五話





「ふわあ……今日は快晴だねぇ」
「よォ…」


 寝室の方から何やら音が聞こえてくると真実はパチッと目を開け、上半身を起こして体の筋肉をほぐすために天井に向けて両手を上げながら、欠伸をする。そして、ソファから起き上がればカーテンをバッと開けた。
 青々とした海を気持ちよさそうにゆっくり泳ぐ雲の姿を目にした彼女は目を補足して年寄りのように感心した言葉を零す。
 ガチャっと扉が開く音がすれば、テノールの声が聞こえてきた。


「おはよ〜…」
「今日はどうするんだ?」
「んー…ネットにも何も情報なかったもんね」


 声のする方へと顔を向ければ、Tシャツを上げて腹をかきながらリビングに現れた居候の宇随。
 寝ぼけた姿でもイケメンはイケメンだ。
 それを改めて思い知った真実は挨拶を返すと彼からは不思議そうに首を傾げた。
 どうやら、昨日はスマートフォンの扱い方を教えたのちにネットで”鬼殺隊”のことを調べていたらしい。しかし、有益な情報を得られることはなかった。だからこそ、次の手を促すために問いかけていたようだ。


「図書館に行こう」
「と…しょかん?」
「本が沢山あって借りられる場所が近くにあるの」


 唸り続ける彼女は非常に面倒くさそうな表情をしている。
 眉間のシワはこれでもかと言うほど、深く刻まれていた。
 深いため息を吐き出したのち、右手の手のひらを上にし、左手で拳を作ればポンと両手を重ねて宇髄の質問に対して返答する。また聞き慣れない言葉が出てきた彼は眉根を寄せて、反対側に首を傾けた。
 このやり取りはもう何度目のことなのだろうか。真実はもう慣れたかのように簡潔に説明をするとリビングから見えるキッチンへと移動する。


「昨日スマホとやらで調べても出なかったのに本に書いてあるもんか?」
「もしかしたら、すっごーく古くて本にしか書いてないことなのかもしれないじゃない。非公式の組織なんでしょ?」


 ネットで調べて何も情報が出て来なかったモノが本に書かれているものか。この疑問を捨て去ることは出来ないのだろう。
 彼は腕を組みながら問いかけると彼女は冷蔵庫から2Lペットボトルを取り出し、グラスを二つ出せば、そこにお茶を注ぎながら、宇髄の疑念に対する答えを出した。そして、確認するように問いを投げ返す。


「まあ、確かにそうだが……」
「ダメ元だけど調べないよりマシでしょ?」
「…そうだな」


 彼女の言い分には一理ある。そう思ったのか、彼は眉を寄せているところを見るとあまり腑に落ちていなさそうだ。
 真実もまた彼の不安を分かっているが行動しないよりマシだと思っての言動であることを伝えれば、宇髄は納得せざるおえないらしい。諦めたようにこくりと頷いた。


「だから、ご飯食べて図書館に行って調べてみよ……っと、あ!」
「なんだよ」


 彼女はお茶を注いだコップを持ってリビングに戻れば彼にコップを渡しながら、決定しようとしたが、ひとつ思い出したことがあったようだ。
 大きな声を上げれば、彼はうるさそうにまゆをひそめ、返事をする。


「もしかしたら、私の知り合いに会うかもしれないじゃない」
「ああ」


 真実は非常に困ったような顔をして確認するように言葉を紡ぐと宇髄はこくりと頷き、コップを受け取った。


「で、私たちの関係を確実に聞かれるわけよ」
「だろうな」


 彼女は自分のコップに口を付け、喉を潤し、その続きを冷静に言葉にすれば、彼もまた同じように同意を示す。


「……社畜の私が彼氏いるなんて無理があるから…小さい頃良く遊んでた遠い親戚の人で、どう?」
「いーんじゃねえか?でも、お前の家にいるのは不審がられるんじゃ…」
「そう!そこよね、そこの矛盾を消さないと……記憶喪失にしちゃう?」
「……ぶっ飛んだ方向にいくな」


