異動になったんだ」
「へー……あれ、蘭ちゃんって」


 渚の言葉に疑問に思った茅野は不思議そうに彼に問いかけると渚は首を縦に振って眉下げて茅野の疑問に返答した。
 茅野は彼の返答に納得すると“毛利蘭”という名前に聞き覚えがあったようで後ろの席にいるであろう刹那を見る。


「……何で私の周りが関わりあるんだろう…私の平凡、あれ…平凡ってなんだっけ?」
「刹那ちゃん…?」


 刹那は暗い顔をして頬を引きつかせてぼそぼそと言葉呟いていると彼女の前の席に座っている奥村が彼女の方を振り向いて眉下げて戸惑った顔をしていた。


「とにかく世界的にも敵視している組織だ。皆、分かっていると思うが深追いはするな。追って指示はする」
「「はい!!」」


 烏間はすぅっと息を吸って元教え子たちの気を引き締める様に言葉を掛けると彼らは声をそろえて烏間の指示に返事をした。
 こうして椚ヶ丘中学E組卒業生…エンドのE組は別の形で再度発足された。


(次のターゲットは黒の組織。絶対に…殺せんせーのような悲しい人を、その人を取り巻く人達の悲しみを作り出さないために)


 刹那は瞳を揺らしてふと教室の窓から見える自らの重力で球形にまとまろうと形を崩している月をじっと見つめていた。




エンドのE組

 ―再始動開始のベルが鳴る―




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