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「っていうことでやらないか!!」
「やりません」


 学校の授業が終わり、静かな家のソファで対面し合う二人の男女。男はすぅっと息を深く吸い込んで真剣な顔で申し出した。
 何をやるか、面白いぐらい目的語が抜けているというのに即答で返される答えは棄却。藤花の視線はとても冷ややかだ。


「そうか………」
「ねえ、炭治郎……善逸に感化されてない?」


 嫌がっているのが見るからにわかる上に彼は嗅覚が優れている。
 手に取るように彼女の気持ちが分かるのだろう。でも、しゅんとした顔をして頭を垂れた。
 その姿はまるで見知った友人に重なる部分があったらしい。藤花は呆れた顔をして問いかける。


「………………」
「その顔……気持ちは分かるけど、善逸に失礼だから」


 女の子と見れば、ずっと目をで追いかけている男・我妻善逸。
 彼に影響されていると言われて嬉しくはなかったようだ。何とも言えない顔をしたまま、彼女を見つめる。
 顔で訴える炭治郎に藤花は深いため息を付き、ポンと肩を叩いた。


「でも、善逸が恋人同士は11月11日にポッ○ーゲームをするもんだって言ってたんだ」
「それは善逸の妄想」


 炭治郎はぷくっと頬を膨らませてなかなか話に乗ってくれない彼女にやろうと言っていた物を見せながら、言葉を返す。
 どうやら、やろうと言っていたことはポ○キーゲームのことだったらしい。
 純粋で素直な彼は友人の言葉を信じ、恋人の行事だと思ったのだろう。しかし、藤花は冷たくバッサリと切り捨てるだけだ。


「…………」
「普通にポッ○ー食べるだけでいいでしょ……」
「………」


 まだ納得してないのか。炭治郎は頬を膨らませて訴え続けているが、彼女は見てみぬふりをして彼の手の中からお菓子の箱を取り上げ、切り取り線を摘まんでびりびりと破く。
 箱の中には二袋入っており、その一つを手に取って袋を開ければ藤花は一本のポッ○ーを口に入れた。
 炭治郎はじーっとその行動を見つめる。それは彼女の様子を伺うように。


「……何、炭治ろ………!」


 刺さる視線に半目になって彼の方へと顔を向けて声をかけようとすれば、目の前が暗くなる。
 否、ソファの背もたれに手を置いて藤花の加えているポッ○ーを喰らいにいく炭治郎のお陰で目の前には端正な顔がすぐ近くにあった。
 それは無理矢理行動に出るとは思っていなかった油断から生まれたモノなのだろう。彼女は心臓をドクンっと高鳴らせ、目を大きく見開く。
 まあ、誰だって予想外のことが起きればこうなる。当然の反応と言って良いかもしれない。


「………美味しいな!」
「…………こんのバカ!」
「ぶっ……!」


 口が触れるか触れないかのところでポキッと折れれば、咀嚼をしながら笑顔を見せた。
 お菓子の感想を呑気にいう炭治郎に怒りが湧いてきたのか。彼女は肩を、声を震わせ、顔を真っ赤にさせては自分の隣に置いてあったクッションを顔面目がけて投げる。
 それは彼の顔面に命中し、情けない声が漏れた。ポトッと顔からクッションが落ちると鼻頭が赤くなっている。


「キスはもうしたんだ。そんな照れなくてもいいだろう?」
「ああ……もう!本当に炭治郎!!」
「……俺は炭治郎だからな?」


 鼻頭を触りながら、困ったように眉を下げて問いかける彼に藤花は勝てる気がしないのか。熱い顔を両手で覆っては文句を言った。
 それはもう文句と言うのも怪しいが、彼女にとって精一杯のものだったのかもしれない。だがしかし、それは当の本人には藤花の言っている意味を理解していないらしい。キョトンとした顔をして首を傾げたのだった。



【2020年11月web拍手文より】




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