 ぐるぐると頭を回し、言い訳らしい言い訳を顎に手を添えて考えた結果を首を傾げて提案した。
 宇髄は提示されたものが悪くないと思えたらしい。しかし、不審がられる可能性がある問題はいくつもあった。
 それをどうするのかを問いかけると彼女はビシッと人差し指を指してまたもや考え込むが、考えるのが面倒になったのか。
 真実が出した提案は突拍子もない。
 宇髄はその問いに頬を引き攣らせ、ボソッと言葉を零す。


「派手好きでしょ?」
「そこに派手を求めてねぇよ」
「それで宇髄くんの両親が海外赴任で心配だから仲良かった私の元に来たってことにしよ」
「人の話聞いてねぇ上に無理ありすぎねぇか?」


 驚いた顔をする彼にびっくりしたのか。彼女はキョトンとした顔をして反対側に首を傾げれば、宇髄は呆れたようにため息を付き、首を横に振った。だが、真実は彼の言葉を聞いているのか、いないのか。
 いや、右から左へと聞き流しているのが正しいかもしれない。
 宇髄の言い分を聞くこともなく、確定したことのように言えば、納得したようにうんうんと頷いた。
 その彼女に振り回されている自覚があるのか、彼は眉を八の字にして問いかける。彼の言い分は最もと言えるだろう。


「無理があるのはわかってるけど、押し通す!」
「…………まあ、アンタがいいならいいがな」
「遠い親戚だけど仲良し設定だから下の名前で呼ばなきゃか……抵抗ある?」


 彼の疑問に無理があるのは重々承知の上らしい。真実はぐっと拳を握り、力づく作戦を決行すると言えば、もう何も言うことはないようだ。
 なるようになれ。
 宇髄はもはや、投げやりに納得すると彼女は自分の中でどんどん設定を組み立てていく。
 ひとつ、心配事があったらしく、彼に問いかけた。


「別にねぇよ」
「じゃ、人前では天元くんって呼ばせてもらうね」
「………おう」


 宇髄は適当に答えると真実は目を細めて言葉を口にする。
 天元様。
 これならば、よく言われているから馴染はあるのだろう。だが、彼女から呼ばれるのは初めてなのかもしれない。
 呼び慣れていないそれにこそばゆい気持ちなりながら、返事をした。


「よし!じゃ、ご飯さっさと食べて動きましょ!そして、私は早く帰ってきて睡眠を取ります!」
「お前、どんだけ寝れば気が済むんだよ」


 真実はコップをテーブルに置けば両手をパンッと叩いてニッと笑みを浮かべると次の行動に出る。
 彼女の発言と言い、この約一日半で眠っている率が高いことに彼はげんなりした顔をした。
 うら若き女が遊びもせずに寝ることしか考えていないのだから無理もないかもしれない。


「社畜に2連休なんて奇跡が起きたのよ。寝溜めないで何をしろって言うのよ」
「………」


 それ以外にやることは特にないらしい。当の本人は眉根を寄せて両手を腰に当てながら、呆れたように言葉を零すと彼はもはや何かを言うことを諦めたか。ぽかんと口を開けて見つめていた。
 呆れてものが言えぬとはこういうことをいうのだろう。


「あ、そういえば明日から仕事で帰って来れないかもしれないし、帰ってきても遅いかもしれないから夜はYberEATSユーバーイーツの練習しよ」
「んだよ、ゆーばーいーつって…」


 彼女はそんな彼を気にも留めずにまたキッチンに向かおうとするが、くるっと後ろを振り向いて宇髄に指を差す。
 また新たに出てきたワードに彼はげんなりした顔をして質問した。

 真実といると次から次へと聞き慣れない単語を耳にする。
 仕方がないとはいえ、なかなか慣れるものではないようだ。


「ご飯を注文して配達してもらうのよ」
「訳分からねぇが任せた」
「いや、宇髄くんが1人で出来なきゃ意味ないんだからちゃんと覚えてね」


 彼女はニッと口角を上げれば、先ほどの言葉を簡潔に説明する。
 考えるのもめんどくさくなったのか。適当に合わせたように言葉を紡ぐが、そこは適当に流されるのは困るようだ。
 真実は眉根を寄せ、冷静にツッコミを入れたのだった。



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