拾弐話




(まずい…来た!珱姫を攫いに…!!)

 
 胡蝶は周りを気にすることもなくバタバタと足音を立てながら廊下を走る。そんな彼女の頬には一雫が滴っていた。顔色も悪い彼女は焦っているようで珱姫のいる部屋の襖を荒々しく開ける。

 
「珱姫!」
「胡蝶!?どうしたのですか…そんなに慌てて…」

 
 襖を開けると彼女は珱姫を見ながら彼女の名前を呼んだ。慌ただしく現れた彼女に珱姫は驚きつつも彼女の方を向く。珱姫は彼女が慌てている姿なんて珍しいのか戸惑った表情していた。


「話をしている暇ない!とにかく逃げよう!」
「に、逃げるってどこに…」


 胡蝶は珱姫の側まで歩み寄ると彼女の腕を掴み、彼女を立ち上がるように引っ張りあげようとしながら言葉を紡ぐ。切羽詰まった言い方に彼女の行動に珱姫は更に戸惑ったように言葉を詰まらせた。

 
「お願い!今は私を信じて逃…」
「それはいかんなぁ〜〜〜」
「っ…!」
 

 戸惑いながら立ち上がった珱姫に胡蝶は今まで見せたことの無い表情を見せながら珱姫に言い聞かせる。命の危機が迫っているからか胡蝶は今まで珱姫に接してきたような口調ではなく、本来の口調に戻っていた。しかし、彼女が言葉を紡ぎ終わる前にドスの効いた地を這うような声が遮る。その声にハッとした胡蝶は声のする方へ振り返るとそこには身分の高そうな着物を着ている男が二人現れた。


「…近づくな」
「随分威勢のいい護衛だなぁ〜」
「お主は…陰陽師……いや、違うな…む!月の姫か!」 
 

 胡蝶は珱姫を背に隠すように庇うと女性にしては低い声を出して威嚇するように言葉を放つ。そして、鋭い眼光で睨みつけた。
 珱姫を庇う彼女を物珍しそうに蛙のような顔をした男が目を細め、見つめる。そして、ひとつの答えを導き出すと喜々しとた声を上げた。
 

「そんな名を名乗った覚えはないが?」
「まさか珱姫と共におるなんて思いもせんかったわ」


 胡蝶は蛙のような男から目をそらさずに男の言葉を否定する。彼女は緊張からか冷や汗をかいていた。
 しかし、男は彼女の言葉を無視すると良い収穫ができたとばかりに喜びの声を上げる。

 
「くどい!」
「これは良い報告ができるわい!連れていくぞ」
(人の話を…)
 

 胡蝶は自身の言葉を無視する男に声を荒らげて言葉を吐くがまたもや男は聞きもせずに頬を赤らめて嬉しそうに言葉を紡いだ。
 どうやら、胡蝶の存在は中々に貴重な存在として京に広まっているらしい。聞く耳持たない男に胡蝶は唇を噛み締めながら睨みつける。
  

「違わないだろう?」
「…っ、!」
(確かこいつ、…心を読む妖だった)
 

 蛙のような男はニヤリと口角を上げて不気味に笑いながら胡蝶へ問い掛けた。まるで全てを見通しているかのように。
 彼女は男のその反応にはっとすると眉間に皺を寄せながら男を睨む。どうやら彼女は男の正体を知っていたようだ。

 
「ほぉ…わしが何かを分かっているとは…流石月の姫…」
「だから違うっ……!!」
 

 男は目を細めてじとりと胡蝶を見つめながら彼女を賞賛する言葉を紡ぐ。彼女はイライラした声音で否定すると目を離していた隙にもう1人の背の高い男が目の前に現れて詰め寄っていた。
 

「珱姫も月の姫も〜〜〜連れていくぅ〜〜〜」
(しまっ…!)
 

 背の高い男は彼女らに襲いかかりながら言葉を吐く。胡蝶は秀元に貰っていた鬼霧丸を取り出して対抗しようとするが出すタイミングが遅く、刀を持っていた手を攻撃された。そして、刀は鞘から抜かれることなく宙を舞い、彼女の傍から離れた所へと着地する。彼女は身を守るものが無くなると意識を失ってしまった。
 


――舞台は
 着実に整えられた


ALICE+